タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

THAIBIZ No.168 2025年12月発行

THAIBIZ No.168 2025年12月発行タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

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タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

公開日 2025.12.09 Sponsored

昨今、現地化を進める在タイ日系企業が増える中、世界No.1の冷暖房・空調メーカーとして知られるダイキン工業グループのタイ法人、Daikin Industries(Thailand)Ltd.(以下、DIT)は、「現地化を超えた挑戦」の段階にある。タイで培われた人材と技術は、同国にとどまらず世界へと広がり、グループ全体を強化する原動力となっているのだ。

本特集では、栗原勉社長や、Production Engineering Division/Manufacturing Innovation Divisionの部長を務めるキッティチャイ・ウッティウドムレート氏、そのほか社内外のキーパーソンたちの言葉を通して、タイ拠点が生み出すダイキンの強さの秘訣に迫る。

※空調事業における売上高規模の比較ベース

日本人社長とタイ人技術トップが牽引

栗原 勉 氏
Daikin Industries(Thailand)Ltd.
President

1990年、ダイキン工業株式会社に入社し、現場からキャリアをスタート。米国拠点やトヨタ自動車への出向等を経て、2024年7月より現職。


キッティチャイ・ウッティウドムレート 氏
Daikin Industries(Thailand)Ltd.
Production Engineering Division / Manufacturing Innovation Division
General Manager

2001年にDITへ入社。IT部門から生産技術部門へとキャリアを広げ、現在は同社の革新的技術の確立を主導している。

経営の持続性や競争力、現地市場への適応力といった観点から、現地化を急ぐ在タイ日系企業は多い。しかし、人材育成の難しさや文化、価値観の違いから、責任あるポジションに現地スタッフを据えられないという悩みも少なくない。

そうした中、DITは、日本人社長とタイ人技術トップが率いる、現地化の進んだ組織と言える。さらに、栗原社長は「タイで磨き上げた技術が世界的に認められ、タイで育った人材が海外工場の立ち上げを現地スタッフとともに担うなど、ダイキングループの強さの源を生み出していると言っても過言ではない」と胸を張る。

エアコンの心臓部「圧縮機」の内製が最大の強み

ダイキンは1924年に大阪で創業した。現在は世界170ヵ国以上で事業を展開しており、グループ全体の従業員数は10万人を超える。事業領域は空調・冷凍事業(約92%)、フッ素化学製品などの化学事業(約6%)、油機・その他事業(約2%)だ。

栗原社長は「ダイキンは、空調機器、圧縮機、冷媒という“3つの要”をすべて自社開発・製造できる、世界で唯一の企業だ」とした上で、「なかでも圧縮機は、エアコンの心臓ともいえる存在。冷媒ガスをギュッと圧縮し、ポンプのように循環させることで、空気を冷やしたり温めたりする仕組みを動かしている。この“心臓部”まで自前でつくれることが、ダイキンのものづくりの強さを支えている」と説明する。

海外売上比率は80%以上にまで成長

2025年3月時点での同グループのグローバル連結売上高は4兆7,523億円と、過去最高を更新。ここ20年間で売上高は約6.5倍に成長した。注目したいのは、海外売上比率の高さだ。

栗原社長は「2003年時点では37%だった海外売上高比率が、現在は約83%にまで伸びている。地域別売上高比率は、米州がトップの約34.4%、次いで日本(約16.5%)、欧州(約16.4%)、アジア・オセアニア(約15.2%)と続く(図表1)」と解説する。

出所:DIT提供資料にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

積極的なM&Aや人基軸経営により組織を最大化

栗原社長によれば、同グループがグローバルで成長し、世界No.1の地位を確立できた背景には、2006年のマレーシアのOYL Industries買収や2012年の米国のGoodman Global, Inc.(以下、グッドマン)の買収といった積極的なM&Aと統合プロセスの推進、そして「人基軸の経営」戦略があるという。

グッドマン買収の時期に米国へ出向していた栗原社長は、「ダイキンはそれまで2度の北米進出に失敗しており、この買収は3度目の正直だった。両社が相互補完の関係を築けたことが成功の鍵だった」と振り返る。さらに、「M&A後も現地のやり方を尊重し、現地人材に権限を委ねる“人基軸の経営”を貫いてきた。こうして組織力を最大化できたことが、世界で戦える企業へ成長した要因の一つだ」と分析する。

35周年を迎えたDIT、技術は世界に誇れる水準へ

DITの工場(写真提供:DIT)

