世界経済犯罪実態調査から読み解く不正の傾向 ~タイにおける不正の実態~

ArayZ No.83 2018年11月発行

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世界経済犯罪実態調査から読み解く不正の傾向 ~タイにおける不正の実態~

公開日 2018.11.26

世界経済犯罪実態調査から読み解く不正の傾向
~タイにおける不正の実態~

1.不正の報告件数が大幅に増えていますが、本当に不正そのものが増えているのでしょうか。
2.タイ国内ではどのような不正が多く、なぜそれらが発生するのでしょうか

吉川 英一
Senior Manager

2013年にPwCアドバイザリー株式会社 (現PwCアドバイザリー合同会社)に入社。会計不正調査、海外腐敗行為防止法(FCPA)調査を含むフォレンジック領域において10年以上の経験を有する。2015年1月よりPwCタイに赴任し、東南アジアにおける日本人不正専門家の第一人者として、製造業、金融機関と多業種に亘りに、不正調査、不正検出データ分析、不正リスク管理体制の構築、サイバーセキュリティー業務を指揮している。米国公認会計士。日本証券アナリスト協会検定会員。公認不正検査士。

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近年、不正・不祥事や汚職などの法令違反等に関する報道が過熱の一途を辿っており、それら経済犯罪リスクへの対応は企業にとって喫緊の課題の一つとなっています。PwCでは、隔年で世界中の企業に対して「世界経済犯罪実態調査」を実施しており、この度、2018年度タイ版(日本語版は下記QRコードからダウンロード可)を発表いたしました。

今回は、その内容を掻い摘んでタイにおける不正の実態をご説明いたします。我々が定義する経済犯罪とは、いわゆる従業員による資産の横領などと言った不正行為に加え、贈収賄、不正競争、マネーロンダリングなどに係る法令違反やサイバー犯罪等を含みますが、本稿では便宜上、まとめて「不正」と呼ぶことにします。

不正・コンプライアンスに対する意識の向上により不正が表面化

本調査にはタイ国内から522名の方にご回答を頂きました。この数字は、前回2016年から大幅に増加し、国別回答者数は全123ヵ国中(7228名)で最も多く、同国における不正に対する意識が急速に向上していることが見て取れます。また、過去2年間に不正を経験したと答えた回答者は全体の48%に上り、2016年からほぼ倍増する結果となりました。

この上昇傾向は、タイのみならず、グローバルおよび東南アジア全域においても同様に見られますが、実際にこの数字が示すほどに不正行為そのものが増加したのでしょうか。もちろんサイバー犯罪などの新たな脅威が拡大していることも否定はできませんが、それ以上に今まで水面下で見えなかった不正が、企業の不正に対する認識の向上に伴って、発覚するようになったというのが実態なのではないでしょうか。今も昔も常に不正は企業内に潜んでいます。では、タイ国内における不正の状況を見てみましょう。


備考:東南アジアには、マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、タイを含む。

伝統的な内部不正の発生が多い一方、今後はサイバー犯罪が脅威となる

タイで最も一般的な不正は資産の横領であり、回答者の62%が過去2年間に資産の窃盗被害を受けたと回答しています。当該数値は、2016年に発表した前回調査の78%から16%減少しているものの、世界全体の45%と比較すると高い数値になっています。これは、製造業が多いというタイの産業構造を反映しており、企業による管理の目を掻い潜って工場内にある原材料等の有価物を窃盗するという原始的な不正が、依然としてタイ国内の企業にとって大きなリスクになっていることが分かります。

次に多いのが、40%が回答した事業活動に関する不適切な行為です。事業活動に関する不適切な行為とは、タイムシートへの虚偽記入や友好関係にある業者および従業員への便宜等の様々な不適切な行為を指し、世界平均の28%を大きく上回っております。その大きな理由に、タイの身内主義的な文化的背景や倫理観の未熟性があります。従って、それらを律する行動規範や不正防止関連規定の策定、十分な通達やトレーニングがなされていない場合、善悪の区別がないまま親族企業との取引に便宜を図り、結果的に、水増し発注やキックバックの受領、資産の横領といった、より深刻な不正に発展することも少なくありません。

筆者が実際に最も相談を受けるのが、三番目に多い現地従業員と調達先との癒着による購買不正です。多くの日本企業はタイに進出してからの歴史が比較的長く、その成長期を売上の拡大、生産体制の確保、品質向上などのオペレーション向上に尽くしてきました。その中で、プロセスや統制の構築を十分にせぬままに管理面を現地スタッフに過度に依存しまい、結果として多くの癒着が蔓延してしまっている現状があります。また、この種の不正は、特に経営陣の目が届きにくい副資材や一般購買などの非製造プロセスにおいて発生しやすく、知らず知らずのうちに利益を圧迫する原因にもなっているのです。

そのほかにも、汚職・贈収賄、顧客による不正、サイバー犯罪と企業を取り巻く不正は多々ありますが、企業は今後どのような不正に脅威を感じるのでしょうか。資産の横領や不適切行為を抑えて、サイバー犯罪が約30%と今後最も発生する可能性が高い不正になっており、各企業のサイバーリスクへの関心の高さが伺える結果になっています。
次回は、このような不正の実態に対して、企業が今どのように対応しているのか、そして取るべき対応は何なのかについて読み解いていきたいと思います。


出処:PwC世界経済犯罪実態調査2018

PricewaterhouseCoopers
Legal & Tax Consultants Ltd.
15th Floor Bangkok City Tower, 179/74-80
South Sathorn Road, Bangkok 10120, Thailand
Tel: 0 2344 1000

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THAIBIZ編集部

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