ArayZ No.123 2022年3月発行タイにおけるFTA活用の現状
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公開日 2022.03.10
コロナ禍によって事業環境が大きく変わろうとする中、新たな市場を模索する動きもある。
その際、将来の人口の伸びは一つの要素になるだろう。タイからインド洋を越えた彼方に、大きなポテンシャルを秘めた地がある。
今回はタイやASEANをも飛び出し、最後のフロンティアと称されて久しいアフリカを取り上げる。
目次
アフリカ大陸は南北約8000㎞に及び、約3000万㎢という広さは地球の陸地全体の20%ほどを占め、50以上の国々に13億の人々が暮らす。
しかし、人類の起源とも言われるアフリカは、苦難の歴史を歩んできた。15世紀の大航海時代にヨーロッパとアフリカとの航路が開拓されると、16世紀以降の奴隷貿易にはじまり、19世紀からのヨーロッパ諸国による植民地支配は、エチオピアとリベリアを除くアフリカ大陸のすべてに及んだ。
その後、植民地からの独立が始まり、第2次世界大戦後の1957年のガーナを皮切りに60年にはナイジェリア、コンゴなど17ヵ国が続き「アフリカの年」と言われた。63年にはアフリカ統一機構(OAU、現アフリカ連合)が発足した。
しかし、植民地時代にベルリン会議などを通して強制的に国境を設けられ、多民族国家となった国では独立後に民族対立が生じ、特にナイジェリアでは天然資源を巡って深刻な内戦に発展した。また、植民地時代に導入されたコーヒー、たばこなどの少数の作物、天然資源の生産、輸出に依存する、いわゆるモノカルチャー経済の構造から脱却できずアフリカ経済は低迷する。
2000年代に入ると原油や天然ガスなどの資源価格の高騰により高成長を遂げるも、その後、資源価格の下落を受けて減速。それを持ち直したタイミングでコロナ禍に見舞われたが、昨年はプラス成長を取り戻し、今後は再び成長軌道に乗ると見られている。
アフリカが最後のフロンティアとして注目される要因の一つに人口の多さがある。20年時点で13億人だった人口は、アフリカ平均で4.0以上にもなる高い合計特殊出生率(TFR)や医療事情の改善などにも支えられ、50年には25億、2100年には40億人に達すると見られている。TFRが人口維持に必要な2.0を割り、長期的に人口が減少していく日本(1.34)、タイ(1.3)とは状況がまるで異なる。
日本企業はこれまでアフリカの豊富な天然資源に対する投資が多かったが、近年は拡大する消費と市場の将来性を背景に、自動車だけでなく食品やIT、医療機器や金融など多彩な業種へ投資を行っている。NTTコミュニケーションズは17年に南アフリカの通信企業と連携してデータセンターサービスをスタートさせ、19年に豊田通商は子会社を通じ、同じく南アフリカの自動車販売大手ユニトランスモーターグループを買収した。直近では南アフリカを筆頭に約900社を展開。20年末時点のアフリカへの直接投資(残高)は4909億円となった。
21年1月1日からはアフリカ単一市場の創出及び経済統合を目指すアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の運用が開始された。日本貿易振興機構(JETRO)が20年に行ったアンケートでは進出企業の4割近くが利用を検討するなど、AfCFTAには期待が懸けられている。
アフリカは他地域と比べると、域内貿易の割合が低い。GDP総額も東南アジアと同程度。言い換えれば、域内のインフラ整備や加工産業の発展が進めば、伸びしろはまだまだ大きいと言える。
アフリカには55ヵ国(アフリカ連合加盟国数)があり、大きく5つのエリアに分けることができる。
その中でも大きな分け方は北アフリカとそれ以南(サブサハラ)の地域。セントヘレナ(英)、レユニオン(仏)といった海外領も存在。
地中海、インド洋、大西洋、紅海に囲まれ、サハラ砂漠などの砂漠地帯から高温多湿で熱帯雨林が茂る大陸中部、乾季と雨季に別れるサバンナ地域など気候も多様。植民地支配の影響は言語や宗教にも見える。
面積 | 3,006.5万平方キロメートル |
人口 | 13億4,059万人(2020年推定) |
人口密度 | 45人/平方キロメートル |
国数 | 55(アフリカ連合加盟国数) |
主要都市圏 | カイロ(2,048万人、エジプト) ラゴス(1,390万人、ナイジェリア) キンサシャ(1,374万人、コンゴ民主共和国) |
日本とタイはアフリカとどのように結び付いているのか。それぞれの貿易を比較してみたい。
