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カテゴリー: 対談・インタビュー, 食品・小売・サービス
連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2025.10.27
JETROバンコクの「2024年度タイ国日本食レストラン調査」によると、タイには5,916軒の日本食レストランがあり、日本食レストラン市場は継続的に成長を続けている。中でも近年勢いがあるのがThe Food Selection Groupだ。
同社は「Shinkanzen Sushi」にはじまり、「NAMA Japanese and Seafood Buffet」や、日本発の「回転寿司 活美登利」など展開ブランドを拡大中だ。この激戦市場において、短期間でいかに事業を拡大したのか。最高経営責任者(CEO)兼共同創業者のチャナウィー・ホムトイ氏とスパナット・サジャラタナクン氏に、開業の経緯、日本の飲食店との提携、今後の事業計画について話を聞いた。
(インタビューは7月14日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

チャナウィー氏:スパナットと私は、タマサート大学商学・会計学部の3年生の時にShinkanzen Sushiを開業しました。これが私自身の起業のきっかけとなりました。飲食店に興味があり、大学周辺にない飲食店を調べたところ、“寿司屋”は少ないことがわかりました。しかし、私は寿司作りの経験がなかったため、日本料理に興味を持っていた同級生のスパナットと共に、まず日本料理のコースに参加し、シャリの炊き方や魚のさばき方といった基礎から学びました。

その後、私たちは、試しに寿司を作って市場で売ってみました。毎日レシピを調整し、常連客にどの味が一番好みか尋ねました。これにより改善に役立つ貴重な情報を得ることができました。約1ヶ月間試行錯誤を重ね、お客様に最も好まれるレシピを見つけました。そこでタマサート大学に「Shinkanzen Sushi」の1号店を開店。高品質で、10バーツからの手頃な価格が特徴です。開店当初は友人に口コミで広めてもらい、予想以上の好評をいただきました。
チャナウィー氏:1号店は予想以上に好調でしたが、当時はテーブルが6つしかなく、お客様を約1時間もお待たせする状況が続きました。そこで待ち時間を解消するために、店舗拡大を考えました。お客様の大半は周辺エリアのタマサート大学とバンコク大学の学生なので、バンコク大学に2号店を出店し、1号店で学んだ失敗点を改善しました。2号店も繁盛したため、ターゲット層を学生に絞り、カセサート大学など周辺大学への出店を決めました。

しかし、大学周辺に出店すると、大学の休みの期間中は来店客が減ってしまうデメリットがありました。そこで、学校や大学に近く若年層を対象とするUnion Mallに出店したところ、社会人や家族連れといった新たな顧客層を獲得。さらに、サイアムスクエアに新店舗をオープンし、Shinkanzen Sushiの評判を聞きつけた百貨店から声がかかり、認知度と顧客基盤を一気に拡大することができました。
スパナット氏:創業当時は大学生だったため、コスト基準ではなく、「この寿司にいくら払えるか」というお客様の感覚で価格設定をしました。現在も新メニューを出す際は同じ考え方で、まず見た目で価格を見積もってから、コストを検証して適正か確認します。必要に応じて、価格に合わせて材料を調整することもあります。
チャナウィー氏:私たちは「手頃な価格で食事を提供する」という考え方をチーム全体に浸透させています。これは友人や大学生向けにはじめた創業当時からの理念で、今もすべてのブランドに適用しています。
チャナウィー氏:サイアムスクエア店を開店した時、私たちは卒業間近で、会社設立を視野に入れていました。当時は経営経験が全くなかったため、「知らないことは、経験者に任せる」という方針で、経験豊富な人材を雇用し、会社とレストランの仕組みを構築しました。そして改善を重ね、運営部やトレーニング部、セントラルキッチン、倉庫など、さまざまな部門を追加していきました。

その後、タイの流通大手セントラル・グループ傘下の外食チェーンを手がけるCRGより資本提携の提案がありました。CRGは飲食業界での経験が豊富で、私たちの会社をさらに発展させる可能性が高い魅力的な提案でした。CRGと話し合いを進める中で、原料の品質を維持しつつ、店舗拡大と国際展開に注力するという当社のニーズに合致していることがわかり、約1年後の2022年に資本提携合意。現在Shinkanzen Sushiは、タイ全土に60店舗以上を展開しています。
チャナウィー氏:Shinkanzen Sushi創業時と同じ発想で新ブランドの確立を進めています。創業当時は「大学周辺にまだない飲食店」を探して出店しましたが、今はさらに規模を広げ、「バンコクにはまだない業態」に目を向けています。調査の結果、“ムーガタ(タイ式焼肉)店”は数多く存在するものの、そのほとんどが屋外型でエアコンがなく、品質や衛生面に不安を感じる人が多いという課題が見えてきました。そこで誕生したのが、深夜2時まで営業する屋内型のムーガタ店「ナックラー・ムーガタ」です。MBK Centerの1号店を皮切りに、現在では10店舗以上を展開しています。


「ナックラー・ムーガタ(左)、NAMA Japanese and Seafood Buffet(右)」The Food Selection Group提供
また、日本のホテルで提供されている、「イクラを好きなだけ食べられる朝食」というコンセプトをヒントに、センタラグランド・アット・セントラルワールドに「NAMA Japanese and Seafood Buffet」を開業。最近では、日本発の回転寿司チェーン「回転寿司 活美登利」のフランチャイズ店舗をタイに出店しました。
スパナット氏:事業の成長と店舗拡大に伴い、現在はリスク分散がより重要になっています。当社は、大衆層向けの「Shinkanzen Sushi」、中上流層向けの「回転寿司 活美登利」、そして富裕層向けの「NAMA Japanese and Seafood Buffet」という日本食ブランドを展開しています。
経営面では、創業当初は店舗運営に専念していましたが、店舗数の増加に伴い、スタッフ全員が組織的に働ける体制づくりや人材育成、計画的な店舗拡大を支えるシステム構築に注力するようになりました。
チャナウィー氏:タイでは回転寿司市場に参入している企業はまだ少なく、成長の可能性があります。私たちは本物の日本ブランドを求めていたため、日本まで足を運び、さまざまな回転寿司店を食べ歩きました。その中で出会ったのが、回転寿司 活美登利でした。 高品質な食材と活気ある雰囲気で、寿司職人とお客様がコミュニケーションを交わし、店内で特別メニューや食事を楽しみながらキャンペーンに参加できる点に惹かれました。ぜひタイで展開したいと考え、直接連絡を取ってみましたが、返答は得られませんでした。


「タイの回転寿司 活美登利」The Food Selection Group提供
そこで、私たちはパートナーのCRGに相談し、日本側とのネットワークを持つセントラルグループのチームと協力。日本食ブランドとの協業実績を紹介したところ、回転寿司 活美登利側も関心を示し、話し合いが実現しました。約1年間にわたり、双方がお互いの現場を視察し、準備を進めました。そして2024年12月、セントラルワールドに1号店を開店。今年中に合計4店舗の展開を目指しています。
チャナウィー氏:タイと日本の文化の違いから、当初はコミュニケーションがスムーズにいかないこともありました。タイ人は率直に意見を伝える傾向がありますが、日本人はより間接的な表現を好みます。また、回転寿司 活美登利にとって海外企業との提携は当社が初めてだったため、お互いにすり合わせながら理解を深める必要がありました。
しかし、レストランの開店を実現させるという共通目標があったため、時間がかからずに進めることができました。タイと日本は“共感”という共通文化があり、関係者全員が全力で取り組み、タイでの開業を無事に実現できました。
チャナウィー氏:日本食は依然として、バンコクだけでなく地方でも高い人気を保っています。バンコクには競合が多いものの、市場全体の売上は堅調です。一方、地方では日本食に対する消費者の購買力が高まっていると感じます。実際に、アユタヤやサラブリーなど地方都市で出店した店舗は好評で、チェンマイやナコーンラーチャシーマー、コンケーンなど各地方の主要都市でも同様の傾向が見られます。
チャナウィー氏:「1県に1店舗のShinkanzen Sushi」を目指して、全国に出店を拡大していきたいと考えています。さらにタイ国内に限らず、近隣諸国の市場にも注目しています。特にナックラー・ムーガタは、タイ式の焼肉文化を海外に広めたいという思いがあり、今後は海外進出も視野に入れています。

スパナット氏:回転寿司 活美登利は、現在タイの主要都市への展開を検討中です。日本側からも海外展開の提案を受けています。私たちはCRGが持つ国際ネットワークを活用できるため、将来的には回転寿司 活美登利の海外展開も視野に入れています。
スパナット氏:私たちは常にタイ進出を検討している日本食レストランを探しており、特にコストパフォーマンスに優れた強みを持つブランドに関心があります。
チャナウィー氏:私はトレンドを把握するために、頻繁に日本を訪れています。最近のトレンドは「専門店」で、この流れは今後タイでも広がっていくと予想しています。現在は、地方の名店を含め、幅広いジャンルの日本食レストランを探しています。

チャナウィー・ホムトイ(Mr. Chanawee Homtoey)
CEO and Co-Founder, The Food Selection Group
タマサート大学商学・会計学部卒業。高校時代からビジネスに興味を持ち、マーケティングを専攻。大学3年の時にスパナット氏を誘い、寿司屋「Shinkanzen Sushi」を開業。

スパナット・サジャラタナクン氏(Mr. Supanus Sacharattanakul)
CEO and Co-Founder, The Food Selection Group
タマサート大学商学・会計学部卒業。会計学専攻。年に4回以上日本を訪問。自然観光や地元の飲食店を巡ることを好む。

THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート

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