タイ大林 ポーンチャイ社長インタビュー ~ブランド力向上、タイ人リーダー育成を重視~

タイ大林 ポーンチャイ社長インタビュー ~ブランド力向上、タイ人リーダー育成を重視~

公開日 2024.03.19

日本の大手建設会社である大林組のタイ現地法人Thai Obayashi Corporation Limited(タイ大林)は、1974年の設立と日本の建設会社としてはタイ進出最古参の1社だ。以来、タイ王室や地元企業とのつながりを強化し、バンコク市内の著名建築物を次々に手掛け、タイで最も成功した日本の建設会社として躍進している。2019年4月に2人目のタイ人社長に昇格したポーンチャイ・シッティヤコーン社長に、タイ事業の沿革や事業戦略、人材育成、バンコク不動産市場の動向、中国とのビジネスなどについて話を聞いた。

(インタビューは2月8日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

タイ大林のポーンチャイ社長(左)、mediatorのガンタトーンCEO(右)

当初は日系工場と高層ビルの建設が車の両輪

Q. タイ事業の沿革と事業戦略については

ポーンチャイ社長:大林組は1964年にタイへの日本企業の進出を支援するため、バンコク駐在員事務所を開設してタイ市場に参入した。その後、タイに進出する日系企業の工場建設を中心に事業を拡大し、1974年に大林組本社とバンコク銀行、サイアム・コマーシャル銀行(SCB)、タイ王室財産管理局、メトロ・グループなどを主要株主として「タイ大林」を設立した。初期のバンコク都内のプロジェクトではスラウォン通りのAIAビル、老舗ホテルのデュシタニ・バンコクや、バンコク銀行本店などがある。

事業戦略は当初、主に日系企業の工場建設と高層ビル建設が中核だった。工場建設事業のメリットは、建設期間が短く、管理しやすい。一方、高層ビルは会社のブランドイメージの向上に貢献した。最近のプロジェクトには、シントーン・ビレッジ、アイコン・サイアム、クイーンシリキット国際会議場(QSNCC)、タイ大林本社が入居するO-NESタワーなどがある。高層ビルは施工に時間がかかり、高い技術が必要だ。われわれは両方の事業を同時に請け負うことで、ブランド力を高めてきた。

O-NESタワー
バンコク中心部に、商業施設を備えるオフィスビルを建設する自社開発プロジェクト。大林グループが単独所有する最大の賃貸物件で、タイ大林の本社が入居する。RC コア・S 梁・CFT 柱のハイブリッド構造など、タイでは初導入となる技術を採用している。
クイーンシリキット国際会議場(QSNCC)
1989年に建設され、タイ王国シリキット王妃(現王太后)を称えて名づけられた、国際会議場の大規模リニューアル。従来の5倍の床面積で、タイ大林の実績として最大規模の施設。2022年11月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC 2022)では、首脳会議の会場になった。

現在の主要トレンドは商業用の高層ビルであり、当社もこの分野にも重点を置いており、国の目玉となる高層ビルプロジェクトにはなるべく関われるよう努めている。高層ビルは高度な施工技術が必要なため、当社の人材育成にも役立つというメリットもある。われわれは工事の品質、納期、安全性に非常に強いこだわりを持っており、お客様から信頼を得ている。

Q. 現在開発を進めているプロジェクトは

ポーンチャイ社長:タイ大林の前のオフィスだったナンタワンビルは契約終了に伴い取り壊されたが、われわれがまたその土地を入札して、開発の権利を獲得した。現在は施設用途を含めた基本計画を策定しているところだ。

日本の考え方を身につけたタイ人リーダーを育てる

Q. 人材育成体制と本社ノウハウの活用は

ポーンチャイ社長:技術的・経営管理的な専門知識を持つ人材を育てるため、優秀なタイ人社員を選んで、日本の本社での研修プログラムを実施している。彼らが幹部としてタイに戻り、タイ人スタッフに専門知識だけでなく大林組本社の考え方を伝え、社員のモチベーションを高めるためでもある。現在、われわれの上級幹部やプロジェクト・マネージャー、エンジニア、デザイナーなどのさまざまな職種のタイ人スタッフでも、日本語が上手な人が数多くいる。また、もし請け負った工事が難しく、タイでのノウハウだけでは足りない場合は、本社の協力を求め、日本からタイへノウハウを移転するよう取り組んでいる。

タイのインフラ開発は一貫性に課題

Q. タイのインフラ整備と不動産開発の動向については

ポーンチャイ社長:政府のインフラ開発は一貫性がない面もあると思う。例えば、前政権は東部経済回廊(EEC)を重視していたが、現在のセター政権はランドブリッジに重点を置いている。開発したプロジェクトを国の強みにできるか課題は多い。

また、現在の不動産市場では、民間の低・中価格帯の不動産は需要が減少しており、販売に苦労しているようだ。今、売れているのは高価格帯の不動産だけだ。もう1つのトレンドとして、タイと日本の不動産開発業者がジョイントベンチャーでプロジェクトを開発している。タイの不動産業者が土地を早めに購入して「ランドバンク」として保管し、交通インフラが整備されるのに合わせてビルを着工する事例が増えている。

環境保護は社員に理解してもらうことが大事

Q. 温室効果ガス排出量の削減など環境保護の取り組みは

ポーンチャイ社長:当社は、①本社ビル②工事現場③労働者の宿泊所④資機材ヤード-の4つのカテゴリーで温室効果ガス関連のデータを収集している。また、ゴミの分別にも取り組んでいるが、ただ「分別しなさい」と指示するだけでは難しく、まずその重要性を理解してもらうことが大事だ。われわれは社内や現場での研修などを通じて教育体制を整備している。

中国企業とは考え方のギャップがある

Q. 中国企業のタイ進出をどう見ているか

ポーンチャイ社長:中国人の考え方を学ぶために、中国に工場を持つ台湾系のプリント回路基板(PCB)メーカーの工場建設を請け負っている。中華系企業はわれわれとはかなり異なる考え方で仕事をしていることが分かった。今後、中国企業のタイへの進出により、中国系の建設会社も増えていき、競争相手になるだろう。

中国によるタイへの投資は続く

Q. 中国の不動産バブル崩壊のタイへの影響は

ポーンチャイ社長:これは国のイメージや信頼などに影響を与えるだろうが、経済への影響は民間企業に対するものに限られ、中国の国自体はまだ安定していると思う。将来に中国経済が復活するかは民間企業次第だ。不動産市場以外では、中国の投資はまだタイに入ってくると思う。

Q. 社長になるまでの経歴や経緯は

ポーンチャイ社長:チェンマイ大学を卒業し、1984年にタイ大林に入社した。その後、当時、東京・神田にあった大林組本社の工務部で2年間研修を受けた。タイに戻ってからは主に現場のエンジニアとして経験を積んできた。例えば、バンパインにあるミネベアミツミの工場、SCBパーク・プラザ、スワンナプーム空港、ワット・プラ・ダンマカヤなど、さまざまな現場を経験した。その後、管理職になってからの主な仕事は、会社が請け負ったすべての工事の計画立案、スケジュールや施工方法の管理だ。

建設部のゼネラル・マネージャーになって、副社長になるまではただ一生懸命働き続けた。そして、2019年に前社長のソンポン・チンタウォンワニッチ氏に呼ばれて、「次の社長になってほしい 」と言われた。実際に、タイ大林は組織としての現地化が進んでいたため、ソンポン氏の次の社長もタイ人にする予定だったようだ。

Appendix – タイ大林売上データ

直近3年の売上高(単位:百万バーツ)- 公開データを元にTJRI編集部で作成

TJRI編集部

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