まず日本からアフリカへの輸出品目に関しては、日本が強味とする自動車関連や建設機械が上位に入った。船舶に関しては世界各国の船会社が船籍を置くリベリア向けが多い。アフリカからの輸入品目としては、やはり石油や天然ガス、鉱物などの天然資源が並ぶ。魚介類は意外にもモロッコやモーリタニアなどのアフリカ産タコが日本に輸入され、広く流通している。
タイからアフリカへの輸出品目は、日系企業の生産拠点も多い自動車関係が目立つほか、タイが世界有数の生産量、輸出量を誇る米や海鮮物の加工品もアフリカへ送られている。
アフリカからの輸入品目は原油、天然ガスなどの地下資源が上位に来るのは日本と同様となっている。
20年発表の外務省の資料によれば、アフリカに住むタイ人は1万人を超え、日本人の約6000人を上回っている。南アフリカには約5000人とアフリカで最も多くのタイ人が住み(日本人は約1000人)、建設業に従事したりタイレストランやスパなどを営んでいる。
現在、アフリカ全体の最大の貿易相手国は中国となっており、国連商品貿易統計データベース(UN Comtrade)によれば20年の中国アフリカ間の貿易総額は1760億米ドルだったという。20年前と比べると10倍以上拡大しており、存在感の大きさを伺わせる。
今年は、アフリカの開発をテーマとする日本主導の国際会議TICAD(アフリカ開発会議)が8月に開催される。日本とアフリカの一層の関係構築が期待される。
大きな可能性を秘めたアフリカ大陸。現地でのビジネス環境はどうなっているのか。みずほ銀行ロンドン支店ヨハネスブルグ出張所の村上所長に話を聞いた。
アフリカ投資の魅力とは?
ご存じの通り、多くの国で今後人口が減少していく中、アフリカではまだ人口が増加しています。
現在、12億人を超えるアフリカの人口は2020年代には中国を追い抜き、50年には25億人に達すると言われています。50年の世界の人口が約98億人の見通しですので、およそ世界の4人に1人がアフリカ人という時代が来るのです。
アフリカには一人当たりGDPで見ても3000USドルに満たない国が多く、これからの成長が期待されています。年齢構成も若く中間所得層の増加が期待され、これら人口動態に裏付けられた市場としての魅力には、目を見張るものがあります。
また、脆弱な社会・公共インフラ投資機会の可能性、天然資源開発、域内貿易の拡大、社会インフラの脆弱さを逆手に取ったデジタルインフラの急速な拡大など、課題は多いものの事業機会は今後も期待されます。
一口にアフリカと言っても広大です。 各地域の特色を教えて下さい。
アフリカはまず、アラブ系の住民が多数を占める北アフリカと、アフリカ系の人々が住むサハラ砂漠以南のサブサハラと呼ばれる地域で分けることができます。さらには、ナイジェリアなどの大西洋に面した「西アフリカ」、ケニアをはじめとするインド洋を望む「東アフリカ」、そして南アフリカを中心とする「南部アフリカ」に分けられます。
そしてアフリカの外へ目を向ければ、欧州と並び北アフリカやサブサハラの統括拠点にもなっている「中東」、インド洋に面し将来中国の人口を上回ることが予想されアフリカとの人的関係の深い「インド」。さらには、既に日系企業が集積している「東南アジア」に繋がります。これらの地域は「インド洋経済圏」として世界で最も経済成長が期待される地域と言えます。
また、アフリカとアジア、中東を結ぶゲートウェイとして外せない重要な2つの国があります。
まず、東アフリカの雄ケニア。ケニアには東アフリカ最大の商業港モンバサ港があり、東アフリカ諸国の玄関口となっています。ウガンダやルワンダ、ブルンジなど内陸国の外港としても機能し、地域経済の中心的役割を担っています。日本も円借款を通してモンバサ港のコンテナターミナル新設などを支援してきました。そして、ケニアはサブ・サハラアフリカにおいて日本の政府開発援助(ODA)最大の受益国となっており、日本と結び付きが強い国です。公用語として現地のスワヒリ語と並んで英語も使われています。
もう一つはサブ・サハラアフリカの経済大国である南アフリカ。南アフリカはサブサハラ・アフリカの全GDPの約20%を占め、サブサハラ・アフリカ諸国の中で第2位の経済大国としてアフリカ経済を牽引しています。現代的なインフラが整備されており、国内各地まで道路網も張り巡らされています。外資企業・現地企業も含め南アフリカからサブサハラ全体を見ている企業が多く、サブサハラ・アフリカの統括拠点として機能しています。英語が主な公用語となっており、ニュースなどのメディアも英語。英語が話せれば困ることはありません。
進出を検討する際の注目分野及び注意点は?
