廃タイヤが未来を動かす 〜 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略

THAIBIZ No.166 2025年10月発行

THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略

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廃タイヤが未来を動かす 〜 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略

公開日 2025.10.10 Sponsored

廃タイヤのリサイクルは重要な転換期を迎えている。不法投棄や埋め立てによる深刻な環境問題に加え、世界的に資源循環の促進に向けた規制強化が加速しているからだ。

こうした課題に対し、グローバルなネットワークと調達力を持つ阪和興業株式会社のタイ法人Hanwa Thailand Co., Ltd.(以下、阪和タイランド)が新たな一歩を踏み出した。同社は今年7月9日、タイヤの熱分解リサイクル事業者Pyro Energie Co., Ltd.(以下、パイロエナジー)への出資参画を発表。

本特集では、両社が目指すサーキュラーエコノミーの実現に向けた資源循環戦略の全貌に迫る。

廃タイヤの課題解決が次なる商機へ

◎上野 淳 氏
Hanwa Thailand Co., Ltd.
Managing Director

1970年1月29日生まれ。2011年4月に阪和興業大阪本社燃料第二課長に就任。2018年4月、東京本社エネルギー第一部長を経 て、2023年4月より現職。

◎ピーラポン・ウラピーポン 氏
Pyro Energie Co., Ltd.
CEO

1980年9月10日生まれ。2008年に父とともにIRR CORPORATIONを設立し、再生油事業を開始。2016年にパイロエナジーを 設立し、CEOに就任。

廃タイヤの適正処理については、環境対策の一環として各国・地域の政府当局やタイヤ業界などが中心となってさまざまな取り組みを展開しているものの、世界各地での大量廃棄による環境負荷の問題は依然として解決に至っていない。

「廃タイヤのリサイクルに関する規制や基準、進捗状況は国ごとに異なり、処理や物流の面で課題は多く残る。今後国際的な廃タイヤの課題を解決していくためには、業界や国を越えた協力体制と統一的な枠組みづくりが不可欠だ」と阪和タイランドのマネージング・ディレクター上野淳氏は現状を分析する。

こうした中、世界の主要タイヤメーカー各社は、より一層環境に配慮したタイヤ製造を実現するために、「2050年までにサステナブル原料の使用比率を100%にする」という野心的な目標を掲げている。このような流れを受け、近年廃タイヤをタイヤ原料にリサイクルする革新的な技術への関心が高まっており、実用化も進みつつある。

タイで早期に市場を確立できれば、ASEAN、そして世界に広がる巨大なサプライチェーンの中で優位性を築ける可能性を秘めている。

阪和興業と廃タイヤリサイクル事業の始まり

1947年に創業した阪和興業は、鉄鋼事業を主力に事業を多角化し、現在世界各地60ヵ所以上に拠点を構え、ダイナミックなビジネスを展開している。海外事業においては、「東南アジアに第二の阪和を」をスローガンに掲げ、積極的な投資や戦略的パートナーとの協業を強化している。

1976年に設立された阪和タイランドは、阪和興業の東南アジア拠点として2番目に古い歴史を持ち、来年設立50周年を迎える。タイではアルミおよび銅スクラップのリサイクルが主力事業となっている。

上野氏と廃タイヤとの出会いは15年前にさかのぼる。当時、インドネシアを旅行中だった同氏は車での移動中に、川の中に不法投棄された無数の廃タイヤを目にして衝撃を受けた。その時に「このような問題を解決できる仕事がしたい」と強く思ったという。

その後しばらくして、大阪でエネルギー関連の仕事に携わっていた同氏に、ある先輩から「沖縄県で不法投棄された大量のタイヤを処理できないか」という相談があった。そこで、当時担当していた取引先に話を持ちかけたところ、トントン拍子に話が進み、沖縄からタイヤチップ(廃タイヤを細かく裁断したもの)を船で運び、納入することになった。これが阪和興業の最初のタイヤチップの取引だった。

当時から日本ではタイヤチップは、製鉄工場やセメント工場、製紙工場などのボイラー用の代替燃料(サーマルリサイクル)として、すでに活用されていた。

「私自身はまったくの素人でスタートし、失敗も経験した。荷揚げしたタイヤチップからゴミがたくさん出てくるなど、想定外のことばかり。きれいに処理できたと思っても、まだまだ甘かった」と当時の苦い思い出を明かす。

