MURCタイランド〜タイ財閥の海外投資動向レポート〜

MURCタイランド〜タイ財閥の海外投資動向レポート〜

公開日 2022.09.30

弊誌『ArayZ』(現THAIBIZ)にて財閥コラムを執筆するMUリサーチアンドコンサルティングタイランド(MURC)より、「タイ財閥の海外投資動向レポート」が公開された。2000年代に入ってからのタイにおける財閥動向や近年活発化する海外投資、主要財閥グループについて解説された同レポートを紹介する。 

【タイ財閥の海外投資動向】

2000年代に入り、タイの主要財閥は海外展開に舵を切り向け始めた。海外売上も増加傾向増にあり、2018年にはタイ上場企業の海外売上が3兆バーツを超え、収入全体の約3割を占めるに至る。(図表1)

タイ国としても2018年にマレーシアを抜いて ASEANで2番目に大きい対外投資国となっているが、その背景としては、国内市場の成長鈍化、人件費の上昇、AEC発足などによる域内交易の円滑化などが挙げられる。

また、新型コロナ以降の近年の傾向として、CPグループなど経済の停滞をむしろ好機ととらえ、積極的な M&Aなどにより新たな事業を組成する企業がいる一方で、サイアムセメントグループやセントラルグループなど既に参入している分野の育成や既存事業の拡大を主目的とした施策を採用する財閥も見られ二極化している。

投資国対象国を進出した企業数でみるとASEANが最も多く、2015年に海外投資した192社中 79%、2019年には232社のうち191社がASEANに投資しており、進出は増している。その中でもCLMVへの進出が8割近くを占めている。CLMVをさらにブレークダウンするとベトナムとミャンマーが1,2位を争っていたが、直近のミャンマーの政治状況により、ベトナムへの投資転換はしばらく続くことが予測できる。(図表2)

直近の投資形態を見ると、企業買収、株式購入や合弁など、パートナーを伴う投資が伸 びていることが分かる。買収・株式購入・合弁への投資が2015年に6割程度だったことに対して、2019年には9割に至るほど投資形態が変わっている。既存事業への投資やパートナーとの合弁に投資をすることにより、スピーディーな投資効果や比較的に低いリスクを企業が求める傾向がより明確になっている。(図表3)

タイ企業の対外M&A取引による投資の構成は、製造業(食品・飲料系)および鉱業から金融などのサービス分野が上位を占める。CPグループ、TCCグループのタイビバレッジ、ブンロッド、セントラルグループなど、名だたるタイ財閥が食品・飲食系であることから である。直近ではコンビニ、スーパーなどの小売店、レストランなどの外食店に対する投資も活発であり、近隣国の増加する消費市場の需要を取り込むケースも多く見える。(図表4)

タイ大手企業の海外展開の代表事例として挙げられるのはタイ・ユニオンである。すでに世界トップレベルの水産大手として、1997年から海外進出に成功しており、現在各国に協業先や子会社を有しており、2021年の売上では93%を国外から稼いでいる。グローバルレベルで有望市場に漁業権を持つ一方で、加工工場などを開発しながら、流通網も積極的に確保している。流通網は特に北米で大きく展開しており、水産業オリオン・シーフード・インタナショナルや外食レストランであるレッド・ロブスター・シーフードなどを傘下におさめている。

すでに同社の積極的な海外投資は一段落したところであり、近年では国内や ASEAN 域内で豊富な水産物を使った高付加価値製品の開 発などに注力している。近い将来、それらの製品をグローバルレベルで確立した販路に乗せ拡販を進めることが想定される。タイ・ユニオンおよびその他の投資事例などをもとに、タイ企業の海外投資の目的を考えると次の3つが挙げられる。

①調達・生産拠点の拡大によるサプライチェーンの強化
②販路拡大による顧客確保
③投資分散による収益源の確保

まず1点目のサプライチェーンの強化を目的とした対外投資は、原材料の調達先拡大か らそれらの加工・生産、製品の販売流通までの垂直展開が挙げられる。代表例としてアグリ分野から食品加工、販売までをセットで抑える CPグループが挙げられる。また、直近ではサイアムセメントグループがベトナムでは化学部門、インドでは建材部門において積極的に投資をしているが、ベトナムは原材料調達から生産までの川上、インドでは製造か ら販売までの川中〜川下強化など、いずれもグループ主要事業のバリューチェンの強化を目的とする動きである。

2点目の販路拡大による顧客確保は、既に販売網を構築している海外の地場企業を買収 することで、円滑な参入と事業拡大を志向するものであり、消費財メーカーに多く見られる。タイ・ビバレッジ(TCCグループ)が、ベトナムの酒類大手であるサイゴン・ビアやミャンマーのウィスキー最大手グランド・ロイヤルグループに出資を行ったことがこのケースに該当する。

