THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: SBCS - タイ経済概況
公開日 2025.10.10
タイの合計特殊出生率は2024年に1.20となり、日本の1.22を下回った。ASEAN諸国の中ではシンガポールの0.95に次いで低い。今年60歳になる人が生まれた1965年の出生率は6.26もあり、日本の同年の2.09と比較しても非常に高かったと言える。ただし、同年のASEANの他の国を見てみると、4.67だったシンガポールを除くすべての国で5を超えており、東南アジアはまだまだ多産の時代だった。
その後、タイの出生率は1973年に5を、1977年に4を、1982年に3を、1993年に2を下回り、以降も低下が続いた。そして2016年には日本の出生率を下回り、その後も日本とほぼ同水準で推移している。この10年、タイは日本と同レベルの出生率で推移してきた(図表1)。
現時点では前述のとおり出生率が6を超えていた世代が高齢者になりつつあり、彼らが子供の面倒を見てくれるなど、大家族で育児を分担することも可能だ。タイには親戚を含めて育児をサポートする文化がある。
さらに経済的に余裕があれば子供の世話をするためにお手伝いさんを雇っていることもある。就労者にとっての育児の負担は相対的に日本より少ないように感じるが、少子化は進んでいる。これは育児の負担よりも経済的負担、女性の社会進出、ライフスタイルの変化等の要因が大きいのだろう。
一方、日本では少子高齢化が社会問題として広く認識され、何とか少子化を食い止めようと政府がさまざまな政策を講じている。例えば児童手当、育児時短就業給付、さらには結婚支援まで行っている自治体もあるという。しかし、タイではそのような少子化対策の動きはほとんど見受けられない。
日本でよく言われるのは「2024年時点で高齢者1人を現役世代2人が支えている。この割合が少子高齢化で年々悪化する(現役世代が減る)」ということだ。
ここで注目したいのは“支える”という言葉の意味だ。日本は社会保険料や年金という形で、現役世代が稼いだお金が高齢者に回り、文字通り高齢者を“支える”仕組みになっている。これが少子高齢化で現役世代が支えられなくなり、社会保障制度が崩壊するという問題が指摘されている。
一方、タイはというと「高齢者を現役世代が支える」という社会保障制度には日本ほどにはなっていない。タイのサラリーマンの場合、社会保険料を15年以上納めると年金を受給できるが、その額は月3,000バーツ(+15年を超える部分は1年に1.5%追加)。当然、これでは不足するので、それを見越して民間の年金や積立を利用しているケースが多い。
また、子供が親に仕送りをする文化も根強く、2021年の統計局の調査では「高齢者の主たる収入源が子供」と回答した割合が32%に上った。しかし、親に仕送りをしている本人が「自分の人生を楽しむために子供を持たない」という選択をしている人も少なくない。
社会保障制度に頼れない前提なので、老後については個人の問題、と考えることになる。もちろん、タイでも人口減少や就労人口の減少による国力の低下は懸念されている。しかし、周辺国から流入してくる労働者が労働力不足を穴埋めしている。その人数は就労者数の1割近くに達し、さらに増加傾向だ。このため、労働力不足から国力の低下が問題となるのはもう少し先だろう。
こうして見てくると「タイの社会保障制度の整備不足が、少子高齢化の社会問題としての顕在化を遅らせており、結果として政府が少子化対策に積極的に取り組むモチベーションも低い」ということではないだろうか。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の8月18日の発表(図表2)によると、2025年第2四半期の経済成長率は前年同期比+2.8%となり、前期(第1四半期)の+3.2%(改定値)から減速した。業種別に見ると、農業は前年同期比+6.0%と、前期の+6.2%から引き続き堅調に推移。
製造業も+0.8%と、前期の+0.4%からやや加速した。一方、サービス業は観光需要の伸び悩みを受けて+3.5%となり、前期の+4.1%からさらに減速。2025年上半期の経済全体の成長率は+3.0%だった。
また、同委員会による2025年通年の成長率見通しは、米国との相互関税や家計債務の高止まりによる影響が続くものの、公共投資支出の増加および民間投資の回復が見込まれることから、+1.8〜2.3%と、前回予想からレンジを絞って上方修正された。
タイ商務省の7月24日の発表によれば、2025年上半期の輸出額は前年同期比+15.0%の1,668億5,000万米ドル、輸入額は同+11.6%の1,669億1,000万米ドルで、貿易収支は6,200万米ドルの赤字となった。
農産物・加工品が同+2.4%(272億3,000万米ドル)、そのうち米は同▲32.3%(22億6,000万米ドル)、天然ゴムは同+19.0%(27億1,000万米ドル)、電子製品・同部品が同+35.6%(336億7,000万米ドル)、自動車・同部品が同▲1.8%(194億2,000万米ドル)だった。
国・地域別輸出額は、首位が米国で前年同期比+29.7%の334億1,000万米ドル。これは、当初7月9日に発効予定だった相互関税の前に駆け込み輸出が発生したことが要因とされている。次いで中国が同+18.8%の209億2,000万米ドル、日本が同+1.2%の117億米ドルだった。
・・・・
タイ投資委員会(BOI)は、2025年上半期の投資申請額が前年同期比+139%の1兆600億バーツ(325億ドル相当)となり、過去最高を記録したと発表。デジタル分野は5,226億バーツと20倍に跳ね上がり、電気・電子(E&E)や鉄道インフラ等も牽引した。
デジタル分野ではデータセンター関連が28件で5,212億バーツ、E&E分野は1,258億バーツで前年同期比▲9%だが、申請件数は268件(同+51%)で、特にバッテリー関連が活発。鉄道インフラは、オレンジライン建設が1,092億バーツとなった。
海外直接投資(FDI)は1,369件(同+59%)、7,376億バーツ(同+132%)で、全体投資額の約70%を占める。国別の投資金額と上位投資元は、シンガポール2,470億バーツ(主にデジタル、E&E)、香港2,186億バーツ(デジタル、E&E)、中国1,023億バーツ(E&E、石油化学・化学)、英国937億バーツ(主にデジタル、自動車)、日本498億バーツ(主に自動車、E&E)。
タイとカンボジアは国境での軍事衝突について、7月29日より無条件で停戦することで合意した。ASEANの議長国であるマレーシアが停戦を仲介し、米国および中国の代表者も参加した。8月2日時点のタイ陸軍の報告によると、死者が32人(うち民間人17人)、負傷者が237人(うち民間人38人)、避難者は約19万人とされている。
タイ・カンボジア国境の状況は、2025年5月末ごろから悪化しており、6月24日から国境が封鎖された。その影響で、6月のカンボジアとの国境貿易額が前年同月比▲23.3%の109億バーツとなり、7月が同▲97.5%の3億8,000万バーツとなった。
SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
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Mail : jhaseba@sbcs.co.th
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SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
Website : https://www.sbcs.co.th/
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