阪和タイランドの上野マネージング・ディレクター

タイヤ熱分解リサイクル事業のパイオニア

タイで廃タイヤの処理問題に着目し、2016年に設立されたのがパイロエナジーだ。

「タイは自動車産業の集積地として、世界の主要なタイヤメーカーが工場を構え、サプライチェーンがすでに構築されていた。しかし、タイヤのリサイクルに関する法整備は遅れており、明確な基準が存在していなかった。そのため、製造過程で出る規格外タイヤや廃タイヤを適切に処理できる事業者がほとんどおらず、深刻な環境問題となっていた。一方で、未整備な分野だからこそ開拓余地がある。われわれはそこに市場機会を見出した」と、同社最高経営責任者(CEO)のピーラポン・ウラピーポン氏はタイヤリサイクル事業への参入経緯を語る。

現在同社は、廃タイヤの回収からタイヤ熱分解油の製造・販売まで一気通貫で手がけるリーディングカンパニーとして、タイ最大の市場シェアを誇っている。環境配慮への姿勢も徹底しており、国際標準化機構(ISO)や国際持続可能性炭素認証(ISCC) PLUS/EUなどの複数の国際認証も取得している。

上野氏は「タイヤリサイクル事業においては安定した原料確保が鍵となるが、パイロエナジーはタイ全土に強固な回収網を持ち、熱分解に関する技術やノウハウも業界トップクラスだ」と評価する。

阪和タイランドとパイロエナジーの出会い

日本でのタイヤチップの需要の高まりを受け、阪和興業では世界各地に仕入れ網を拡大している。タイもその輸入先の一つである。阪和タイランドがパイロエナジーに初めてコンタクトをとったのは、2023年12月のことだ。

「阪和タイランドからタイヤチップを購入したいと連絡を受けた。日本では廃棄物の輸入規制があると認識していたため、なぜタイからわざわざ日本に輸入しようとしているのか興味を覚えた」とピーラポン氏は当時を振り返る。

その後両社は、日本とタイで異なる廃タイヤのリサイクル事情や熱分解技術、将来の事業構想などについて何度も話し合いを重ね、その中で協業による新しい事業モデルのアイデアが生まれたという。

「われわれは技術力には自信があるが、その一方で海外市場のマーケティングや営業面では課題があった。阪和タイランドのグローバルネットワークは、その課題を解決できるものだった」とピーラポン氏は続ける。

さらに印象を深めたのは、同氏が阪和興業の日本本社を訪れた時だ。「本社の方々と話す中で、会社としてのビジョンが明確で、われわれと新しい挑戦を一緒に実現したいという熱意を感じた。われわれの方向性とも合致し、チームとしての相性のよさが最大の決め手だった」と協業パートナーに至る過程を説明する。

阪和タイランドにとってもパイロエナジーとの出会いは、新たな世界を知るきっかけとなった。上野氏は「当時、われわれも熱分解処理という技術は知っていたが、日本では成功事例がほとんどなく、正直懐疑的だった。しかし、議論を重ねるうちに熱分解に関する理解が深まり、パイロエナジーが製造した再生原料を当社のグローバルネットワークを活用して、海外展開していくという構想が描けた。何よりもピーラポン氏の事業に対する熱い思いや真摯な対応、決断の速さに感銘を受けた。短期的な収益ではなく、長期的な視点でのタイヤリサイクル事業の将来の構想を共に描けたことが出資の決め手だった」と強調する。

こうして、両社は互いに尊敬・信頼し合い、将来の事業構想を共有する協業パートナーとしてタイヤリサイクル事業に乗り出した。

サーマルからケミカルへ、廃タイヤリサイクルの道筋

廃タイヤリサイクルのアプローチは、国や地域によって大きく異なる。日本では経済合理性と制度面の整備により、サーマルリサイクルが主流となっている。

日本自動車タイヤ協会(JATMA)によると、2024年時点で日本での廃タイヤの有効利用量は69万2,000トン、有効利用率は99.6%に達し、その内84.2%をサーマルリサイクルが占めている。法規制や熱分解油の需要不足により、熱分解リサイクルは経済合理性を見出しにくいのが現状だ。

パイロエナジーのピーラポンCEO

一方タイでは、熱分解リサイクル技術がすでに普及しており、コスト優位性などを背景に事業化に適した環境が整っている。こうした日タイの違いを踏まえ、ピーラポン氏は「熱分解リサイクルは日本国内よりも需要のある海外市場で展開する方が成功しやすい」と分析する。

さらに「日本企業は世界各地に製造拠点を持つため、現地の需要に応じた事業展開の基盤がある。日本では実証困難な技術も、海外ではスピード感を持って実装できる。国境を越えた協働が進めば、この分野はさらに発展するはずだ」と持論を展開する。

ピーラポン氏によると、タイにおける廃タイヤリサイクルについては4つのフェーズがある。第1フェーズは、プランターや船舶の防舷材など形状をほぼ維持したまま別の用途での活用。第2フェーズは、タイヤチップを燃料として利用するサーマルリサイクル。第3フェーズは、廃タイヤから熱分解で抽出した油の燃料活用。そして第4フェーズが、熱分解油から化学原料へ変換するケミカルリサイクルだ。