3点目は投資分散による収益源の確保である。タイ国内での内需の停滞の補完を目的として、CLMVなど新興エリアでの投資を進めたり、さらなる技術やブランド確保のために高単価・安定収益が見込める欧米など先進国への投資を進めることが挙げられる。代表的な業界は小売業であり、近年積極的に周辺国への展開している点が目を引く。代表的な例として、セントラルグループのベトナム進出、TCCグループのカンボジア、ラオス進出などが挙げられる。

———-

以降では、タイの主要大手企業がどのような狙いで近年海外での投資を行っているのか ケーススタディをもとに考察する。

各企業の海外投資動向

①CPグループ

‒ 良質な原材料調達を通じてサプライチェーンを強化する
‒ 流通販路拡大でタイ国内の中小サプライヤーにも商機を与えて共存する道を模索する

CPグループは前述の3つの海外展開の要素をすべて満たしており、またその特徴として、川上のアグリ分野から食品加工、小売り分野に至るまでの垂直展開を進めている点が挙げられる。同グループの投資の代表例として中国市場が例として挙げられ、1978年の改革開放当時から参入。時を経て2012年には保険事業として平安保険の株式を総額 93.9 億米ドルでの買収や、2015 年には中国最大の国営コングロマリット・中国中心集団公司へ の出資など様々な事業での進出を行っている。

その他市場でも、2019 年には、カナダの 最大級の養豚・豚肉加工企業であるハイライフ・インベストメンツを買収しているが、主要 国における養鶏などのアグリ分野への投資はもとより、東南アジア、特にカンボジアやラオスなどの近隣諸国へのCPオールの展開や、マレーシアでのテスコ買収などが目立った 投資である。

販売網の拡大はEコマースにおいても進められている。2020年には香港のオンラインオークションサイト「ウィ・モール」を提供する千リンドを買収した。さらに、Eコマース決 済を容易にするため、米国のインターステラー社と提携し、ステラー・ブロックチェーンを 利用した越境 E コマースをより安価で容易に行えるよう目指している。また、同グループは近年中小企業支援を打ち出しており、海外展開を「市場を牽引するCPグループが担う責務」(タニン会長・2022年)と定義している。

同グループが海外進出することで、タイの中小企業や中小規模農家の販売先を増やすことが狙いである。近 年目立ったニュースとしてはインドのMetro社の買収などが挙げられる。同事業は総額12億米ドル相当であり、グループの最重要テーマとしてインド国内での販売網を獲得に向けた取り組みを進めている。

②TCCグループ

– 中核のタイビバレッジグループのM&Aを通じて周辺国のサプライチェーンを強化・ 拡大
– 大型小売ビッグCで近隣国の小売市場の先占を狙う

タイ国内の事業拡大において、相次ぐ買収を行ってきたTCCグループは、第2世代に よる経営に移行し、根幹事業が固まりつつある。その中で、飲料のタイビバレッジや消費 財のベルリーユッカー、小売のビッグCやメトロといったグループ企業が海外展開を進めている。

流通事業では、2016年にベトナムのメトロ・キャッシュ&キャリーを買収、タイでビッグCを買収して市場参入するなど、早期からASEAN市場への展開を視野に入れていた。ビッグCについては、2019年にカンボジア、ラオスに展開している。特にカンボジアでは今後5年以内に市場トップとなることを目指し、今年になって現地コンビニチェーンであるキウィ・マートを買収するなど積極的な動きを見せている。

グループの中核企業であるタイビバレッジは、早期から積極的な買収を続けており、過去にはシンガポールの食品・飲料大手のフレーザー&二ーブ(F&N)社を買収し海外での 販路を入手するとともに、物流や倉庫などに関するノウハウも獲得した。タイビバレッジはその他にも、ベトナム醸造最大手サイゴン・ビアとミャンマーのウィスキー最大手のグランド・ ロイヤルグループを買収しており、アルコール飲料では域内最大企業となっている。

タイビバレッジの代表取締役社長であるタパナ氏は、「ASEAN は他の地域と比較して、 成長が見える市場であり、人口も6億人を誇る。この地域に展開することが我々の事業の課題である。」と述べており、タイビバレッジとTCCグループにとっての ASEAN市場の重要性を説いている。特にTCCグループ内では、ポストコロナのASEAN市場は再びリセットされた状態にあると考えており、様々な事業体を通して海外進出する好機ととらえ、 小売のビッグCや飲料のタイビバレッジを主軸に展開を加速していく方針である。