DITは1990年に設立され、アマタシティ・チョンブリ工業団地に初進出した日系企業である。現在はグループ内でもトップクラスの空調機器生産拠点となり、従業員は約4,300人にのぼる。同グループのアジア・オセアニア地域における生産高の約35%を占め(2024年10月時点、製品ベース)、生産品の8割以上をアジア・オセアニア、中東、アフリカ等へ輸出している。

栗原社長は「設立当初は主にタイ国内向けの製造・販売を担っていたが、1990〜2000年代にかけて生産を拡大。2010年には室外機ベースで累計1,000万台、2020年には2,500万台を突破した(図表2)。今では、開発、調達、品質、環境、人材においてアジア・オセアニア地域の統括を担うマザー工場へと進化し、輸出拠点としての役割も果たせるようになった」と、35年の歩みを振り返る。さらに「住宅用から業務用まで幅広い製品を生産しているのは、同グループではタイだけであり、タイの生産技術は世界に誇れる」と自信をのぞかせる。

出所:DIT提供資料にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

タイの地域開発・技術拠点としての立ち位置を確固たるものにしたのが、2005年に設立した研究開発(R&D)センターだ。同センターは各国の市場ニーズに応じた製品開発を推進し、現在の同社が強みとする「製造・開発・販売」を一本化する独自システムの構築にも大きく寄与した。

さらに2017年には、同センター内に電磁両立性(EMC)試験室を設置。今年、この試験室がASEANで初めて「環境エネルギー相互承認(EE MRA)」の認証を取得した。試験能力と品質保証力が国際的に認められたことになり、同社の技術基盤は一段と強化された。まさに、タイで磨かれた技術が世界に評価された好例である。

こうした実績が認められ、現在はタイ発電公社(EGAT)と連携し、省エネ性能の高いエアコンの国内普及や、タイ企業を対象とする冷媒転換(空調機などで使われている冷媒を、より環境負荷の低い冷媒に切り替えること)技術の支援等も行っている。

DIT設立35周年を記念した特別製品(写真提供:DIT)

ITシステムを駆使し、独自の高効率生産方式を確立

グローバルでもトップクラスのタイの生産技術についてキッティチャイ氏は、「必要なモノを必要な時に必要な量だけ生産し、供給することを基本としている」と語る。それを実現するのが、トヨタ生産方式の考え方を応用したダイキン独自の生産方式(Production of Daikin System)であり、複数モデルを混ぜながら生産する方式だ。

そして、その最先端がハイサイクル生産方式(変種変量生産)である。同氏は「ITシステムを駆使し、最新の市場情報に在庫、部品、人材供給を連動させた生産計画を反映させることで、顧客の多様なニーズにいち早く対応している。日単位での生産変動にも対応可能だ」と説明。同生産方式により、生産リードタイムを短縮し、環境負荷を削減しながら、多品種を少量でも効率的に生産できる、高い生産技術力を実現しているという。

エンジニア育成に注力、世界に羽ばたく人材も

生産技術・生産革新の現場では、人材育成にも力を入れている。キッティチャイ氏は「グローバル視点を持つエンジニアの教育に注力しており、ダイキングループのエンジニアフォーラム交流会など、世界中の知見を学び、共有し、実践する機会を継続的に設けている」と説明。

例えば、DITではこれまで生産技術の強化を中心としていたが、次第に海外から学んだIoT自動化やAIを活用したアイデア創出の促進、高効率な生産に向けたイノベーションを加速し、他の生産拠点へも横展開するまでになった。現在はその動きのさらなる加速化に向けて、他拠点との学び合いやエンジニア人材交流も検討しているという。

さらにDITでは、エンジニアが新たな開発プロジェクトを主導するきっかけや実務経験を積む機会の創出にも力を入れており、産学官連携を強化している。例えば、タイのトップレベルの大学との共同研究では、生産効率の向上と厳格な品質基準の維持を目的としたIoT自動化や画像処理検査カメラの開発を行っている。

「品質基準は守りながらも、積極的に創造的イノベーションを促進する。こうした“守り”と“攻め”を合わせ持つ姿勢が、当社の人材育成の核だ。ローカルエンジニアの育成に投資し、グループ全体に貢献できるグローバル人材を育て、タイから世界へ送り出すことが私のミッションだ」と、同氏は強調する。

社内研修の様子(写真提供:DIT)

実際に、タイで育ったエンジニアがベトナムやインドネシアの工場立ち上げメンバーとして活躍している例もある。「工場の立ち上げは従来、日本人だけが担っていた。しかし今では、タイ人エンジニアもキーパーソンとして参画し、タイでの経験を活かして現地エンジニアとともに異国で挑戦している」とキッティチャイ氏は目を細める。

