次世代リーダー育成で、アジアに根ざす企業へ 〜 アイシン×リブ・コンサルティング特別対談

THAIBIZ No.164 2025年8月発行

THAIBIZ No.164 2025年8月発行在タイ日系製造業の変革 日新電機タイが変われた理由

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次世代リーダー育成で、アジアに根ざす企業へ 〜 アイシン×リブ・コンサルティング特別対談

公開日 2025.08.08 Sponsored

日系自動車部品大手アイシングループはASEAN地域でのプレゼンス強化に向けて、次世代ナショナルスタッフリーダーの育成と現地化を進めている。地域に根ざす持続的な成長をどう実現するのか。アイシングループのASEAN統括会社アイシン・アジア・パシフィックの北里憲之社長と、同社の人材育成プログラム「GMアカデミー」を支援するリブ・コンサルティング(タイランド)代表の香月義嗣氏に、自動車業界の展望やグローバルで生き残っていくための人材戦略について話を聞いた。

「日本企業」から「アジアに根づく企業」へ

1965年に愛知工業株式会社と新川工業株式会社の合併により誕生したアイシン精機(現アイシン)は、現在20を超える国と地域に従業員数約12万人を抱える自動車部品のグローバルサプライヤーだ。ASEAN域内では、タイやインドネシアを中心に29の拠点を構え、従業員数は1万8,000人以上に達している。

タイにおける2024年の自動車市場は、国内経済の状況や自動車ローン厳格化の影響により、新車販売台数が前年比26%減の約57万台、生産台数が前年比19.9%減の約147万台と2年連続で減少傾向である。

こうした厳しい状況の中、同地域での企業のあり方について北里社長は「過去20〜30年にわたり、ASEANの各国・地域で現地の方々と、事業運営とともに地域発展を常々考え、活動させていただいており、日頃から感謝とリスペクトをもって接しなければならない」と語る。

一方で、「自動車業界が大きく変革していく中で、変化に対応しながら持続的に発展することを前提に、地域に貢献していくことが目標である。そのためには、他地域に後れをとっているマネジメントの現地化をより一層強化していく必要がある」と強調する。

次世代リーダー育成で、アジアに根ざす企業へ
アイシン・アジア・パシフィックの北里憲之社長

柔軟な経営戦略で予測不能な時代に備える

「自動車業界は今後どのように変化していくのか、またその変化に対してアイシングループとしてどのように向き合っていくのか」と香月氏が問いかけると、北里社長は「未来は誰にも予測できないが、カーボンニュートラル達成に向けクリーンエネルギーへシフトしていくという世界的な潮流で、自動車業界も電動化へ少しずつシフトしていく。しかし、その進み方やスピードは、政策やインフラ、税制度などの要因で国によって異なる」とした上で、「われわれとしては、顧客ニーズをつかみながらどの道筋でも柔軟に対応できるよう『フルラインナップ』体制を整え、効率的にシフトしていく必要がある」と説明する。

一方で、「タイでの事業運営については、これまでは安価な労働力を活用し、日本本社主体のマネジメントだった。しかし、タイの産業構造や人材の質は着実に向上しており、今後はナショナルスタッフが中心となって経営に関わるべきだ」と強調した。

とはいえ、課題も残る。同社長は「タイ人の国民性は朗らかで協調的だが、上司に対して遠慮の気持ちが働き、『待ち』の姿勢が多い。経営の現地化には『日本側が受け入れる体制を整えること』と『タイ人が主体的に前に出る姿勢を持つこと』の双方が揃って初めて加速する」と見解を述べた。

現地化の推進は思い切った登用が鍵

さらに香月氏が「アイシンのインドネシアの拠点ではすでにインドネシア人の社長が輩出されているが、タイの現地マネジメントの目標時期は」と尋ねると、北里社長は「生産拠点の経営者は今後3〜5年の間に現地化を目指している」と明言。

ただし、同社長が担うような統括拠点の経営ポジションについては、日本側との密な連携が求められることから、もう少し時間がかかると見通す。しかし、「完璧に育つのを待っていては、タイミングを逃してしまう。ある程度の段階で思い切った登用を行い、挑戦するきっかけを提供していきたい」と現地化に対する強い意志をにじませた。

