カテゴリー: 特集
公開日 2019.03.20
タイで問題となるタイ人労務問題。今回は想定される事例を挙げ、日本とは異なるタイの労働法をもとに解決策を弁護士から学ぶ。
目次
毎年30日の年次有給休暇が付与されているものの、未消化の年次有給休暇を翌年に繰越すことが認められていない会社において、従業員が未消化の年次有給休暇に対する休日労働手当の支払いを求めてきた。このような場合、会社としてはどのように対応すべきか。
労働者保護法第30条第1項によると、会社は勤続年数1年以上の従業員に対しては、年6日以上の年次有給休暇を付与しなければならないとされています。また、未消化の年次有給休暇が存在する場合、それらを翌年以降に繰越すことを認める法律上の義務が会社にあるわけではありませんが、会社が、従業員との合意により、その繰越しをすることもできます(同条第3項)。
労働者保護法第30条に違反して年次有給休暇を従業員に与えなかった会社は、労働者を休日労働に従事させた場合と同様、休日労働手当を支払わなければならないと定められています(労働者保護法第64条)。そのため、実務上問題となるのは、事案のように、会社が未消化の年次有給休暇の翌年以降の繰越しを認めない場合に、当該未消化の年次有給休暇について、どのような処理をするかという点です。
冒頭の事案において、最高裁判所は、会社が、従業員が取得すべき年次有給休暇日の指定をせず、また、従業員に従業員と会社との同意に基づく年次有給休暇の指定をしなかったことが労働者保護法第30条に違反する行為であるとして、会社に対し、同法第64条に基づく未消化の年次有給休暇に対する休日労働手当の支払いを命じました(最高裁判所判決8661/2547号)。
この点は、更に、2016年に労働者保護福祉局の法務部から出された労働問題に関する相談に対する回答(Matter for Labour Consultation-No. Ror Ngor 0504/dated July 2016)においても確認をされており、これによれば、会社が年次有給休暇日の指定をせず、又は、労働者保護法第30条に定める年次有給休暇の日数に満たない年次有給休暇日の指定をした場合、会社は、当該従業員に対し、未消化の年次有給休暇につき、休日労働手当、休日時間外労働手当を支払う義務を負うとされています。
労働者保護法第30条および上記の最高裁判所の判例等から、会社は、年次有給休暇日を指定しなければならないと解釈されています。そして、これを怠った場合、たとえ、従業員が自発的に年次有給休暇の取得申請をしてこなかったことを原因とするものであっても、未消化の年次有給休暇が存在する場合には、会社は未消化の年次有給休暇につき、休日労働手当の支払いを免れるものではないと一般的には考えられています。
では、会社が付与された日数に足る年次有給休暇日を指定したものの、従業員が指定日に年次有給休暇を取得することを拒否した場合はどうでしょうか。
この場合、最高裁判所は、会社は当該従業員に対して、未消化の年次有給休暇に対する休日労働手当の支払義務を負うことはないと判断しています(最高裁判所判決2816-2822 /2529号)。また、同判決によれば、従業員が取得すべき年次有給休暇を会社が指定したと言えるためには、特定の日を指定することまでは必要ではなく、年次有給休暇を取得すべき一定の期間を指定しておけば足りるとされています。
以上より、冒頭の事例のような場面においては、会社は年次有給休暇日の指定義務を負い、これを怠っていた場合には、未消化の年次有給休暇に対して休日労働手当の支払義務を負うこととなると考えられます。
会社として、未消化の年次有給休暇に対する休日労働手当の支払義務を負わないためには、事前に付与された日数分の年次有給休暇を取得すべき日や期間を指定するか、または、従業員との合意により年次有給休暇の取得日を決定すること、が考えられます。
もっとも、従業員の側からすれば、個々人の事情により年次有給休暇を取得する日を決定したいと思うのが通常ですから、指定をするとしても、できる限り幅を持たせた期間を指定する形にするか、仮に、特定の年次有給休暇日を指定するとしても、実務上は従業員との十分な話し合いの上で年次有給休暇日を指定するか、または、一度指定した年次有給休暇日につき、従業員から変更の申し出があった場合には、指定日の変更を認めるなど柔軟な対応をすることなどが後の紛争回避の観点より好ましいものと考えられます。
今回ご紹介したのは雇用継続時における未消化の年次有給休暇に対する休日労働手当の支払義務についてですが、解雇時や自主退社時には別途法律の定めがあるため、一口に未消化の有給休暇に対する支払義務といっても、場面毎に判断が必要となりますのでご留意ください。本稿が社内での取り扱いの確認の一助になれば幸いです。
2014年に渡タイ後、One Asia Lawyers(バンコクオフィス代表)を経て、2017年よりアンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。タイや東南アジア諸国における労務、不動産、企業法務や債権回収等の紛争解決を扱う。近年はアセアン全域の仮想通貨・ICO業務にも注力。
www.amt-law.com
[email protected]
THAIBIZ編集部
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