ArayZ No.116 2021年8月発行タイ農業 振興への道筋
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Deloitte Thailand - M&Aの基礎
公開日 2021.08.09
本社での決裁取得後、佐藤と長谷川はB.O.Foodsへ提示するNBOの作成をDeloitteと進めていた。NBOとは、DDの開始前に先方へ提示するNon-Binding(法的拘束力のない)形式の、買い手である東都産業の希望する出資条件などを記載するレターのことである。
「DDを行う前にNBO(またはLOI)を提示する目的は、①買収価格を含めた買い手の希望条件を明確に先方に提示することで、買収への思いを伝えると共に重要な買収条件について大枠で合意しておく、②独占交渉権に関する取り決めを交わせることが挙げられます」。
例によって、谷口の説明を長谷川が受けていた。なおNBOまたはLOIの提示後にMOUの締結を行うこともあるが、今回のケースではそこまで大規模な案件でもないこと及びMOU締結に要する時間・労力を鑑み、これは省略することとなった。
「NBO/LOIの概要や目的については理解できました。一般的にはどんな内容を記載し、今回のケースでは何に気を付ければよいでしょうか」。
長谷川からの質問に谷口が答える。
「まず、一般的な記載項目としては①買い手の事業内容、②買収目的と意義、③買収ストラクチャ―、④希望価格及び算定根拠、⑤本件取引後の経営陣の処遇等が挙げられますが、この他にも資金調達方法やDDにおける資料依頼を盛り込むケースもあります。また今回のケースですと、②買収目的と意義の中で、お互いのチャネルを活用したクロスシナジーについて触れるのがよいかもしれませんね。これはB.O.Foodsのソムチャイ氏が期待していた点でもあります。それから、⑤経営陣の処遇についてですが、何か東都産業として希望する条件はありますか」。
本社での稟議結果に目を通しながら佐藤は谷口に答えた。
「基本的には食品卸ということで同じ事業内容ですし、本件取引後にオーナーがいなくなってしまうことによる影響は、そこまで大きくないと考えています。他方、オーナー系企業ですと、オーナー自身のネットワークやリレーションで顧客を維持している会社も多いと聞いています。その場合、最低でも3年程度はソムチャイ氏に残ってもらいたいと本社からも条件を付されています」。
「了解しました。ただ、ソムチャイ氏の意向として本件取引後はなるべく早く、可能であれば1年程度で引退したいという思いがあるようです。この段階で先方と交渉することも可能ですが、貴社として3年残ってもらうことが現時点では必須でない、つまりB.O.Foodsのソムチャイ氏への依存度合いを見て判断することも可能であれば、DDの結果を踏まえてソムチャイ氏に残ってもらう期間を判断するということでいかがでしょうか。その方がソムチャイ氏と交渉を行う上でも得策かと思います」。
「分かりました。本社の条件としては、あくまで買収後も問題なく事業運営を行えるようにすることですので、DDの結果を踏まえて判断するということでも問題ないと思います」。
「ありがとうございます。それではソムチャイ氏の残留期間について、NBO上はDDの結果を踏まえて別途相談したい旨を記載しておきます」。
その後もいくつかの細かな調整を続けながら無事にNBOの作成を終え、先方にも無事に受領された。再来週からいよいよ始まるDDでは財務や税務、ビジネス、ITなど様々な観点から、B.O.Foodsについての精査を行う予定だ。佐藤と長谷川が心穏やかに休めるまでは、まだまだ時間が掛かりそうである。
日本語だと、NBO/LOIは意向表明書、MOUは基本合意契約書と訳されることが多い。一般的にNBO/LOIが買い手から売り手へ交付される(買い手の希望を表明するものであり売り手の署名をもらわないことが多い)書類であるのに対し、MOUは通常の契約書のように双方が署名を行う形式となる。どちらともDDに進む前段階として取り交わされる書面だが、その違いは大きく以下の通り。 なお、案件によってLetter Of Intent(LOI)と呼ばれることもある。
NBO/LOIによる意向表明の後、MOUとしてお互いの合意を形成する。但し、NBO/LOIの提示を経ずにMOUを締結したり、逆にNBO/LOI提示後にMOU締結を省略することも多い。
大きな差はないが、MOUにはLOIよりも細かな内容が記載されることも多い
NBO/LOIがあくまで買い手の希望として提示されるのに対し、MOUでは双方が署名・合意する。また、NBO/LOIは買い手の意向を表明するものとして、買収に対する買い手の思い(どのような将来像を描いているか)を記載することが多いのも特徴的。
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Co. Ltd. 谷口 純平
2016年にデロイトトーマツ入社。20年よりタイ駐在となり、現在は日系企業向けM&Aや事業再編等の各種サービス提供。
Deloitteは会計・財務・税務・M&A等のサービスを世界各国で行うプロフェッショナルグループの一つであり、当方自身は主にタイの日系企業様向けにM&Aやリストラクチャリング/再編に係るサービス提供を行っております。
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Co. Ltd.
Financial Advisory
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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director
谷口 純平 氏
商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。
【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
[email protected]
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。
Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html
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