技術実証と“きっかけ作り”で、日本の技術を事業化に導く

THAIBIZ No.166 2025年10月発行

THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

技術実証と“きっかけ作り”で、日本の技術を事業化に導く

公開日 2025.10.10 Sponsored

NEDOは、委託事業や補助金を通じて、日本企業の技術開発から実証、普及までを支援し、事業化へと導いている。海外展開支援においては、従来は日本で確立された技術を主に対象としてきたが、近年では“技術ありき”ではなく、現地資源の活用や現地パートナーとの連携を通じ、新技術の研究開発から取り組むケースも増えている。

今回は、NEDOの支援制度や事業化への取り組みについて、NEDOバンコク事務所の川村寛範所長に話を聞いた。

第7回】国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)


国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) バンコク事務所長 川村 寛範

NEDOバンコク事務所 エネルギー・地球環境問題の解決と日本の産業技術力の強化をミッションとし、日本企業の技術開発を支援する組織。バンコク事務所は1993年に設立。ASEAN10ヵ国を所管地域として、国際事業の支援やエネルギー・産業技術分野の関連情報収集など、幅広い活動を展開している。

お問い合わせ TEL: 02-256-6725­/6726­(日本語可) Website: www.nedo.go.jp/introducing/bangkok_office.html


木下 NEDOの組織概要やタイ進出の経緯について教えていただけますか。

川村 エネルギー・地球環境問題の解決と日本の産業技術力の強化をミッションとし、日本企業の技術開発を支援する組織です。産官学の知を結集し、新技術を事業化へ導くことで、人々が暮らしやすい未来を目指しています。研究開発から実証、普及まで一気通貫に支援している点が大きな強みです。

バンコク事務所は1993年に設立され、現在ASEAN10ヵ国を所管しています。新技術を持つ日本企業が海外展開に挑む際には、現地の法規制など民間だけでは解決が難しい課題が数多く立ちはだかります。こうした課題は、公的機関であるNEDOが橋渡し役となることで解決できる可能性があります。その役割を果たすため、日本企業が数多く集積するタイに拠点を設立しました。

木下 海外、特にタイでの実証事業において、従来からの変化を感じる部分はありますか。また、タイで特に注力しているテーマや分野があれば教えてください。

川村 従来は日本国内での研究開発の成果を海外へ展開することが中心でしたが、近年は日本市場の縮小やASEAN市場の拡大に加え、技術開発に必要な資源が海外に多く存在することから、現地で研究開発を始めるケースが増えています。

タイはバイオマス資源が豊富で、未利用のバイオマス原料を利用した新技術の研究開発を支援した事例もあります。バイオリファイナリーにはタイ政府も注目しており、今後も日タイで推進していける分野だと考えています。

また、タイでもカーボンニュートラルへの意識が高まっており、CCU(二酸化炭素を分離・回収し、さまざまな製品へ変換・利用する技術)やSAF(持続可能な航空燃料)といった技術のニーズも拡大していくと考えています。化学プラントから排出されるCO2と水素を原料とした非化石由来の化成品製造に関する研究開発も進めています。

木下 タイ社会に大きなインパクトを与える可能性がある取り組みを教えていただけますか。

川村 現在タイでは10件以上のプロジェクトが進行中ですが、その中でも特に注目しているのが2023年度から実施している「住宅向けIoTシステムと住空間設計技術に関する実証事業」です。

人の快適性とエネルギー効率を同時に高める温熱気流制御技術の実証を進めており、 室温に応じて換気や風量を自動調整することで無駄な電力消費を抑え、快適性を高めながら20〜30%の省エネを実現できることが確認されました。

「住宅向けIoTシステムと住空間設計技術実証事業」イメージ図(提供:Panasonic Solution社)

日常のちょっとした工夫で大きな省エネ効果を得られる点が評価されています。最先端の技術だけでなく、複数のシステムを組み合わせることで現地の暮らしに合った解決策を生み出せる。この「現地適応型の省エネモデル」は、タイ社会に広がる大きな可能性を持っていると考えています。

木下 海外展開を目指すうえで「最初の一歩」として実証事業を行うことのメリットや、その過程で企業が直面する壁に対して、NEDOはどのような支援を行っているのか教えてください。

川村 新しい技術の場合、実際に動くモデルがあるかどうかで説得力が大きく変わります。目の前に機器やシステムがあれば、タイ側も導入のイメージを具体的に持ち、前向きに検討してくれますが、構想だけではなかなか進展しません。その意味で、第一号機を導入する意義は非常に大きいと考えています。

海外展開においては、新技術やサービス導入時に、現地政府への説明や許認可申請がハードルになるケースは珍しくありません。特にタイに初めて進出する中小企業やスタートアップの場合は、ネットワークづくりに課題を抱えている企業も多く見受けられます。

そうした際に、NEDOは行政との橋渡しやマッチング、さらに関税・法規制など共通課題のノウハウ提供を通じて、企業が効率的に実証から普及へ移行できるよう支援しています。

木下 タイに進出、あるいは今後挑戦しようとする日系企業が利用可能なNEDOの支援内容、具体的なマッチング支援の事例を教えていただけますか。

川村 日本企業の技術やシステムの海外展開を支援する「国際展開支援」制度がありますが、支援内容が多岐にわたり内容も複雑なため、支援活用の可能性が見えてきた段階で直接ご相談いただければと思います。

公募に応募する際には、事業の背景、課題に加え、タイ政府の方針との整合性を示すことが重要です。タイの事業環境に関する情報提供等も行っていますので、お気軽にお問合せください。

マッチング支援では、WHA Corporation PCL(WHA)やロジャナ工業団地と連携し、入居企業30社を対象に無料の省エネ診断なども実施しています。その結果、省エネの余地がある企業に、解決策を持つ日系企業を紹介する取り組みを行っています。

成果はこれからですが、補助金の提供にとどまらず、海外展開の“きっかけづくり”も支援していきたいと考えています。

木下 新しい技術を社会に根付かせるために、JICAなど公的機関との連携でどのような相乗効果が期待できるとお考えでしょうか。また、在タイ日系企業、または進出予定の日系企業に向けてメッセージをお願いいたします。

川村 技術そのものが優れていても、制度的・構造的な課題によって事業化が進まないケースは少なくありません。そのためにJICAや日本大使館とも連携し、実証事業後も継続して支援することが非常に大きな意味を持ちます。

公的機関が役割をつなぐことで、社会実装の道筋がより確かなものになります。今後も制度や知見を共有し合いながら、切れ目のないシームレスな支援を実現していきたいと考えています。

日本の技術力は今も世界トップクラスの分野が数多くあり、それを必要としているタイの企業やその導入プロセスに関心の高い政府は数多くあります。

私たちは、その橋渡し役としてバンコクに拠点を構えています。ぜひ気軽に声をかけていただき、海外展開の第一歩として活用していただければと思います。日本の技術を活かし、日タイ双方の発展に貢献できるよう、これからも全力でサポートしてまいります。

JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。開発学修士、MBA保有。
Email:ti_oso_rep@jica.go.jp

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

THAIBIZ No.166 2025年10月発行

THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE