タイからOne Teamで目指す 日系製造業のグローバル展開

THAIBIZ No.167 2025年11月発行

THAIBIZ No.167 2025年11月発行TPA29から始まる日タイ共創の新章

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タイからOne Teamで目指す 日系製造業のグローバル展開

公開日 2025.11.10 Sponsored

日本国内では市場縮小や後継者不足といった課題により、事業継続すら困難となる中小企業が増えている。こうした厳しい状況の中、国や企業の枠を越えた“One Team”としてタイをハブに日系製造業のグローバル展開を果敢に推進しているのがYN2-Tech(Thailand)Co., Ltd.(以下、YN2-Tech)だ。

同社の中村亮太社長は、「一社ではできないことも、チームなら実現できる。タイで出会った仲間や、地元・静岡の中小企業を中心に、One Teamでインドを含む東南アジアへの展開を進めていく」と力強く語る。

本特集では、同社長の言葉を通じて彼が率いるOne Team戦略を掘り下げていく。さらに、近年とりわけ注目度の高い“タイからインドへの”事業展開については、日本本社である株式会社中村機工のインド人社員、シン・カシシュ氏にも話を聞いた。

日系中小企業が世界で戦うためには何が必要か

YN2-Techのオフィスは、常に活気にあふれている。若手社員が多く、タイ国内外からの来客も絶えない。「日本からタイへ出張に来られる際、当社にお立ち寄りいただくパートナー企業も少なくない。ちょうどあそこで昼食をとっている方々も、そのような皆さまだ。まるで当社の社員のように自然に溶け込んで見えるのではないだろうか。こうした光景こそ、私が推進するOne Team戦略を象徴している」と、中村社長は目を細める。

彼が言う「One Team戦略」とは具体的に何を意味するのか。これを武器に、YN2-Techは今、何に挑戦しようとしているのか。その真意には、日系中小企業がグローバルで戦うための重要な示唆が含まれている。

YN2-Techオフィスの様子(写真提供:YN2-Tech)

新たに挑戦する、ものづくり企業の全方位支援を推進

静岡県静岡市に位置する株式会社中村機工(以下、中村機工)は、1955年の創業以来、製造業向けの販売業務や請負業務を通じて、ものづくりに関わる課題解決を推進してきた。初の海外展開先としてタイを選び、2013年に Nakamura Kiko(Thailand)Co., Ltd.(以下、Nakamura Kiko)を設立。同年にはその子会社として YN2-Tech も誕生した。現在、Nakamura Kikoのグループ企業は資本参加先を含め計6社、社員数は130名を超える。

YN2-Techは「新たに挑戦する、ものづくり企業の全方位支援」をビジョンに掲げるエンジニアリング商社だ。設計支援、工作機械、IoT関連、樹脂成形品、治具全般、省力化機器、3Dソリューションなど多様な製品を取り扱うほか、販路拡大やプロモーション展開など、主に日系製造業を対象に幅広いサービスを展開している。

タイをハブに、世界に挑む

中村機工グループは、2013年のタイ進出以来、タイをハブとしたグローバルビジネス展開を着実に拡大してきた(図表1)。中村社長は「YN2-Techの設立から約5年が経過し、ようやく経営が軌道に乗った頃、タイ以外の国で事業を展開する中小企業との交流機会が急増した」と、そのきっかけを振り返る。

出所:YN2-Tech提供資料にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

2018年の中国との取引開始を皮切りに、同社の取引先はアジアを越えてアフリカやアメリカ大陸へと広がった。「タイは多様性を尊重し、あらゆる国とフラットな関係を築くことに長けている。その優位性を活かし、タイをハブに仲間を集めれば、チーム全体で世界に挑めると考えた」と、同社長はOne Team戦略の原点を語る。

企業間連携で相互補完の関係性を構築

One Team戦略とは、M&Aや資本提携、人材交流などさまざまな企業間連携により、仲間企業と相互補完の関係性を築き、中小企業一社では成しえない海外展開というハードルをチーム一丸となって越えることだ。 

例えば、中村機工は今年7月、静清信用金庫による支援のもと、塗装・乾燥・アニーリングなどの炉や塗装用システム等を販売する株式会社市川工研(以下、市川工研)をM&Aした。産業機器等の販売を手がける大豊産業株式会社(以下、大豊産業)との共同出資で、熱・乾燥設備の高付加価値技術を持ちながら、後継者不在により継続が困難だった市川工研の事業を引き継ぐ形だ。

