ASEANと築く信頼のネットワークが財産 「タイにいるからこそ見える最前線のニーズ」

THAIBIZ No.166 2025年10月発行

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ASEANと築く信頼のネットワークが財産 「タイにいるからこそ見える最前線のニーズ」

公開日 2025.10.10

近年、在タイ日系企業がASEANの統括拠点としての役割を担うことは、もはや珍しくなくなった。こうした体制の下では、日本人駐在員にはタイだけでなく、ASEAN全体のニーズに応える能力が求められる。

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局の眞治耕平氏は、「タイだからこそ捉えられるニーズがあり、ここでしかできない挑戦ができている。いま築き上げているASEANネットワークは、日本とASEANの今後の関係強化に不可欠な資産となるはずだ」と語る。

日ASEANの経済連携促進に向け、ASEAN各国との調整を推進

Q. AMEICC事務局の組織概要と眞治さんの経歴について教えてください

AMEICC事務局は、1997年にマレーシアで開催されたASEAN-日本サミット会議の承認を受け、1998年に日本とASEANの経済連携を促進するためにバンコクに設立されました。産業協力の強化、ASEANの競争力向上、新加盟国への開発協力支援を目的とする政策協議機関です。

事務局は、日本の経済産業省、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)からの出向者3名と、タイ人スタッフ2名で構成されています。ASEAN事務局はAOTSバンコク事務所に設置され、閣僚レベルの会議体、分野別作業部会、日ASEAN協力プロジェクトの運営を担っています。

私は2014年に新卒でJETROに入構し、国内事務所の新設支援やとりまとめ、仙台での農林水産物輸出支援、東日本大震災からの復興支援業務等を経験しました。2023年には初の海外赴任として来タイし、現在はAMEICC事務局とAOTSバンコク事務所に出向しています。今回は、AMEICC事務局でのミッションと挑戦についてお話します。

Q. AMEICC事務局での役割について、詳しくお聞かせください

私は主に、日ASEANの経済連携において重点的に促進すべき分野に関する作業部会の運営を担当しています。

具体的には、①自動車産業における協力強化に向けた議論や情報交換を目的とした「自動車産業」、②日ASEANの化学産業の発展を促進し、化学関連の規制や政策に関する情報提供を目的とした「化学産業」、③ASEAN中小企業の発展支援を目的とした「中小企業」、④メコン地域の主要分野における開発促進を目的とした「西東回廊開発」—の4つの作業部会です。

各部会では、ASEAN各国の経済産業省や民間代表との会議体を定期的に開催しており、現場のニーズを正確に把握しながら、各国との円滑な調整を進めることが不可欠です。

これらの部会運営を停滞させることなく推進することが私の主な役割ですが、2023年に日ASEAN友好協力50周年を迎えたことを契機にAMEICC事務局の役割は一層強化されました。作業部会に紐づく調査などの個別プロジェクトは、従来の約3倍以上へと増加し、これらプロジェクトのマネジメントも私にとって重要なミッションの一つとなっています。

相手の立場に立った双方向的なコミュニケーションを意識

Q. ASEAN各国との調整業務で意識していることなどは

私たちは、日本政府とASEAN各国の間に立ち、それぞれの意思決定をスムーズに進められるよう調整することが多いのですが、国によってスピード感や文化が異なるため、一筋縄ではいかないこともあります。時には、一度示された方針が覆ることもあり、プロジェクトを推進するには多くの時間を要します。

このような業務においては、各国の状況を深く理解した上で、地道かつ細やかな対応を積み重ねるほかありません。私が最も意識しているのは、「共創」のパートナーとして相手の立場を尊重することです。

かつては日本がASEANの発展を支援するという時代もありましたが、近年はASEAN各国を対等なパートナーとして位置づけることが重要視されています。そのため、いかなる分野においても相手の立場に立った双方向的なコミュニケーションを心がけ、日ASEANのこれまでの関係性を維持・発展させることに尽力すべきと考えています。

Q. スムーズな調整を進めるために、所内でどのように連携を図っているか

勤続20年のベテランタイ人スタッフとの連携は、特に欠かせないと感じています。各国の特徴やこれまでの経緯を熟知している彼女のノウハウ、そして長年にわたり築いてきたネットワークには目を見張るものがあります。

例えば、過去に調整のやり取りをしていた担当者が現在はその国での重要なポジションにいるといったケースもあり、そうしたキーパーソンと気軽に連絡を取ることができる彼女の存在は、AMEICC事務局にとって非常に貴重です。

実を言うと、来タイ前は、文化や国民性の違いがあるタイ人と働くことに、少し不安な気持ちを抱いていました。しかし彼女は長年にわたり日本人と仕事をしてきたため、日本的な働き方が自然と身についており、よく耳にする「タイ人と働く上での戸惑い」とは無縁です。むしろ彼女から学ぶことも多く、私自身、肩書にとらわれず素直に学ぶ姿勢を大切にしています。

タイでの経験を活かし、今後もASEANに関わる仕事がしたい

Q. 任期中の今後の目標や、長期的なビジョンについて教えてください

タイは、ASEAN域内における地理的な中心性、多様な産業基盤、安定した経済、そして確立されたインフラが揃っており、その優位性はASEANの経済ハブとしての役割を強固にしていると感じます。実はAMEICC事務局では、このタイに位置しているからこそ捉えられるニーズに基づき、従来は実施していなかった新しい事業にも取り組んでいます。

例えば、東西と南北経済回廊が重なるタイ東北部のコーンケーン県で昨年開催されたバイオテクノロジー関連の展示会へのジャパンパビリオン出展や、ラオスの手工芸品産業のバリューチェーン全体を高度化するための支援プロジェクトなどです。

AMEICC事務局にはこうしたノウハウがなかったため、私はJETROでの経験を活かし、事業の推進に貢献しました。また、こうした取り組みには現地の経済団体や関係機関等との連携が不可欠です。異なる組織の強みを組み合わせ、新たな事業を創出する活動は大きなやりがいとなっており、今後もこうした活動に力を入れていきたいと考えています。

現在のポジションでの業務を通じて、「今後もASEANに関わる仕事がしたい」という思いが芽生えました。ベテランタイ人スタッフの姿からも、国を跨いだ調整業務の経験や、このタイで構築するASEANとのネットワークが、所属組織にとって貴重な資産となることを実感しています。

引き続きASEANの最前線に立ち、関係性を強化していくことで、自身のキャリアにも、そして日本とASEANの未来にも貢献していきたいと考えています。


眞治 耕平 氏
Deputy Chief Representative
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局

2014年、JETROに新卒入構。本部企画部で国内事務所の新設支援等を担当後、2016年に仙台の地域統括センターに赴任。2019年に東京本部企画部へ戻り、組織全体の事業統括、関係省庁との調整業務等を担当。2023年1月より現職、AOTSバンコク事務所次席代表を兼務。

THAIBIZ編集部

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