カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
公開日 2025.07.09
マレーシアの自動車市場は好調だ。昨年の同国の自動車販売台数は前年比2%増の81万6,000台に達し、3年連続で過去最高を更新し、タイを追い抜き、ASEANではインドネシアに次ぐ2位に浮上した。
これまで、2000年代初めから2010年代後半まで同国の自動車市場は毎年約60万台で安定し、2人に一台まで自動車が普及しているにもかかわらず、市場が成長していることは興味深い。
マレーシア自動車協会(MAA)によると、今年は昨年比8.2%減の75万台と見込まれ、調整期に入っているが、需要が底堅いために他国に比べて調整期の落ち込みは限定的とみられる。
目次
2023〜2025年第1四半期までのASEAN主要国の自動車市場の推移をみると、マレーシア市場の安定ぶりが目立つ。タイ市場が2023年第4四半期から大幅に減速する一方で、マレーシア市場は拡大し、2024年通年でタイ市場を超えた。インドネシアは、域内最大の市場の地位は変わらないものの、2024年第1四半期から市場が大きく減少し、第2四半期以降も以前の水準には回復していない(図表1)。
近年、好調なマレーシアの自動車市場の背景として次の5つが挙げられる。
マレーシアは、2024年には一人当たりの所得が約1万2,000ドルまで向上し、世界銀行の規定する「高所得国」入り間近まで到達している。
天然ガス、ゴム、パーム等の天然資源が豊富である一方で、近年は同国の元々の強みであった電機・電子分野への投資・輸出の拡大により、クアラルンプールを中心とした広域経済圏クランバレーのみならず、ペナンやジョホールバル等の地方都市で成長が著しいことが、中間所得層に厚みと拡がりをもたらしている。
また、購買力のある35歳以下の若年層が増え、全人口の6割を占めていることも市場拡大に結びついている。
ブランド別販売では、トップがPERODUAで、2021〜2024年にシェアを伸ばしている(図表2)。
PERODUAは、1983年に設立されたPROTONに続いて、二番目の国産車メーカーであり、ダイハツが出資・技術供与している。国産車は、低価格の車を国民に提供することを目的に、外資に比べてノックダウン(KD)関税輸入の免税、低率な国内物品税等の優遇措置を受けている。
国産車が普及した背景には、産油国でガソリン価格を低く抑えつつ、豊富な資源収入を国産車に対する補助金の原資として活用できたことにある。PERODUAのシェアが近年増加しているのは、低価格小型車が成長する中間層の受け皿になったからだ。
例えば、「PERODUA Myvi」の車両価格は、4万6,500〜5万9,900リンギット(約160〜206万円)であり、一人当たり国民所得の1万2,000ドル(約175万円)とほぼ同水準である。
筆者がマレーシアのユーザーに行った取材によると、新卒であっても、1割の頭金と9年ローンで、Myviクラスの車が月々300〜350リンギット(約1万〜1万2,000円)で購入できるため、一世帯で一人一台の車の保有が一般的になってきているという。
マレーシアでは、2023年のGDPに占める家計負債比率は84%であり、9割近くのタイに続いてASEANでは高い水準にあるが、タイのようなローン審査の厳格化の動きはない。タイのように消費クレジットの負債が少なく、担保がある住宅負債が大半を占めるためである。
マレーシアの特徴は、政府の補助金によりガソリン価格(RON95)が1Lあたり2.05リンギット(約70円)と非常に安い点である。これに対し、近年ガソリン価格が上昇しているタイやインドネシアでは、ランニングコストの上昇が内燃機関(ICE)車の購入意欲を下げる要因となっている。
ただし、マレーシア政府も財政負担拡大への懸念から、今年6月末よりRON97ガソリンやディーゼルの価格を引き上げ、RON95の価格は据え置く予定である。
マレーシアでは近年、中国系OEMの相次ぐ参入で、新モデルが発売されていることも、市場拡大につながっている。中でも最近目立つのが、中国系の奇瑞汽車(Chery)で、2024年には市場シェアを2.4%まで伸ばしている。Cheryは現地メーカーINOKOMと組んで、現地組み立てを開始。BYDも販売最大手のSime Darbyと組んで参入を図っている。
マレーシア政府は、2025年末までBEVに対して関税と物品税の免除措置を実施していることから、BEVの販売は近年増加している(図表3)。
2024年のBEV販売では、BYDが39%で首位、TESLAが24%でそれに続いた。ただし、PROTONが吉利汽車のモデルをベースにしたBEV「eMas 7」を昨年末に発売し、今年はBYDに次ぐ2位に浮上している。マレーシアは都市化率が高く、都市・道路インフラが整備されているため、シティユース目的のBEVとの親和性があるとみられる。
また、PROTONを保有する吉利汽車は、マレーシアを右ハンドルの乗用車EVの拠点として位置づけ、2025年末から現地生産を開始することも市場拡大の後押しとなるだろう。一方で、燃料価格が低く、ICE車の保有コストが低いことは、BEV普及の制約要因になると考えられる。
NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
TEL: 02-611-2951
Email:nrith-info@nri.co.jp
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