ArayZ No.85 2019年1月発行「ガラスの天井」を打破するタイ人女性
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カテゴリー: 組織・人事
公開日 2019.01.21
“人事とは経営のために存在する”。
幅広い業種・業界での人事採用を経て、日本で人材研究所を設立した曽和利光氏と、
タイ・バンコクを拠点に組織人事コンサルティング会社、アジアン・アイデンティティを経営する中村勝裕氏に、タイで求められる戦略人事についてお話を伺いました。
中村勝裕
愛知県出身。上智大学外国語学部卒後、ネスレ日本入社。その後、コンサルティング会社リンクアドモチベーション(東証一部上場)において組織変革コンサルタントとして数多くのプロジェクトに従事した後、GLOBIS ASIA PASIFIC において東南アジア各地における企業人材育成や、日本人の海外研修の企画や運営を担当。2014年よりタイに移住し、タイ人とともにAsian Identity Co. Ltdを設立。日本人とタイ人の混成チームで、日系企業の人材開発、組織活性化を支援するコンサルティングを行っている。
曽和 利光
愛知県出身。京都大学教育学部教育心理学科卒業後、株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。2011年に株式会社 人材研究所を設立。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。
中村 曽和さんとはこの2年間、企業の人事マネジャーと経営幹部の方を対象に、独自のカリキュラムを組んだ「HRカレッジ(人事の学校)」を開講してきて、累計受講者が150名を突破しました。
曽和 環境条件は日本とタイで異なりますが、人事に流行はなく、原理原則は変わらないことが分かりました。微調整は必要ですが、人をマネージメントすることは世界共通でタイにも当てはまります。
中村 人事には、人が変わっても組織は変わらない普遍性があることを講座で話しています。「あなたの会社に合った制度を構築することが、最適な人事です」 と。例えば、トヨタとグーグルの人事制度は大きく異なります。日本とタイのそれより距離感があります。
曽和 戦略人事の定義を改めて問うと、「事業の成長に貢献する人事」です。競争に勝ち残るためにどう人と組織を活用するかが、問われています。
中村 一方、戦略人事というのはバズワード(もっともらしいけれど実際には定義や意味があいまいな用語)と思っています。トヨタやグーグルもやっているからうちもやってみようと、流行に惑わされることがあります。
曽和 戦略の定義から考えると、他社と同じような組織づくりをしていたら、差別化・競争優位性にはつながりません。事業を推進するためには、戦略人事で差別化を図らなくてはなりません。
中村 人事担当者は横並びが好きで、社内規定を作るときに他社の福利厚生(営業手当など)などを気にします。流行りの人事制度や施策を取り入れることはやめて、自社の戦略に原理原則を組み合わせてやっていきましょう。
曽和 人事は本来、百花繚乱であるべきです。事なかれ主義で流行りを追っている時代ではありません。もっと経営意識を高めることが求められます。
中村 タイは人事のスペシャリストが多いです。玩具の「LEGO」社のブロックを例に挙げると、大事なのはブロック(人材)を活用して何を組み立てたいのかです。この人材は本当にわが社に合うのか、どの部署で働いてもらうべきなのか、は企業経営を理解していないといけません。ブロックを組み合わせて、どう経営に生かすか、を学ばないといつまでもブロックマニアのままです。
曽和 タイと異なる点として、日本ではジョブローテーション(例:営業⇐人事⇐営業など)が行われます。人事は手段に過ぎないことが分かっています。一方、タイは「人事のための人事」になっています。人事担当者は、より戦略人事を意識しなければならないと思います。原理原則に立ち戻って、現在の状況を理解しておかないと、会社全体で起きている変革についていけなくなります。
中村 日本人はタイ人とは逆で、作りたいものはあるが、ブロックが不足していると感じています。ただ、日本人幹部は、人事の経験がない方がほとんどです。受講者の方々からは、経営側の立場から人事を学ぶことができたと喜ぶ方が少なくありません。
曽和 内部流動性と外部流動性はトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態)です。社内で流動性が高まれば、退職者が減ります。社内でジョブローテーションをしっかりやれば、優秀な人材のリテンション(つなぎ止め)につながります。
中村 タイと日本では、ジョブローテーションの受け入れられ方が180度異なります。「タイでローテーションをしたら辞めますよ。リテンションにつながりません」とあるタイ人受講者に以前、反論されました。日本は就社型(職務を決めずに入社する雇用)で、タイはジョブ型(主にスペシャリストとしての専門性を評価する雇用)の雇用を前提としているからです。文化的には日本に近いが、導入されている人事システムや、勤労観・就労観が異なります。
曽和 キャリアアップするには、専門職で経験を積んでいくのが一番と考えているようです。ただ、経営者は、スーパーゼネラリストでなければなりません。日本でローテーションの対象となるのは幹部候補者。期待の表れということをタイ人に理解してもらえば、リテンションにつながります。
中村 HRカレッジは、タイに駐在している日本人経営幹部とタイ人の人事マネージャーが対象です。講義は日タイ同時通訳で行われ、人事を基礎から学ぶ内容になっています。同じ内容・量の知識を共有してもらえるようにカリキュラムが組まれているので、相互理解を深める場としても活用して頂けます。
【次号(2月号)へ続く】
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THAIBIZ編集部
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