カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
連載: 経済ジャーナリスト・増田の眼
公開日 2022.07.12
今月5日、中国の王毅国務委員兼外相がタイのドーン副首相兼外相と会談するとともにプラユット首相を表敬訪問し、中国の経済圏構想「一帯一路」によるタイへの投資拡大など両国の経済関係の強化を確認した。特に東部経済回廊(EEC)での電気自動車(EV)と農業ビジネスへの投資、中国ラオス鉄道を通じたタイ中連結などが主要テーマだった。
タイの経済・社会の将来を左右するのはやはり中国なのかという命題はずっと変わっていない。約4年前にタイに最初に赴任する以前でも中国の上海汽車がCPグループと組んでタイ市場に進出するとのニュースは日本でも報じられ、強い記憶として残った。そして実際に駐在してからMGブランドの自動車があっという間に増えていったことを目の当たりにした。今号のFeatureでは倉庫・工業団地大手WHAグループのジャリーポーン最高経営責任者(CEO)のインタビューを掲載した。そこでもやはり一つの大きなテーマは中国の存在感の高まりだ。
「CEOには30億ドル未満の投資については私に話すらするなと言っている。投資額(110億バーツ)は第1段階に過ぎない。われわれはEECや『タイランド4.0』に刺激を受けている」
2018年4月中旬、中国の電子商取引(EC)最大手の阿里巴巴(アリババ)集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏(当時会長)がタイを訪問、バンコク中心街のホテルで開催した記者会見でこう明言し、タイへの継続的な投資を約束。また、アリババ傘下のECサイトに中国人に人気のドリアンを本格的に投入すると強調した。この時公約した投資がすべて実行されたかは確認していないが、バンコクでのイベントで、これほどの参加人数、その熱気は、新型コロナウイルス流行もあり、その後一度もなかったのではと思っている。
mediator のガンタトーンCEOは「日タイ関係の近未来予測」というコラムで、「中国が世界経済で弱体化したのは、過去2000年間のうち、わずか100年ほど。歴史から見ると中国が世界経済の覇者となることはなんら不思議ではない」と指摘。さらに、「日本語で日タイ関係に関する情報収集をしていると『135年間の友好関係』『外国企業の投資国No.1』『日本企業の集積地』『増え続ける日本食の店舗』『日本産食材・食品に対する需要の増加』など耳触りのよいことばかりを目にします。日本人が感じている『タイにおける日本』と、タイ人が認識している『日本』にはギャップがあると疑問に思ったことはないでしょうか」と語っている。
私もタイに赴任・取材する中で何度も聞いた表現が日本とタイの「蜜月関係」という言葉だった。ゴルフやカラオケなどでタイの日系企業コミュニティーの強固な関係を確認できるが、自戒も含めタイ人社会とどこまで緊密な関係を築けているのだろうかとも感じた。食い込めているのは昔からタイ財閥グループとの関係が深い大手商社、銀行、一部大手製造業ぐらいで、その他は日系サプライチェーンの中だけの「蜜月」ではないのかとも。
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が、東部ラヨン県の工場を中国の長城汽車(GWM)に売却すると発表したのが2020年2月のこと。その後、GWMタイランドのナロン社長は2021年2月の記者会見で、SUV(スポーツ用多目的車)「HAVAL」、EV「ORA」など4ブランドから9モデルをタイで発売する計画を発表。さらに、同年3月の「バンコク国際モーターショー2021」での販売車種お披露目の派手な演出が強く印象に残っている。その後、実際に販売が始まると、先行して着実にシェアを拡大しつつある上海汽車グループの「MG」ブランドに追随する形で、バンコク市内でHAVALを見かける機会が増えつつある。GWMによると、今年5月の「HAVAL H6」ハイブリッド車のタイでの販売台数は431台で、コンパクトSUVセグメントでは43.8%のシェアを獲得し、5カ月連続で首位を維持したと発表している。今年1~5月の累計引き渡し台数は1863台だった。
WHAグループのジャリーポーンCEOも今回のインタビューの中で、中国企業のタイ進出について、過去2年間だけをみると、中国の顧客比率は50~70%にまで達しているとした上で、「中国企業の動きは早く、投資クラスターとしてタイに進出している。親会社のタイ移転に追随して関連サプライチェーン企業などもタイに一緒に付いてきた」と指摘し、「日本が昔、タイに投資し始めた時の動きになっている」と表現している。
ガンタトーン氏は先の「近未来予測」のコラムの中で「街中を走る自動車の4~5割は中国メーカーに代わり、EVを支えるインフラをタイ大手が展開。バッテリー製造大手はタイと中国の合弁企業。日本の大手企業の製造拠点はベトナムなどに移管し・・・」などと在タイ日系企業にとって厳しいシナリオも提示している。現在、新型コロナウイルス流行の長期化で中国人来訪者は急減したままの状態が続いているが、中国人の訪問が本格再開した後には、バンコク、そしてタイ経済はどのような姿に変容していくのだろうか。
THAIBIZ Chief News Editor
増田 篤
一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。
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