海外展開を成功に導く鍵 「人材育成」で日タイの未来を支える

THAIBIZ No.168 2025年12月発行

THAIBIZ No.168 2025年12月発行タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

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海外展開を成功に導く鍵 「人材育成」で日タイの未来を支える

公開日 2025.12.09 Sponsored

海外展開を成功に導く鍵は、進出後の「人づくり」にある。ものづくりをはじめ多くの日本企業が拠点を構えるタイでは、現地人材の育成と技術移転を支える仕組みづくりが進められてきた。その中核を担うのが、産業人材育成を通じて国際協力を推進してきた一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)だ。

AOTSバンコク事務所は、技術研修、専門家派遣、寄附講座の3本柱を軸に、企業の課題や目的に応じた柔軟な支援を展開している。今回は、AOTSが取り組む人材育成支援について、バンコク事務所の田村真善所長に話を聞いた。

第9回】一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)


AOTSバンコク事務所 所長 田村 真善 氏

一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS) 1959年の創立以来、主に開発途上国の産業人材を対象とした研修および専門家派遣等の技術協力を推進する人材育成機関。日本と海外諸国相互の経済発展に貢献するとともに、友好関係の増進にも寄与している。バンコク事務所は1970年に設立。

お問い合わせ TEL:02-255-2370 Website:www.aots.jp/about/overseas-offices


木下 AOTSの組織概要とバンコク事務所設立の背景について教えてください。

田村 AOTSは1959年、産業人材育成を通じ日本と海外諸国の相互発展を実現することを目的に設立されました。以来、主に開発途上国をターゲットに、進出日系企業に関わる外国人研修生の日本での受け入れや日本人専門家の海外派遣等を実施し、各国の産業基盤強化に取り組んでいます。

バンコク事務所は1970年に設立され、AOTS海外拠点の中で最も長い歴史を有します。当時、自動車産業をはじめとする日本企業のタイ進出が進む中で、現地で事業を担う産業人材の育成が喫緊の課題でした。設立以来、タイにおいて延べ7万人以上の人材育成を支援してきています。

木下 タイで事業を進める日本企業にとって心強いAOTSの支援ですが、実際にはどのような人材育成プログラムがあるのでしょうか。

田村 AOTSの支援は、技術研修、専門家派遣、寄附講座の3本柱を軸に展開しています。技術研修では、タイ人社員を一定期間、日本の本社工場や関連企業に派遣します。その前段階として、AOTS研修センターにおいて日本語や日本の商習慣などを学ぶプログラムを提供し、研修効果を高める工夫をしています。

専門家派遣は、日本企業(派遣元企業)の従業員等を、AOTSの専門家として海外の現地子会社や関連企業(指導先企業)へ派遣し、現場での技術指導や人材育成を行う制度です。

寄附講座では企業が主体となり、AOTSの支援のもとタイの高等教育機関に特別講座を開設し、企業が求める専門分野の知識や技能を教育します。さらに、希望する企業には、受講学生を対象としたインターンシップの機会を設け、自社が求める人物像に沿った人材の育成と採用につなげる仕組みを構築しています。各企業のニーズに応じたカリキュラムを通じ、将来の即戦力候補となる人材の育成を支援しています。

木下 制度活用による成功事例があればお聞かせください。また、AOTSの支援制度を企業がうまく活用するための秘訣などはありますか。

田村 例えば、自動車・産業エンジン用パイプ製品を製造する日系メーカーの現地法人では、主力顧客からの大量発注を受けた際、大量生産技術の不足が課題となりました。そこで、電気炉の工程内不良率削減およびサイクルタイム短縮を目標に掲げ、11ヶ月間にわたり専門家派遣を活用。

その結果、目標を達成しただけでなく、想定外であった設備の不具合の発見にも至りました。現地リーダーと専門家が協力して課題の洗い出しや新たなメンテナンス手法の構築を行い、大量発注に耐えうる安定的な生産体制を実現しました。

