

カテゴリー: 会計・法務
公開日 2025.11.10
タイで外国資本による事業を行う際、最も注意すべき法律の一つが外国人事業法(以下、「本法」)である。本法は、一定の事業について外国人の事業を禁止し、また禁止しない事業でも外国人が事業を行う場合には商務省の許可を取得して行う必要があるものを定めている。
しかしながら、実際にはタイ人に形式的に株式を保有してもらうことや事業によっては取締役になってもらうという「名義貸し(ノミニー)」によって本法の適用を回避しようとするという事例は少なくない。
この名義貸しについては政府当局による調査や摘発が行われていることから、名義貸しの判断に関する考慮要素および摘発事例を紹介する。


本法の違反捜査を担当する特別捜査局(Department of Special Investigation:DSI)は、「外国人事業法違反事件における調査および証拠収集のガイドライン」を公表し、名義貸しの疑いがある事案を判断するための初期的な考慮要素を示している。このガイドラインでは名義貸しの判断に際し、次のような点が考慮・着目されている。
・会計帳簿や財務諸表上の不自然な資金の流れ、特に外国からの送金や実態の不明確な資金供給が見られる場合
・タイ人と外国人の間の資金関係
・賃貸契約や売買契約、雇用契約などの文書から、事業の実質的な支配権が外国人にあると推認される場合
特別捜査局が公表している実際の摘発事例における、名義貸しの典型的なパターンはやはり「外国人の代わりにタイ人(個人)が会社を設立または株式を保有していたケース」である。
たとえば、プーケット県において法律・会計事務所が複数の会社で外国人の代理としてタイ人個人を会社の名義上の株主・取締役として利用した事案では複数名のタイ人が有罪判決を受けている。
また、韓国企業の建設プロジェクトで、韓国企業の代表者(韓国人男性)の妻であるタイ人が10年以上、その韓国企業のタイ子会社の名義上の取締役として登記され、また当該韓国企業が当該タイ人を通じて株式を保有していた事件でも、特別捜査局は外国人が法律を回避する形で事業を行うことを援助または支援したとして、当該タイ人の逮捕に踏み切っている。
これらの事例は、タイ人株主による出資実態がないことや経営への関与がないことから摘発されたと考えられる。
このように、当局は形式的な登記内容よりも、実質的な支配関係や資金の流れを重視する傾向を強めている。これからタイに進出する場合には、名義貸しとの疑いをもたれないためにも慎重に事業内容やスキーム、資金調達経路などを検討し、場合によっては外国人事業法上の許可をとり事業を行うことも考慮する必要がある。
現在タイ政府は特別捜査局による事件の摘発等を受け、本法遵守の実効性を確保するために、観光および関連事業、不動産業、Eコマース、輸送業・倉庫業、ホテル・リゾート業、農業関連事業および一般建設業の分野を対象に名義貸しに関する調査計画を進めている。
その一方、タイ政府は制限的な規制を撤廃することを念頭に本法の改正案の策定を検討しており、仮に規制撤廃がなされれば、今後タイ進出する日本の企業にも大きな影響がある。


TNY国際法律事務所
日本国弁護士
藤原 杯花 氏
2017年1月よりタイのTNY国際法律事務所にて執務。TNY国際法律事務所は、日本人弁護士2名が共同代表を務める法律事務所であり、会社設立から規制調査、契約書のリーガルチェック、商標登録申請、相続手続きなどのサービスを提供している。
TNY国際法律事務所
当事務所には、タイ・日本の法務に精通している日本人の弁護士がおり、事業に際しタイにおける規制や困難な側面を理解していますので安心してご相談いただけます。当事務所の経験豊富なタイ人弁護士と日本人弁護士が、手ごろな価格で、迅速かつ正確なサービスを提供致します。
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