中村社長は、「これから特に攻めたい国はインドだが、自動化など最新技術ではコスト面などでローカル企業との競争は避けて通れない。そこで、長期の実績と知見の積み重ねが不可欠な“熱・流体技術”に着目した。あえて歴史の長い基礎技術をグループの強みとして持ち、既存チームが有する自動化や3Dソリューション、DXと掛け合わせることで、インドで戦える体制を作りたかった」と、熱・流体技術を得意とする市川工研への出資目的を説明する。

技術者の高齢化や採用難という深刻な課題に直面していた同社にとっても、得意分野を活かして複合設備メーカーとして生まれ変わることで、世界を目指す再スタートが切れる絶好の機会となった。

市川工研の熱・乾燥装置(写真提供:YN2-Tech)

若手を中心とした人材交流の意義

企業の枠を越えた人材交流もまた、One Team戦略の一つだ。同グループでは、仲間企業から次期経営者候補や将来を嘱望される若手を受け入れており、彼らは事業立ち上げなどのミッションに取り組みながら、出身企業だけでは得られない経験を世界を舞台に積み重ねている。

例えば、YN2-Techには、20〜30代の若手出向者が4人在籍している。「広告代理店4代目後継者」「設計会社2代目後継者」「出身企業では執行役員」といった肩書を持つ彼らは、グローバル市場でビジネスの最前線に立ち、中村社長と共に事業開発や顧客支援を担っている。

同社長は「海外で長期的に挑戦する際に、最大の武器となるのは“気持ちの若さ”だ」と明言する。「世界では、若手のグローバル人材が最先端の手法を用いて戦っている。そうした人材やソリューションを日系企業間で奪い合うのではなく、協業の一環として受け入れることで、互いにとって大きなメリットになる」と説明する。

人材交流は受け入れだけにとどまらない。同社の若手タイ人社員の中には、One Teamの一員として日本を含む海外に羽ばたく人材もいる。中村社長は「仲間企業に出向して日本で経験を積み、将来的には在タイ日系パートナー企業のマネジメントを担う予定の社員もいる」と、若手人材への期待を膨らませる。

「全ての分野を完璧にこなせる人はいない。だからこそ、メンバーの強みを最大限発揮できる“居場所”を作り、個人と組織の双方で“強みを活かせるポジショニング”を認知することが重要だ」と、チーム間の人材交流に込めた想いを語った。

One Teamで挑むGX新規事業

YN2-Techは今、One Team戦略のもとで次々と新たな挑戦に取り組んでいる。その一つが、これまで培った3D技術、エンジニアリング、マーケティングなどのノウハウを活かし、農業・食品関連産業の高度化に挑む「食品製造業におけるGX・SDGs推進実証事業」だ。具体的には、果物や野菜等から生じる農業残さの削減と有効活用を通じて、バリューチェーン全体でのGXの実現を目指している(図表2)。

出所:YN2-Tech提供資料に基づきTHAIBIZ編集部が作成

中村社長は、「工程1(果物等からの搾汁)から工程3(残さの有効活用)までは、実証実験を小型機にて既に実施した。その結果を踏まえ、今後は大型機で本格的な実証実験を進めていく。第一歩として、工程1にあたるスクリュープレス脱水機を設置した工場がチャチューンサオに完成し、今年10月に稼働を開始した」と、細かい数値が並ぶ報告書を手に説明する。

GX事業工程1のスクリュープレス脱水機(写真提供:YN2-Tech)

タイ企業から求められる役割の変化

中村社長によれば、タイ企業にGXの導入を図る際には、日本での提案以上に技術的数字の根拠の提示が求められるという。

「食品加工の先進国である日本では、客先に既にノウハウが蓄積されており、サプライヤーには受けた指示を正確に実行することが求められる。一方、近年のタイ企業は資源の有効活用を意識しつつも、費用対効果に強いこだわりを持つ。お客様の技術力は非常に高く、日系企業のように過去の実績や小型機の試験結果だけではなかなか信頼や納得が得られないため、数値や分析を用いたロジカルな説得が必要だ」と、事業開発の中で痛感した本音を語る。