③Central グループ

‒ 高級ブランドや店舗はセントラル・パタナが、生活分野に近い小売店舗はセントラル・ リテールが中心となって展開
‒ ベトナムとマレーシアを中心にモダントレードの普及で市場獲得を狙う

セントラルグループは小売最大手財閥として既にタイ国内でショッピングモール事業やスーパーマーケット、ホスピタリティ事業などを展開している。

セントラルグループにとっての海外進出はグループを挙げての目標であり、タイに依存し ない中所得層や新興国市場の深耕を志向している。直近ではベトナム進出を強化しており、 2018年から2022年にかけてベトナムにおいて約665億バーツの投資を続けている。グループCEOのトス・チラティヴァット氏は「我々は、毎年 10%超の成長を続けている国内総生 産と9,300万人超える人口など、ベトナムの経済規模に強いビジネスチャンスを感じている。

更に、ベトナムの人々は強い購買力を有している。」と述べている。特にベトナム市場では、2021年だけで66億バーツかけて5店舗の新規展開を行い、ベトナムの2大都市だけで はなく他地域の主要都市への展開を目指している。現在はスーパーマーケットやホームセン ターがメインであるが、今後に向けてはセントラルブランドとしての出店やロビンスの展開も視野に入れた戦略を発表している。

ベトナム以外のASEAN 市場で大規模投資を行っている先はマレーシアである。セントラル・パタナ社を通して、マレーシアのI-バーハドと協業し、85億バーツを投資してセランゴール州の首都、シャーアラム内のi-シティーにショッピングモールを開発した。 東南アジア市場以外にも、イタリアやイギリスの老舗百貨店の買収、グッチやボッテガなどの高級ブランドへの出資など、自社グループの百貨店やショッピングモールの体制強化の動きを強化している。

④サイアムセメント・グループ(SCG)

‒ アジア各地域の成長性とそれに乗じた開発需要を見込んで進出国と進出形態を決める
‒ 建材事業の優先国はインド、化学・包装事業の優先国はベトナム

同グループはタイ及びASEAN域内最大の建設資材関連財閥である。成熟傾向にあるタイ市場からの多角化は同社の経営課題であり、海外展開によりタイ市場だけでなくASEAN市場を代表する存在になっている。また、同グループ最高経営責任者ルンロート 氏は、「今後数年でベトナムが我々の最優先市場になるとみている」と述べているが、同 国ですでに現在 20 社以上の傘下企業を抱えており、ベトナム発のサプライチェーン強化と 事業多角化を同時に展開している点が特徴である。

事業別には、同社の根幹であるセメント・建材事業では、タイ建材小売ブンタウォンと の協業でカンボジアへ進出しており、一定の成果を上げている。一方で自社単独の動きと して、サプライチェーンの強化を狙いベトナムのセメント最大手ベトナム・コンストラクション・ マテリアルを買収しており、タイ以外でのセメントの生産能力を大幅に飛躍させている。

また、2018 年にインドネシアホームセンター大手のカトゥール・セントーサ・アディプラナ社と提携しており、同国の小売建設セクターへの進出を目指している。その他にも、インド で SCG インターナショナルとビッグ・ブロック・コンストラクション社の合弁会社を設立し、インド国内で軽量のコンクリートブロックやコンクリートパネルの製造・販売を行っている。 西インドにも新たなコンクリート工場の建設を予定しており、南アジア地域においてサプライチェーンを今後強化する方針である。

また、近年注力している化学及び包装材事業でとくに注目すべきはベトナムのロンソン石油化学コンビナートの建設である。同事業はグループにとって、10 年以上投資して築い たベトナム事業の集大成ともいえる約 4.4 億米ドルをかけた大型投資であり、ベトナム政 府からも支援を受けている。同コンビナートの完成によりベトナムから ASEAN 全域へ石 化品の供給を想定している。

このように川上事業の安定化を図るとともに、近年は包装材メーカーを多数買収し生産 拠点を拡大している。2019 年にはインドネシアでファジャール社を、2020 年にはベトナム でビエン・ホア・パッケージング社とドゥイタン・プラスチック社を、そして 21 年には英国でゴーパックUKを買収している。 

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Senior Consultant

金 勲貞(キム フンジョン)氏

韓国で大学卒業後、主に米国系事業会社にて営業支援、人事、マーケティングなどを経験。2006年に渡日、一橋大学大学院にてMBA取得後、日系大手事業会社で人事、国際業務、新規事業企画などを歴任。15年よりタイに移住、日系企業タイ現地法人にてマーケティング、人事、その他管理全般を経験。18年に当社入社。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant

池内 勇人 氏

製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。2021年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

Tel:092-247-2436
E-mail:[email protected](池上)
No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE