雨季が明けPM2.5がやってくる

THAIBIZ No.168 2025年12月発行

THAIBIZ No.168 2025年12月発行タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

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雨季が明けPM2.5がやってくる

公開日 2025.12.09

雨季が明けPM2.5がやってくる

雨の多かった2025年の雨季が終わり、タイは10月23日に乾季入りした。そもそも、この雨季・乾季という季節がタイに生まれる仕組みはどうなっているのだろうか。

タイの雨季は、おおむね5月下旬から10月中旬。この間、南半球は冬を迎え、インド洋南部の海水温が低下する。すると海水近くの空気が冷えて重くなり、インド洋南部で下降気流(高気圧)が発生する。この下降気流は、強い日射しを受けて地面が熱せられ上昇気流(低気圧)が発生しているインドや東南アジアに向かう。

地球は西から東に自転している丸い惑星だ。このため、赤道付近が最も早い速度で回転している。この影響で、南半球側から赤道に向かって吹いた風は赤道に向かうにつれて、地面の東向きの回転速度に追い付けず、西向きの力が加わったように向きがズレる。

しかし、この風が北半球に北上すると、地面の回転速度が速い赤道付近から遅い方に向かうので、今度は東向きの力が加わったように向きを変える(コリオリの力の影響)。この風がタイに到達すると、南西から北東に向かう季節風(南西モンスーン)が吹く。この空気はインド洋、ベンガル湾、アンダマン海等、海の上を通ってきたため、多量の水蒸気を含み、タイに雨をもたらす。

一方、10月下旬から5月中旬にかけて、タイは乾季を迎える。この時期、中国内陸部やシベリアが冬に入り冷え込み、空気の温度が下がり下降気流(高気圧)が発生する。地面近くに達した風は、より暖かい赤道方向に向かう。

ここでもコリオリの力により、より速い速度で動いている赤道に向かうほど、地面の東向きの自転速度が速くなるため、北風が西側に向きを変える。結果、タイに北東から南西に向かって吹く北東モンスーンとなる。

しかし、雨季と異なり、この風は陸の上を吹いてきたため乾いているのでほとんど雨が降らなくなる(南タイでは北東モンスーンが海上を通過するため、乾季でも雨が降る地域がある)。このような大気の循環メカニズムが、タイに雨季と乾季をもたらしているのである。

さて、タイでは乾季に入るとPM2.5を筆頭とする大気汚染が深刻化する。大気汚染の原因としてよく挙げられるのが「焼畑・農地の野焼き」「都市部の交通や工場から排出される廃棄ガス」だ。前者はともかく、後者は雨季にも存在する。しかし、乾季に吹く風は山を通ってくることもあり、雨季に吹く風よりも弱いため、乾季には汚染された空気が同じ場所に留まる状態になりやすい。

また、夜間に地面が冷えることで地面付近の空気が冷えて重くなり、汚染された物質が上空の温かく軽い空気に閉じ込められる現象が発生する(逆転層の発生)。さらに雨が降らないので洗浄効果が働かず、汚染物質が大気中に残りやすくなる。これらの複合要因によりPM2.5の濃度が上昇する。

PM2.5とは、直径が2.5㎛(1㎛=0.001mm)以下の微小粒子状物質の総称である。肉眼では見えず、呼吸器系から体内に侵入してしまう。体内では、血管を傷つけ、動脈硬化、心血管疾患、特に虚血性心疾患のリスクを高めるという。

虚血性心疾患は以前に掲載したコラム「タイ人の死因の推移」で2010年に5位、2019年に4位にランクインしている死因である。これは近年の大気汚染の悪化と健康問題の繋がりを示唆していると考えられる。

筆者自身でPM2.5の測定器を購入してさまざまな場所で測ってみた。結果として、エアコンの効いた屋内は数値が大幅に落ちる。フィルターによって粒子が除去されているからだ。空気が悪い日の屋外での活動は極力避けたほうが良いだろう。

2025年9〜10月の経済・政治関連トピック

タイ商務省の10月27日の発表によれば、2025年1〜9月の輸出額は前年同期比+13.9%の2,541億5,000万米ドル、輸入額は同+11.9%の2,545億8,000万米ドルで、貿易収支は4億3,000万米ドルの赤字となった。

