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カテゴリー: カーボンニュートラル, 自動車・製造業
公開日 2025.06.02
日タイ両政府は4月29日、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みの一環として、「第1回エネルギー・産業対話」を開催した。両国は、クリーンで持続可能なエネルギー移行を進める一方で、産業分野においては脱炭素関連製品・サービスの競争力強化が課題となっている。本対話はこうした背景のもと、次世代エネルギー転換と低炭素社会における産業競争力の向上を目的として設立されている。
目次
第一回目はバンコクで開催され、日本からは武藤経済産業相が来タイ、タイからはピチャイ副首相兼財務相が共同議長として出席した。
ピチャイ副首相兼財務相は冒頭の挨拶で、「自動車産業はタイの重要な産業であり、日本との長期的な協力関係により、タイは世界第10位の自動車生産拠点になることができた。脱炭素社会への移行が進む中、両国は競争力を維持するためにも、バッテリー式電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、エコカー、バッテリー開発など、さまざまな選択肢を用いた『マルチパスウェイ(全方位戦略)』で協力していく必要がある」と強調。
武藤経済産業相は「自動車産業は電動化、脱炭素化により大きな転換期を迎えているが、このような変化に対応し持続的な産業発展を支えるのは、いつの時代も人材である。ソフトウェア化、知能化などに対応する次世代の担い手を育成をしていく必要がある」と訴えた。
本対話の後は、武藤経済産業相とピチャイ副首相兼財務相、エーカナット工業相立ち合いのもと、自動車やエネルギーなど幅広い産業における日タイ企業・団体間の協力覚書(MOU)9件の締結が行われた。
また、同日は産官学が参加するラウンドテーブルも実施。経済産業省の田中審議官は基調講演で、「日本がこれまでにタイで約7万人に人材研修を行ってきた。今後はデジタルトラスフォーメーション(DX)や水素分野の教育、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)を通じた企業支援を強化する。また、タイのリサイクルシステム構築にも貢献し、サプライチェーン全体の競争力を高めていく」との考えを示した。
続いてタイ自動車部品製造業協会(TAPMA)のソンポン会長は、タイにおける自動車産業の現状を説明。その上で、「タイは内燃機関(ICE)車で築いた日本との関係を強みに、ICE車での『ラストマン・スタンディング戦略』を目指す。特にタイのチャンピオンプロダクトとされるピックアップトラックのような投資を継続的に誘致すべきだ」とアピールした。
一つ目のパネルディスカッションは「次世代自動車産業の人材育成戦略」のテーマで行われ、デンソー・インターナショナル・アジアの犬塚社長は「従業員の幸福と満足度を重視し、社会課題の解決に社員とともに取り組んでいる。また、社員の成長を目指すことを企業の重要な目標として位置づけている」と述べた。
TAPMAのソンポン会長は「従業員の機械技術の育成に力を注いでいるが、将来的には電子技術の育成にも力を入れる必要がある」との見方を示した。
さらに、「自動車の製造拠点であるタイでどのように人材管理戦略を行うか」の質問について三菱自動車タイランドの木下会長は「会社の長期的成長を見据えた雇用創出のほか、フィリピンやベトナムなどのASEAN諸国でリーダーシップの育成を推進し、タイ人幹部やスタッフを海外に派遣するなどの人事交流を行っている」と説明。
「カーボンニュートラルの達成に向けて、グリーントランスフォーメーション(GX)人材に求められるスキルとは何か」との質問については、タイ投資委員会(BOI)のシニア・エグゼクティブ投資アドバイザー、スターシ二ー氏は「タイ政府はマルチプルパスウェイを推進する方針を示すため、次世代自動車に関するハイブリッド車(HEV)のスキルやコネクテッドカー(つながる車)、インテリジェントエレクトロニクス、カーボン削減の知識、などのスキルは重要だ」と見方を示した。
同質問に対し、トヨタ紡織アジアの大井社長は「工場での再生可能エネルギーの利用や材料のリサイクルに関する知識、カーボンニュートラルに関するスキルトレーニングは非常に重要だ」と指摘した。
二つ目のパネルディスカッションでは、「産学官連携による人材育成」をテーマに、産業界・教育機関・政府支援機関の関係者が登壇。DX・GXに求められる次世代人材の育成に向けた、具体的な取り組みや課題を共有した。
DMG森精機タイランドの有井社長は製造工程の集約によるGX貢献や、タイ国内外の大学と連携する人材教育に取り組みを紹介。
三菱電機ファクトリーオートメーションタイランドのウィチアン社長は「産学官が三方良しとなる“スリー・ウィン”の構築が重要」とし、デジタル化や脱炭素など“4つのD”に対応した人材育成を訴えた。
一方、タイ・ドイツ職業訓練学校(TGI)シニアアドバイザーのソムワン氏は、「学生の製造業離れが進む中で、いかに魅力ある学びを提供できるかが課題だ。産業界のリアルなニーズに基づくトレーニング・ニーズ・アナリシス(TNA)が不可欠」とし、政府にはより的確なニーズ把握のリード役を期待するとした。
泰日工業大学(TNI)のランサン学長は、「大学は日タイの技術の架け橋」と語り、産業連携や高専モデルの導入を通じて、即戦力人材の育成に取り組む考えを明らかにした。
モデレーターを務めたAMEICC事務局長兼海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所所長の藤岡氏は、「若者が将来に希望を持って技術を学べるようにするには、“なぜ学ぶのか”というストーリーが必要だ」と指摘。学ぶ動機(Why)、求められるスキル(What)、育成の仕組み(How)を明確にし、産学官の三位一体で実効的なエコシステムを築くことの重要性を示した。
最後は、タイ工業省工業経済局のパサコーン局長が登壇。タイにおける日本産業を放棄することなく、次世代エネルギーやサーキュラーエコノミー(循環型社会)、グリーン・テクノロジーなどの開発を引き続き推進していくことを明らかにした。特に、今後も自動車産業のサプライチェーンの強化、人材育成、日本の技術の導入を後押ししていくと締めくくった。
THAIBIZ編集部
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