THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略
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カテゴリー: ビジネス・経済, バイオ・BCG・農業
連載: SBCS - タイ経済概況
公開日 2024.12.11
日々、さまざまなお客様の相談に対応させていただいているが、時々タイのエネルギーに関する質問を受けることがある。今回は全体像を解説したい。
タイはタイ湾で石油や天然ガスが採れるものの、それだけでは足りず、エネルギーを輸入している。エネルギー政策計画事務局(EPPO)のデータによると、一次エネルギーの消費量としては天然ガスが41.6%と最も多く、石油40.6%、石炭11.3%、水力3.3%と続く(図表1)。タイでは洪水が頻発することに加え多数のダムを有するので、水力が豊富にあるイメージだが割合は僅かとなっている。
最も多く消費されている天然ガスの57%は国内生産されているが、不足分の31%は液化天然ガス(LNG)の形でオーストラリア、カタール、マレーシア等から輸入し、残りは、アンダマン海にあるミャンマーのガス田からパイプラインを通じて輸入している。
石油の大部分を占める原油は、タイ国内では消費量の1割程度しか採れず、不足分を輸入している。輸入元はUAEが42.9%と最も多く、サウジアラビア14.4%、米国11.6%と続く。
覚えておきたいのは、タイはカタール、UAE、サウジアラビアといった中東の国々にエネルギーの多くを依存しているということだ。したがって、中東情勢が悪化して、ホルムズ海峡が閉鎖されると日本と同様に大きな影響を受けることになる。一方、輸入元の3位となっている米国はシェール革命の影響で国内で石油を増産し、現在はサウジアラビアを抜いて世界最大の石油輸出国になっている。この流れで、タイは米国産石油の輸入を増やしてきている。間もなく米国の大統領が交代することから、これからの世界情勢を気を付けて見ておきたい。
さて、これら一次エネルギーの一部が発電に使用される訳だが、発電量をエネルギーソース別に見ると少し変わってくる。天然ガスが58.0%、石炭13.6%、輸入電力14.7%、再生可能エネルギー10.4%、水力3.0%となる。石油はほとんど発電に使われないので、天然ガス等の割合が増加する。
自国である程度、産出できる天然ガスが多いのは当然だろう。一方、3番目に多い輸入電力はラオスからだ。ラオスは「東南アジアのバッテリー」を目指して、メコン川流域(本流を含む)に、多数の水力発電所用のダムを建設している。すでにいくつかの発電所が完成し、タイやベトナムに電力を輸出している。これから、ダムの完成に合わせてさらに増加する可能性がある。
意外に思われるのが、再生可能エネルギーが水力より大きいことだ。再生可能エネルギーというと太陽光発電をイメージする人が多いと思うが、タイの場合、バイオマス発電が多い。タイには原料となるもみ殻、ヤシ殻、バガスなどが豊富で、これらを燃やして発電しているケースが多いからだ。
なお、2024年6月に開催されたエネルギー開発計画の公聴会での資料には、水力、太陽光、その他の再生可能エネルギーを強化することで2037年には合計50%以上をクリーンエネルギー源とすることが記載されている。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の11月18日発表によると、2024年第3四半期の経済成長率は、前年同期比+3.0%であり、2022年第4四半期以降最高値となった。現政権の予算執行に伴う公共投資の増加(同+25.6%)で、建設が同+15.5%で、4四半期ぶりにプラスに転じた。一方、農業は同▲0.5%と2023年第4四半期からマイナスが続いた。2024年1〜9月の経済成長率は同+2.3%だった。また、2024年通年の成長率見通しは前年比+2.6%で、2025年通年の成長率見通しは同+2.3〜3.3%と発表した(図表2)。
タイ商務省の10月28日の発表によれば、2024年1〜9月の輸出額は前年同期比+3.9%の2,231.8億米ドル、輸入額は同+5.5%の2,291.3億米ドルで、貿易収支は59.5億米ドルの赤字となった。品目別では、農産物・加工品が同+5.4%(399.7億米ドル)、電子製品・同部品が同+13.5%(388.9億米ドル)、自動車・同部品が同▲7.2%(294.9億米ドル)。国・地域別では、米国で前年同期比+12.5%の406.1億米ドルで首位。商務省はバーツ高や米大統領選の影響を懸念しつつも、農産物・食品の需要増加や輸送費削減により、通年目標の+2%の達成を見込む。
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エネルギー政策計画事務局(EPPO)によると、2024年上半期のタイのエネルギー消費による二酸化炭素(CO2)排出量は前年同期比▲2.5%の1億2,190万トンで、2023年から減少傾向が続いている。燃料別の排出量はいずれも減少、石炭が同▲7.9%(2,890万トン)で最大の減少率だった。国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年のタイのエネルギー単位当たりの排出量は欧州平均より高いが、世界および亜州(中国除く)平均よりも低い。同局もクリーンエネルギー比率を上げるためエネルギー開発計画の改定を進め、さらなる排出量削減を目指す。
タイ財務省は9月25〜30日に経済刺激策として1万バーツを配布。福祉カードを持つ脆弱者や障害者計1,450万人が対象で、約1,405万人にQRコード決済システム「プロンプトペイ」を通じて振込が完了。一方、銀行口座の未連携や解約により約38万人が受給できなかった。財務副大臣のパオプーム氏は、この政策で通年の国内総生産(GDP)成長率が0.3%引き上がると述べた。第2弾配布は2025年1月末ごろ実施予定。
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バンコク首都庁は環境汚染対策を強化している。10月29日に乾期に伴うPM2.5の対策として9地区を低排気ゾーンに指定。5地区で大気中のPM2.5濃度が健康に影響を及ぼすレッドゾーンに達した場合、排気基準を満たさないトラックの低排気ゾーンでの通行を3日間禁止すると発表。また10月30日には、ごみ分別家庭の収集・処理料金を安く設定すると発表。新料金は官報掲載の180日後に施行予定。
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Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
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SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
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