制度の効果を最大限に引き出すためには、「人材育成の時間軸」を意識し、ゴールに応じてスキームを選定することが重要です。短期的な成果を求める場合は、現場で直接指導が可能な専門家派遣が効果的です。一方で、中長期的に日本の技術や企業文化を深く学ばせたい場合には、技術研修の活用が有効となります。

さらに、日本での研修を現地マネジャークラスへのインセンティブとして位置づけることでモチベーション向上につなげるほか、現地の中堅社員を寄附講座の担当者とすることで、彼ら自身の育成機会とすることもできます。直接的な効果に加えて、制度を通じて得られる付随的な効果にも注目いただきたいと考えています。

木下 AOTSならではの特長や、他の支援機関にはない強みについて、どのようにお考えでしょうか。

田村 企業によって強化したい分野や育成ニーズは異なりますが、AOTSの最大の特長は、個社の課題を丁寧にヒアリングし、要望に合わせて人材育成プログラムを設計できる点にあります。オーダーメイド型支援により、現場に即した効果的な仕組みを提供することが可能です。

 長年の事業活動を通じて培ってきたグローバルネットワークも大きな強みです。65年以上にわたる活動の中で、世界46ヵ国・75ヵ所に広がるAOTS同窓会のネットワークを構築してきました。

AOTSではこのネットワークを活用し、日本の若手人材が海外で研修を受けるビジネスインターンシップや、日本国内で深刻化する人手不足を念頭に置いた、海外の高度人材と日本企業をつなぐ人材紹介などの取り組みも進めています。

木下 脱炭素やデジタル化といった新興分野、さらにはタイやASEANで顕在化する社会課題に対し、AOTSとしてはどのように関与されていますか。

田村 日系企業による新興分野での新規事業への挑戦や、社会課題の解決に向けた事業発展には、担い手となる現地人材の育成が欠かせません。AOTSは、さまざまな支援制度を通じて、その基盤づくりを後押ししています。

具体的な事例として、タイで合弁会社を設立した医療法人は、タイの高齢化を見据えて日本水準のリハビリサービスの提供を目指していましたが、現地には十分な知見がありませんでした。そこで技術研修を活用し、マネジャークラスのタイ人社員を日本へ派遣。施設視察、講義、実務研修を通じて日本の技術を習得させ、医療とリハビリを連携させる質の高いサービス提供体制を構築することができました。

経済産業省やタイ工業省産業振興局とも連携し、在タイ製造業の「スマート工場化」を目指した人材育成プロジェクトとして、タイ版「スマートものづくり応援隊」にも取り組んでいます。さらに、当事務所には日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局が併設されており、私自身も事務局長を務めています。

AMEICCではグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を担う人材の育成支援事業を推進しています。日系企業のサプライチェーン強靭化には、二酸化炭素(CO2)排出量の可視化や省エネ等の推進が不可欠になりつつあり、これらを担える人材育成は極めて重要です。

こうした施策を通じ、AOTSは新興分野と社会課題の双方に対して継続的に関与していきます。

木下 最後に、タイ進出やタイでの人材育成を検討している日本企業に向けてメッセージがあればお願いします。

田村 人材はすべてのビジネスの基盤であり、事業発展における最も重要な要素です。特にビジネス環境の変化が激しい昨今においては、多様な課題に柔軟に対応できる人材が不可欠です。

 一方で、海外での人材育成は、言語や文化の違いが大きな壁となり、容易ではありません。そのような中で試行錯誤を重ねる企業の皆様を支えることこそ、AOTSに課せられた使命だと考えています。

人材育成に関して課題を抱えておられる企業の方々は、ぜひお気軽にご相談ください。AOTSは、皆様の海外での挑戦を人材面から力強く支えてまいります。

JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。開発学修士、MBA保有。
Email:ti_oso_rep@jica.go.jp

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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