品目別輸出額は、農産物・加工品が同+0.6%(403億5,000万億米ドル)、そのうち米は同▲30.7%(33億9,000万米ドル)、天然ゴムは同+3.7%(3億8,000万米ドル)、電子製品・同部品は同+35.6%(527億2,000万米ドル)、自動車・同部品は同+1.0%(299億1,000万米ドル)だった。

国・地域別輸出額では、首位が米国で前年同期比+28.6%の521億8,000万米ドル、次いで中国が同+16.1%の306億7,000万米ドル、日本が同+1.6%の176億9,000万米ドルとなった。


経済

エネルギー政策計画事務局(EPPO)の発表によると、2025年上半期のタイのエネルギー消費による二酸化炭素(CO2)排出量は前年同期比▲4.6%の1億2,160万トンで、2023年から減少傾向が続いている。

なかでも天然ガスが同▲8.5%(3,940万トン)で最も減少。一方、石油は同+0.6%(5,310万トン)と増加した。エネルギー単位当たりの排出量は2024年上半期の1.97トン/TOE(石油換算トン)から1.92トン/TOE(▲2.5%)へ減少。また、アタポン新エネルギー相は9月30日、新たな目標「ネットゼロ2050」が組み込まれた電力開発計画(PDP)改定案を4ヶ月以内に完成させる予定と発表した。

・・・・

タイ投資委員会(BOI)は10月17日、総額約70億バーツ(約2.2億ドル)にのぼる新規投資案件を承認した。主な案件は、日系大手自動車部品メーカーによる電気自動車(EV)向けインバーター製造プロジェクト(約35億バーツ)と、地場大手病院グループによるがん専門医療センター設立計画(約35億バーツ)である。

また、政府が今後4ヶ月間で推進する「Quick Big Win」政策の一環として、すでに承認済みの約70件(総額約3,000億バーツ)の投資案件の実施を加速させる新制度「タイランド・ファストパス」を導入した。

ファストパス制度の対象は、すでに投資奨励申請を提出済みで、投資額が10億バーツ超(土地および運転資金を除く)のハイテク分野(バイオテクノロジー、EVおよび主要部品、半導体・先端電子機器、デジタル技術、AI)案件とされる。

・・・・

BOIは、2025年1〜9月の投資申請額が前年同期比+94%の1兆3,700億バーツ(約422億ドル)に達し、BOI設立以来過去最高を記録したと発表した。主因は、デジタル関連やスマート電子製造等、ハイテク分野を中心とする大型の外国直接投資(FDI)案件の増加。投資申請件数は前年同期比+23%の2,622件となり、このうちFDI案件が9,853億バーツで、全体の約72%に達した。

分野別では、デジタル(主にデータセンター)が119件・6,128億バーツと突出しており、次いで電気・電子(E&E)が382件・1,841億バーツ、自動車・自動車部品が229件・710億バーツ、農業・食品加工が228件・472億バーツ、再生可能エネルギーが742億バーツ、工業団地開発・運輸・物流等が1,774億バーツとなっている。


政治

タイ王室庁は10月25日、シリキット王太后が10月24日夜に崩御されたと発表した。ワチラロンコン国王は王室および王室関係者に対し、10月25日から1年間の喪に服すよう命じた。これを受け、アヌティン首相は、政府機関に対して30日間の半旗掲揚を指示し、公務員や国営企業も1年間の喪に服すと発表した。

民間企業については、90日間は白黒または控えめな色の服を着用し、コンサートなど娯楽に該当する行事については、30日間は節度をもって調整または延期するよう協力が求められた。

・・・・

総額440億バーツの予算が承認された経済刺激策「コンラクルン・プラス(半額補助施策)」について、個人向け登録が10月20日に開始され、10月29日から利用が始まった。対象は、受給者登録済みの16歳以上のタイ国籍を有する約2,000万人で、福祉カード保有者(約1,340万人)は別途給付が行われるため対象外となる。

登録および利用はいずれも、プラユット政権下で実施された従来の半額補助施策と同様に、電子財布アプリ「パオタン」を通じて行う。1日の補助上限は200バーツで、12月31日までの期間中に利用できる総額は、2024年度の所得税申告者が2,400バーツ、未申告者が2,000バーツ。エクニティ財務相は、この政策により通年の国内総生産(GDP)成長率が0.3〜0.4%押し上げられるとの見方を示した。  

SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor

長谷場 純一郎 氏

奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

SBCS Co., Ltd

Mail : jhaseba@sbcs.co.th
URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

Website : https://www.sbcs.co.th/

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