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カテゴリー: 会計・法務
連載: New*GVA / TNY法律事務所 – タイビジネス法務
公開日 2023.12.09
2023年も終わりに近づき、年末の様相になってきた。今年のタイは、長期にわたっていた軍主導の政権に代わる、新政権の樹立が大きな話題となった。法改正や新法制定を含む今後の変革が注目されるところだが、ビジネスの世界でも、組織の新陳代謝を図るべく、多くの日系企業が人事問題に取り組んでいる。そこで今回は、タイの人事における大きな関心事である解雇や退職に関連するテーマとして、その予告や通知の効力について考察してみたい。
タイでは、従業員の解雇予告につき、「ある給与支払日に解雇の効力を生じさせるためには、その一つ前の給与支払日までに解雇を予告しなければならない」として、「一給与期間前まで」の解雇予告が必要であることを定めている(労働者保護法第17条第2項)。注意を要するのは、解雇の予告期間として必要とされている「一給与期間」は、長さ・日数を意味するのではなく、給与期間それ自体を意味する点である。日本の労働法では「30日前の解雇予告」とされているので、日本では日数計算が単純であるだけに、タイの実務上混乱しやすい部分である。
では、一度解雇予告を行なった場合、会社はそれを撤回できるのだろうか。解雇が従業員に不利益を与える措置として一定の制約を受けていることを考えれば、その不利益行為の撤回は従業員の利益に資する可能性が高い。そうすると、解雇予告の撤回は、自由に可能なようにも思える。
しかしながら、この撤回は原則としてできないとされている。解雇予告は、契約の解除の意思表示として扱われるが、民商法386条2項は、「解除の意思表示は、取り消すことができない。」と規定しており、これに従うためである。タイの判例もこの考え方を支持しており、「使用者が、従業員との契約を終了させる意思を表明すれば・・・・、当該契約終了の意思を撤回することはできない」と判示している(6525/2544)。
上述のとおり、解雇予告は、解雇の効力発生日の一給与期間前までになされる。そのため、解雇予告を行なってから、対象の従業員は、少なくとも約1ヵ月の間引き続き会社で勤務することになる。判例の示す考え方によれば、この期間中に、何らかの事情で当該従業員を解雇しないで良くなったというような場面でも、一度通知した解雇予告は撤回することができない。
なお、整理解雇のケースなどでは、従業員の転職に支障が出ないよう、早めに(例えば半年前など)に解雇予告を行う場合もあり得る。この場合であっても、上記のルールは同様に適用されるため、解雇予告後に会社の財務状況が劇的に改善するなどの事情が生じたとしても、やはり解雇予告の撤回はできないということになるだろう(ただし、本人が復職を望めば別)。
会社側の解雇予告が撤回できないとしても、従業員側の辞職届(退職届)はどうだろうか。従業員がある日「会社を辞めます」と退職届を提出した後、「よく考えたらやはりこの会社で頑張ろうと思います」などと言ってその撤回を求める場合である(実務的にはしばしば遭遇する場面だと言えるだろう)。
この場合も解雇予告の場合と同様、その撤回はできないとされている。判例も、従業員が退職届を提出し、事後にそれを取り消したいと申し向けた事例において、従業員の退職の意思表示は、退職届を提出した日から有効であり、当該退職届の取消しを求める別の手紙を提出したとしても、退職届を取り消す効果はないと判示している(1900/2542)。
もちろん、会社が慰留することができないわけではない。従業員が退職届を提出した後に、会社が翻意するよう慰留し、その結果両者が合意に至れば、雇用契約は終了しない。これは、会社側が解雇予告を行なった後に、従業員が雇用を継続してくれと会社を説得するような場合も同様である。
今回は、従業員の退職場面における「通知」を取り上げて解説した。やや細かいテーマだと思われるかもしれないが、予告や通知などの手続きは決して軽視すべきでない。本稿がタイにおける実務の一助になれば幸いである。
GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士藤江 大輔
2009年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所のパートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。
URL : https://gvalaw.jp/global/3361
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THAIBIZ編集部
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