パイロエナジーは第3フェーズに位置し、廃タイヤの熱分解により生成した分解油やカーボン残さ(Char)、スチールワイヤーを各業界の顧客に供給している。

「われわれの目標は、パイロエナジーからパイロケミカルへの進化だ。単なる燃料製造にとどまらず、熱分解で生成した資源を化学原料に変換し、より付加価値の高い製品開発を目指している」とピーラポン氏は展望を示す。

タイヤからタイヤ、さらにその先へ

今後の事業展開について上野氏は「廃タイヤを確実に回収し、不法投棄や埋め立てによる環境汚染を防ぐ仕組みづくりが不可欠だ。その上で、回収した廃タイヤを燃料として利用するだけでなく、より環境負荷の低いサステナブル原料としてISCCを付与して循環させていく。これは、タイヤメーカー各社が掲げるサステナブル原料使用比率100%の目標達成にも寄与するものだ」と強調する。

両社の協業が目指すのは、「タイヤ to タイヤ」というサーキュラーエコノミーの実現だ(図表1)。

出所:阪和興業の提供資料をもとにTHAIBIZ編集部が作成

この構想を実現するには、まず熱分解で生成した再生原料の成分純度を高める技術開発が不可欠となる。これはパイロエナジーの担当領域だ。

しかし、再生原料を効果的に循環させていくためには、新たなサプライチェーンの構築が求められる。再生原料は、化学メーカーや素材メーカーでタイヤの素材として利用できるように改質・加工工程を経て、最終的にタイヤメーカーに還元される必要があるためだ。これは既存の流通システムや慣行を根本から変革する作業であり、相当な労力を要する。阪和タイランドが担うべき役割は、まさにこの複雑なプロセスにおける「つなぎ役」だ。

「われわれは、これまでエネルギーや石油化学、素材メーカーなど幅広い業界との強固なネットワークを築いてきた。その強みを最大限活かし、各メーカーを巻き込みながら、廃タイヤ由来の原料を確実に価値ある製品へと昇華させる。そのサプライチェーンの構築こそが、われわれのミッションだ」と上野氏は力強く語る。

リサイクル事業を通じて拓く未来

こうした仕組みづくりの先に見据えるのは、より大きな社会的インパクトの創出だ。企業活動において「サステナビリティ」はもはや避けては通れないメガトレンドとなっており、環境や社会への影響を配慮した長期的な視点が求められている。

「廃タイヤの適正処理は、社会課題の解決そのもの。まずはタイで成功モデルを確立し、ASEAN諸国、さらにわれわれがまだ進出していない地域にも展開し、この取り組みをグローバルに広げていきたい」と上野氏は将来の構想を語る。

ピーラポン氏も挑戦の意欲を示す。「当社はすでにタイ国内で複数の工場を稼働させ、業界トップの地位を築いている。しかし、世界規模で見るとまだ小さな事業に過ぎない。次なるステージは、海外市場で熱分解リサイクルを展開していくことだ。阪和タイランドとともに世界の廃タイヤの課題解決と、タイヤのサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいきたい」。

阪和タイランドとパイロエナジーは、タイを起点として新たなサプライチェーンの構築に挑み、熱分解リサイクル技術をグローバルに展開していく。両社が描く未来は、廃棄物が価値ある資源として循環し、環境負荷を大幅に低減する持続可能な社会だ。サーキュラーエコノミーの理念を現実の産業構造へと落とし込み、真の持続可能な社会を築くための挑戦は、今まさに歩みを始めたところだ。


Hanwa Thailand Co., Ltd.

阪和タイランドはグローバルなネットワークと調達力を持つ阪和興業株式会社のタイ法人です。鉄鋼部門と食品部門を中核事業として設立したのち、戦略的に事業領域を拡大し、リサイクルメタル部門およびマテリアル部門を設置。現在、タイ国内外での市場プレゼンスが高まっています。

E-mail:hkt-material@hanwa.co.jp
Website:https://hkt.hanwa.co.th
 


Pyro Energie Co., Ltd.

パイロエナジーは廃タイヤからタイヤ熱分解油の製造・販売を行う、タイ国内最大手のリーディングカンパニーです。年間生産能力は5,500万リットルを超え、2028年までに9,500万リットルへの拡大を見込んでいます。タイヤ熱分解油やカーボンブラックを含む製品の品質向上を継続的に推進しています。

E-mail:wachirawit.cha@pyro-energie.com
Website:www.pyro-energie.com
 


THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック

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岡部真由美

THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート

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