在タイ日系製造業の変革~日新電機タイが変われた理由

THAIBIZ No.164 2025年8月発行

THAIBIZ No.164 2025年8月発行在タイ日系製造業の変革 日新電機タイが変われた理由

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在タイ日系製造業の変革~日新電機タイが変われた理由

公開日 2025.08.08

昨今、中国企業の台頭やタイ国内の市場低迷などにより、多くの在タイ日系企業が苦境に立たされている。タイ進出当初から「生産拠点としての機能」を主に担ってきた日系製造業も、産業構造の変化に伴い、従来の事業活動の維持だけでは生き残れなくなってきている。

本特集では、在タイ日系製造業が直面する課題と対策を整理するとともに、現地主導による変革の好例とも言える日新電機タイへの取材を通して、製造業が成功するためのヒントを探る。

進出ピークから10年、日系製造業に迫る変化の波

今、在タイ日系製造業に何が起こっているのか。在タイ日系中小事業者等の海外事業を幅広く支援する日本政策金融公庫(JFC)バンコク駐在員事務所の山本直毅氏は、「JFC(中小企業事業)の取引先現地法人のタイ進出社数の推移をフローベースで見ると、為替レートが1ドル80円前後で推移した2011年頃から急増し、2013年にピークを迎え、それまで最多の進出社数を維持していた中国を抜いた。

この年を境にタイへの進出社数は減少傾向にあり、現在は落ち着いている(図表1)」と解説する。進出ピークは過ぎたようだが、現在タイには約6,000社の日系企業が存在しており、日本にとってタイが重要なビジネス拠点であることは変わっていない。

出所:JFC「取引先海外現地法人の進出概況等について」(2025年7月)を基にTHAIBIZ編集部が作成

しかし昨今は、中国企業の台頭や安価な中国製品の流入、関税措置を含む米中貿易摩擦、タイ国内市場の低迷などが影響し、多くの在タイ日系企業は厳しい局面にある。

特に、日産自動車やスズキなど日系大手自動車メーカーが生産拠点の集約やタイ撤退を決定したとの報道は記憶に新しく、自動車関連の製造業者が多く集積するタイでは「日系企業のプレゼンス低下」も叫ばれている。

同氏は「タイの取引先現地法人の約7割を占める日系製造業を俯瞰すると、これまで日系顧客の多様なニーズに対応するために技術的な工夫を重ね、生産の効率化やコスト低減を実現することで信頼を獲得し、タイでの事業基盤を確立してきた企業が多い」とした上で、「現在は特に、雇用関連と販売関連の課題に悩む企業が多い」と説明する。

賃金の上昇に直面するも、価格に転嫁できない実情

JFC(中小企業事業)の取引先現地法人を対象に行ったアンケート結果をまとめた「第14回取引先海外現地法人の業況調査報告」(2025年1月公表)によれば、「現在直面している課題」に対する回答は「賃金の上昇」「販売数量の減少」「販売先の減少・確保」が上位を占めた(図表2)。

出所:JFC「第14回取引先海外現地法人の業況調査報告」(2025年1月公表)を基に
THAIBIZ編集部が作成

同氏は「タイの取引先現地法人の回答も同様の項目が上位を占めた」とし、「賃金の上昇については、タイ国内の物価上昇に伴い定期昇給等の施策を講じている上、今年1月の法定最低賃金の改定により、特に日系企業が多く集まるチョンブリー県、ラヨーン県等では従前比10%以上の引き上げがあった」と、課題の大きさを語る。

賃金上昇率だけを見れば、他のASEAN主要国と比べて緩やかではあるものの、経済の先行きが不透明でコスト競争の厳しいタイでは、賃金上昇を理由とした販売価格への転嫁は受け入れられにくく、現実的ではないという。

さらに同氏は、「続々とタイに進出する中国系企業から日系企業のタイ人マネジメント層が引き抜かれるケースもある。従業員の確保を課題とする企業も多く、優秀な人材の確保・定着を図るため、給与体系の見直しに取り組む企業もある」と、賃金上昇には中国系企業の増加の影響もあることを示した。

新規販路開拓に向けた動きが活発化

「販売数量の減少」「販売先の減少・確保」という販売関連の課題について山本氏は、「従来は製造拠点として既存取引先と共に成長してきた日系企業だが、こうした課題を乗り越えるべく、最近では営業人員の拡充や商談会・展示会の活用など、新規販路開拓に向けた動きが活発化している」と解説する。

JFCバンコク駐在員事務所が毎年開催する「日タイビジネス商談会」も、販路開拓における重要な場として機能している。2025年2月に開催した同商談会では、144社(日系企業116社、タイローカル企業28社)が参加し、222件の商談が実現。

新規事業の立ち上げに向けたサプライヤー候補との商談機会や、異業種参入に向けた新規企業へのアプローチ、タイ企業への販路開拓等、参加企業が様々な機会を獲得した。

同氏は販路開拓の手段について「各企業によって多種多様だ」とした上で、具体的には「既存製品の前後工程も受注し既存分野で事業拡大を試みる、タイ企業や外資系企業への新たな販路を模索する、自社の技術を活かして新分野での事業参入を目指す、などの動きが見られる」と解説する。

さらに、今後市場拡大が見込まれるインド等の海外市場開拓にも関心が高まっているという。

人材育成、企業間の連携、本社の関与がポイント

山本氏は「厳しい環境下にありながらも、生き残りをかけて現地法人の経営改革に取り組む在タイ日系企業が多く存在する」と実態を明かし、主な成功のポイントとして「人材育成」「企業間の連携」「本社の関与」の3点を挙げた。

人材育成については「長期的な視野での取り組みが必要である」とし、企業間の連携については「自社単独での受注が難しい案件に対応するため、他社と連携し、対応できる仕事の幅を広げる取り組みも見られる。

市場が低迷する中、企業間の連携を通じて外部の経営資源を活用しながら、ビジネス機会の拡大を図る取り組みは有効だ」と説明。本社との関係については「現地法人に十分な権限や裁量が与えられていない場合には、本社に積極的に関与してもらい経営改革に取り組む必要があるが、簡単ではない。

まずは少しずつ実績を作りながら本社の信頼を獲得する、という流れが現実的かもしれない」と持論を展開した。

THAIBIZ編集部では、まさに人材育成と企業間の連携で実績を積み重ねた結果、本社の信頼を勝ち取った日新電機タイの取り組みを取材した。次頁からは、同社の変革ストーリーを詳しく紹介する。

Interviewee

日本政策金融公庫 バンコク駐在員事務所
山本 直毅

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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