従来のビジネスモデルを再考する時期に入っているからこそ、“中小企業連合”としてのOne Team戦略が活きるのだという。同事業は、先進的な製品・技術を持つ静岡県の食品加工機械メーカーや日系スタートアップとの協業体制のもと推進されている。

インド事業の拡大へ

同グループは現在、インドでの事業展開を目指して一層チームを強化している。中村機工、コスモ計器のインド拠点であるCOSMO INSTRUMENTS INDIA PVT. LTD.、タイでのトップクラスの設備メーカーNISSEN KOHKI THAI CO., LTD.(以下、NISSEN KOHKI)の共同出資により、新会社「SIAM DESIGN & AUTOMATIONS Pvt. Ltd.(以下、SDA)」をインドに設立し、2024年7月に活動を開始した。

その経緯について中村社長は「高齢化や人口減少を見据えてタイプラスワンを検討していた頃、インド事業の拡大を目指すコスモ計器の西村氏に相談し、NISSEN KOHKIと3社でタッグを組んだ。インドは人口が多く規模が大きいため、大量生産を行わなければ利益率は低い。特に外資中小企業の単独参入はハードルが高すぎるため、チームで挑むことにした」と説明する。

YN2-TechからSDAの事業に従事する人材に関しては、成形・金型事業で協業しているNitta M&Tの茂呂社長から、「パワー溢れる人材をぜひ紹介したい」との言葉を受け、合流に至った。さらに、中村機工所属の若手インド人社員で、高い語学力とコミュニケーション能力を持つシン・カシシュ氏も強力なインド事業のメンバーの一人だ。

インドで求められるコア技術

今注目のインド市場での戦略について、シン氏は「インド企業は、品質よりもコストを最重視する傾向がある」と述べた上で、「日本ではコアな技術を新たに求められる場面が少なくなったが、インドではむしろそうした技術こそが必要とされている」と説明する。

さらに同氏は「ただ、技術をそのまま持ち込むだけでは価格が高くなり、売れない。日本の中小企業が単独で参入してもコスト面での戦況は厳しいが、SDAにて日本メーカーのOEM生産(相手先ブランド製造)を担うことでコスト削減が可能になる」と続ける。

そのため、同グループは常に日本のコア技術を持つ企業を探しており、今年7月にM&Aした市川工研はその筆頭だ。「市川工研の熱・流体技術とNISSSEN KOHKIの自動化技術を組み合わせ、コスモ計器の圧倒的なネットワークを基盤としたマーケティングやアフターサービス力を活用すれば、必ずインドのニーズに応えられるはずだ」と、同氏は目を輝かせる。

インド事業の立ち上げは、同グループの強い切り札ともなった。中村社長は「M&Aを含め急ピッチで攻めの取り組みを推進してきたため、日本本社を中心とした拡大戦略にいずれ限界が来ることは自明の理だった」と明かした上で、「そこで、若手経営者仲間である大豊産業の乾社長に相談した。彼とはかねてより付き合いがあり、二人が行きつけの居酒屋でいつか一緒にビジネスをしようと語り合っていた。そうした中で、インドでの事業展開を目指していた同氏と方向性が一致した」と、市川工研への共同出資実現の経緯について語った。

「お互いのグループ企業を活用し、共にグローバルで成功しよう」この共同出資の裏には、そんなメッセージが込められていたのだ。

パートナー企業と共に目指すインド事業展開(写真提供:YN2-Tech)

理想像は“朱印船貿易”

自社の弱みを定義し、それを認知した上で仲間と相互補完しながらチーム全体で強くなっていく姿は、斬新かつ確実な戦略と言える。単体参入が難しいと言われるインドをはじめ、グローバルを目指す日系中小企業にとって、今こそOne Team戦略で攻めに出る時なのかもしれない。

中村社長は、「さまざまなメンバーが乗り込める船を作り、クルーを増やしながらモノづくり企業の皆さまをインドや東南アジアへつないでいく。イメージは“朱印船貿易”だ。行くだけではなく、戻って来ることも想定しており、日本にとっても海外のパートナーやお客様にとってもWin-Winな形を目指している」と述べ、インタビューを締め括った。 

出所:YN2-Tech提供資料に基づきTHAIBIZ編集部が作成

THAIBIZ編集部
和島美緒 / サラーウット・インタナサック

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