アフリカには開発途上の国が多く、今後の成長分野というのはたくさんありますが、電力エネルギー分野、とりわけ再生エネルギー、分散電源等のグリーンエナジー・インフラ分野は注目分野です。医療、教育、食料、通信、農業なども重要分野ですし、社会・公共インフラ分野もアフリカの成長に欠かせません。また、消費財、日用品等の市場の成長も期待されます。
ケニアでは携帯電話を活用した決済サービス「エムペサ(M-Pesa)」が大きな成長を遂げており、このような通信IT分野において現地のスタートアップ企業が注目されています。
アフリカでの事業展開に際しては、事業分野に投資(M&A)、パートナー企業との合弁企業設立等が考えられますが、パートナー企業との事業展開がアフリカビジネスのカギとも言えます。アフリカ地場系やアフリカビジネスに精通している欧州系・インド系などがパートナーとして有力視されます。
先述したように南アフリカにはサブサハラ・アフリカを統括しているアフリカ企業が多く、私共のMoU提携パートナー銀行のスタンダードバンクはサブサハラ・アフリカに20ヵ国の拠点網を構築しています。
皆さまのアフリカ進出を提携行のネットワークや顧客基盤を活かした連携でお手伝いできれば幸いです。
一方でアフリカが最後のフロンティアと注目されていますが、進出先の電力や道路、港湾、通信などの社会・公共インフラ整備状況、治安や生活環境などアフリカ各国で様相が違います。特に治安含めて従業員が安全に生活できる場所なのか等、進出予定の国をよく見極める必要があります。
私自身、かつてベトナムや香港、シンガポールに駐在しておりましたが、それらのアジア諸国と同じように「ぜひ進出をご検討ください」と、容易に言える場所ではないと感じています。
現地で生活をしてみた印象は?
昨年5月末、こちらに赴任した直後に新型コロナウイルスの第3波が到来、さらに前大統領ズマ氏の収監に端を発した大規模な暴動が同年7月に発生しました。治安の問題は深刻で、移動はすべて車、日中もモール等の施設内を除けば、外を歩くことはありません。しかしながら南アフリカには人を魅了する何かがあります。
親しみやすい人々。広大な大地と青い空。海も山もあり観光資源に事欠かず、気候も過ごしやすい。ワインや牛肉の生産地であり、新鮮な魚介類に恵まれ、ゴルフやトレッキングさらにはサーフィンをはじめとするウォータースポーツなども楽しむことができます。
南半球の南アフリカの春(10月)には、日本の桜のような「ジャカランダ」という木が紫色の花を咲かせます。桜にも負けないほど、それは見事な美しさです。
治安、汚職、電力不足、雇用問題等マイナス面や課題は多いものの、プラスの面も語り尽くせないくらい豊かな国です。治安、汚職、電力不足、雇用問題等マイナス面や課題は多いものの、プラスの面も語り尽くせないくらい豊かな国です。
ヨハネスブルグには日本人学校(小学校、中学校)があり、家族連れで駐在されている日本人の方もいらっしゃいます。治安の面はしっかりと管理すれば、危険を回避することができると言えます。
日本から見ればアフリカは確かに遠く、南アフリカまで飛行機を乗り継いで24時間以上掛かります。ただ、視点を日系企業の多くが集積するアジアに置くだけでも、アフリカへの距離は縮まります。ましてやインドや中東に移せばさらに近くなります。これまで日本企業は様々な国に進出してきました。進出した先の国からアフリカを捉えれば、アフリカは随分と身近な存在になるのではないでしょうか。
みずほ銀行はスタンダードバンクだけでなく、モロッコのアティジャリワハ銀行とも提携をしており、北アフリカ、サブサハラ・アフリカにネットワークを構築しています。19年にはスタンダードバンク内にジャパンデスクを設置し、営業連携が大きく進化・深化しました。
南アフリカに視察などに来られる際は、是非ともお声掛けください。最後のフロンティア・アフリカを少しでも肌で感じていただければと願っております。
みずほ銀行ロンドン支店 ヨハネスブルグ出張所 所長
村上 正光
2021年5月末に南アフリカ・ヨハネスブルグに赴任。当出張所にて日系企業のサブサハラ・アフリカでの事業・プロジェクト・新規進出支援およびみずほ欧州を活用したオフショア・ファイナンス支援、その他に地場企業対応や提携行とのビジネス・コラボに注力。アジアを中心に海外拠点(香港、シンガポール、ベトナム)での勤務経験が17年以上。2回目のベトナム勤務では、出資・提携先の国営商業銀行ベトコムバンクに派遣として赴任した経験もあり。
みずほ銀行ロンドン支店 ヨハネスブルグ出張所
2nd Floor, West Tower, Maude Street, Nelson Mandela Square, Sandton 2196, South Africa, P.O.Box 785553, Sandton 2146
【村上 E-mail】 [email protected]
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THAIBIZ編集部
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