「では現地化を進める中で、日本人経営者に求められる役割とは何か」という香月氏の問いかけに対し、北里社長は「生産現場においては高い専門性が不可欠であり、生産拠点を担う経営者は、日本で培った経験と知見を持ちながら、生産現場の競争力を高めていくことが求められる。そのため日本人経営者は、そうした見極めができる現地の人材を育てて、役割を託していくことだ」と説明した。

ASEAN地域統括としてのタイ

東南アジアでEV化の波が押し寄せる中、アイシングループにとって、タイは今後もASEANのハブとしてあり続けるのだろうか。

北里社長は「現時点では、ASEANの地域統括にはタイが最適だと考えている。サプライチェーンをはじめ、長年にわたって日系企業が築き上げてきた裾野の広い自動車産業の基盤があり、それを支える人材の層も厚いからだ」と強調した上で、「タイは少子高齢化が進み自動車販売台数も低下しているが、今後10年以内に大きく構造が変わるとは考えにくく、しばらくはタイがASEANの統括拠点として機能していくだろう」と見通しを示した。

選ばれる企業であり続けるには

次世代リーダー育成で、アジアに根ざす企業へ
リブ・コンサルティング(タイランド)代表の香月義嗣氏

対談の終盤には、自動車業界では避けて通れない中国系OEMの話題が上がった。香月氏は「タイでは数年前は中国企業の人材の引き抜きが多く、競争も激しかった」と振り返りつつ、現在の状況と今後の人材マネジメントのあり方について北里社長の見解を求めた。

北里社長は「われわれのグループでもヘッドハンティングの話を持ちかけられたという従業員の話を聞くことがある。正直、3倍の給与額を提示されれば、誰しも心が揺らぐだろう。引き抜きを100%防ぐのは難しい。だからこそ『この会社で働きたい、この仲間と働きたい』と思ってもらえる組織・風土づくりを目指している」とした上で、「福利厚生や待遇面の整備も不可欠だが、それ以上に個人がやりがいを感じながらワンチームとなり、地域・従業員から愛される企業となることが、これからの競争優位性を左右する鍵だ」と持論を述べた。

次世代リーダーの登竜門「GMアカデミー」

このような経営陣の意思を受け、アイシングループではナショナルスタッフ向けの次世代リーダー育成プログラム「GMアカデミー」を2023年にスタートさせた。同アカデミーを仕組みとして実装するために、リブ・コンサルティング(タイランド)が企画から参画し、同グループの経営と一体となって次世代のリーダー育成に向けて伴走している。

北里社長は同アカデミーについて「リーダーを育成するだけでなく、普段は接することのない他拠点の参加者同士が、共通の課題に向き合いながら対話を深め、互いの悩みや意見を交換することで連携を深めている」と評価。さらにグループ内の一定層以上のメンバーは、同アカデミーの存在を認識しており、「自分も参加したい」といった次世代人材のモチベーションの醸成にもつながるポジティブな連鎖が生まれつつあるという。

一方で、「自ら課題を見つけ、発信していく主体性をさらに引き出していくには、カリキュラムや場づくりに一層の工夫が求められる」と指摘し、リーダー育成強化に対するさらなる意欲を示した。

◎北里 憲之 氏
AISIN Asia Pacific Co., Ltd.
President

1989年アイシン精機(現アイシン)に入社。営業部門、生産管理部門を経験後、2008~2017年タイに駐在し、新会社の立ち上げや生産管理を担当。現在、2022年4月から2回目の赴任となり、地域本部長としてASEAN地域を統括。

◎香月 義嗣 氏
LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

東京大学工学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。2012年からリブコンサルティングにて勤務。東アジア・東南アジア各国で約180社、270プロジェクトのコンサルティング実績、約1万人への講演実績を持つ。2006~2017年まで韓国・ソウルに駐在後、2018年よりタイ・バンコクに駐在。

THAIBIZ編集部
岡部真由美

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