エンジニアだけではない。営業の人材がベトナムへ、事業企画の人材が日本へ、といった異動事例も近年増えているそうだ。栗原社長は「日本人だけでなく、さまざまな国の人材がグローバルのスピード感に対応できるようにするには、世界中で人材を流動させていくことが必要だ」と、その背景について説明する。

「遠心力」と「求心力」のバランスが肝

栗原社長によれば、急速にグローバル化が進んだ同グループは、現地に根差した組織作りを世界中で推進してきたが、ここにきて、各拠点が自主性を発揮しながら拡大していく「遠心力」と、グループとしての一体感を維持する「求心力」のバランスが重要になっているという。

DITにおいても、研究開発から商品開発、生産、マーケティング、サービスまでを一貫して現地化してきた。近隣国のインド拠点でも権限移譲が成功し、グループ全体の役員を兼務するインド人トップのもと、インドおよびアフリカ市場は好調な成長を遂げている。

同社長は、「スピーディーな経営判断のもと、現地での市場競争に勝ち抜くためには“遠心力”が重要だ」と強調した上で、「グループ全体の海外事業売上比率が8割を超える中、統括機能を有する日本本社にとっては“求心力”の強化がこれまで以上に重要な課題となっている」と明かす。

その理由として、「海外拠点への権限移譲が進むと、日本本社との間に組織の壁ができ始め、海外市場や競合他社の動向、現地の社内事情などが日本本社に届きにくくなってしまう。結果として、現地密着の部分最適化だけが先行し、全体最適視点の欠如に起因するリスクが増大する恐れがあるからだ」と説明する。

こうした課題を乗り越えるには、海外拠点と日本本社との連携強化が欠かせない。現地トップは「ブリッジ役」として両者をつなぐとともに、日本本社の方針を踏まえた経営判断と全体最適の視点を持つことが求められる。「“遠心力”と“求心力”のバランスをとり、グローバル市場で一丸となって戦っていくことが、今後ますます重要になる」と、同社長は力強く語る。

「現場での判断」を加速させるタイ人の特徴

「現地への権限移譲」と言葉にすると容易に聞こえるが、実行に移すにはさまざまなハードルがありそうだ。本社ではなく現場があらゆる判断を行う仕組みを、どう作っているのだろうか。

栗原社長は、「当グループでは“フラット&スピードの経営”(図表3)を掲げ、組織の階層を最小限にすることで、現場が迅速に意思決定できる仕組みを構築している。権限を移譲された人を、周りの仲間が全力でサポートし、速やかに実行する体制も根付いている」と解説する。

出所:DIT提供資料にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

自分よりも役職や年齢が上の人に対する遠慮の文化(グレンジャイ)が根付いているタイでの実態について、キッティチャイ氏は「最近の若者は、誰に対しても自身の意見をはっきり伝える力がある。彼らの発言力に感化され、私たちの世代も“遠慮せずに意見しよう”という雰囲気が強まっていると感じる。若者の新しい感性や特徴をどう活かすか、あるいは活かさないかは企業次第だと思うが、当社ではチャンスだと捉えており、スピーディーな現場の意思決定に活かされている」と明かす。

「さらに、タイ人の仲間意識の強さは、フラット&スピードの経営と相性が良い」と、同氏は続ける。「一人リーダーが現れれば、仲間全員でその人のサポートをする。これがタイ人の特徴だ。だからこそ、リーダーとなる人材は、恐れずに新しい挑戦に取り組むことができる」と、タイ拠点の組織力の強さの背景を語った。

「持続可能な未来の創造拠点」を目指す

DITの今後の展望について、栗原社長は「アジア・オセアニア地域のマザー拠点として、単なる生産拠点の枠を超え、社会課題や環境課題の解決に真摯に向き合う“持続可能な未来の創造拠点”を目指していく」とした上で、「革新的技術による新たな価値創出に向けた挑戦を続けられるよう、事業基盤の強化と売上拡大にも注力する」と意気込みを語る。

同社が推進する「未来を創造する取り組み」の一つに、タイの空気ガイドライン制定プロジェクトがある。官民連携による、タイで初めての試みだ。そのほか、冷媒や廃棄物の再利用などといったサーキュラーエコノミーに向けた取り組みも、さまざまな企業や政府と連携して進めており、こうした最新動向からは同社の本気度がうかがえる。

35年間かけて培ってきた人材と技術が、世界を動かす大きな力となった背景には、徹底した人材育成と、それを活かすバランスのとれた経営方針の存在があった。次頁からは、社内外キーパーソンへのインタビューを通じて、現場の視点からダイキンの強さを探っていく。

THAIBIZ編集部

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