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公開日 2025.12.26
本講座シリーズは、タイにおける日系企業の人事・組織マネジメントの知識を深め、優秀人材のリテンションとより効果的な組織運営を実現することを目的としています。人事戦略、採用と育成、評価制度、組織文化の変革など、日々の実務に直結するテーマについて学び、議論し、実践に活かすことを目指します。
THAIBIZは11月21日、Asian Identityと共催で「タイ人事マネジメント塾」第四回講座を開催。企業理念や事業戦略と人事制度を結びつけながら、タイ拠点で“変化に強い組織”をつくるためのポイントを学びました。講師は、Asian Identityの中村 勝裕氏および山内 崇氏が務めました。
本講座シリーズは、タイ人事の基礎知識の実例を交えた学習および、参加者同士の“熱いコミュニティ”づくりを目的として、①「人事戦略」、②「人材採用と育成」、③「評価制度と報酬」、④「カルチャー変革」の4つのテーマで4回にわたり開催。本記事では④「カルチャー変革」をテーマとした第四回(最終回)の様子をお届けします。

目次
在タイ日系企業では、「優秀なタイ人社員が揃っているのに、指示がないと動けない」「現場主導で動く組織にしたいが、なかなか上手くいかない」といった声を多く耳にします。そのような中、最終回では、社員の行動変容の土台となる組織文化(カルチャー)作りに焦点が当てられました。
中村氏は冒頭で、「良い人事施策を寄せ集めても、企業理念・事業戦略・人事施策が一本の線でつながっていなければカルチャーは変わらない」と指摘。参加者の自己紹介では、トップダウン傾向が強く声を上げにくい組織や本社とタイでまったくカルチャーが異なる組織など、多様な組織の特徴が浮かび上がりました。
そのうえで同氏は、「良いカルチャーとは社員が自主的に動く状態であり、その第一歩は、企業の価値観を“言葉=理念”として共有することだ」と説明。理念を深層に働きかけるためには、現地社員が理解しやすい言葉にすること、日常会話に言葉が登場するレベルまで浸透させることが重要だと訴えました。
中村氏は次に、理念を浸透させカルチャーを育くむために、相互理解を深める「対話(ダイアローグ)」の必要性を示しました。ディスカッションが「考え」を共有する場であるのに対し、対話は「想い」や「背景」を共有するプロセス。タイでは特に“共感”が行動を左右しやすく、対話の積み重ねが心理的安全性をつくると説きました。

グループワークでは、参加者同士が「良い組織とは何か」をテーマに対話。「居心地が良ければ頑張れる」「タイでは共感してくれる人の存在が大きい」といった声が出る一方で、「タイ人から質問が出ないことは、同意を意味しているわけではない」といった現地特有の気づきも挙がりました。
ワークの場で重視されたのは、答えを出すことではなく、互いの価値観や背景を共有すること。理念やカルチャーは、こうした対話の積み重ねによって“自分たちの言葉”として育まれるという点が改めて実感されました。
次に山内氏は、カルチャー変革を進めるためのステップとして、特に、①Why(危機感・目的)の共有から始めること、②現地キーパーソンを巻き込む推進チームづくり、③小さな成功体験(スモールサクセス)を積み重ねること、を挙げました。
続けて、多くのタイ拠点のHRが日常オペレーション中心になりがちな中、今後は「変革のエージェント」として、エンゲージメント調査などを活用し、現場と経営をつなぐ橋渡し役を担う必要があると強調しました。
ケーススタディでは、在タイ日系企業のマネージング・ダイレクターとして買収先企業のカルチャーをどう変えるかをグループで議論。「関係性をどう築くか」「キーパーソンをどう巻き込むか」といった実践的な視点を交え、カルチャー変革の難しさと重要性が共有されました。

また、山内氏は、変化が激しい時代においてリーダーに求められるのは正確な未来予測よりも、自社が掲げる理念を腹落ちして動けるストーリーとして伝えること=「センスメイキング(意味付け)」だと述べました。
スティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏も、一見飛び地に見える事業展開を、自社の理念に基づいたストーリーとして語ることで組織を納得させてきたと言います。「なぜそれをやるのか」「自分たちの歴史や強みとどう繋がるのか」を語ることで部下は納得感が得られ、ストーリーの力によって組織の方向性が共有されるのです。
グループワークでは、参加者が自社で取り組みたい変革をテーマに、センスメイキングの要素を盛り込んだストーリーづくりに挑戦。ある製造業の参加者は、研究開発の現場で経験した「苦労と成功のプロセス」を“宝物”としてタイ人スタッフと共有する意義について語り、カルチャーづくりにおける「振り返り」の力を再認識したと明らかにしました。
最後に山内氏は、変化に強い組織づくりについて「遭難した雪山での行軍」と例えました。リーダーが「この地図(理念・方向性)があれば大丈夫だ」という意味付け(センスメイキング)を行い、メンバー同士が励まし合い信頼し合う(対話)ことで、初めて困難な状況(変化)の中でもバラバラにならずに進むことができる」と総括。
中村氏、山内氏の話を通して、組織づくりの肝となる「人」を動かす「言葉の力」にも改めて気づかされた最終回でした。

今回の参加者からは、以下のような感想が寄せられました。
「タイでは相手への共感が大事という点に納得した」
「お互いをより良く理解するためには、(理念の)明文化とコミュニケーションが必要だと改めて感じた」
「自社が向き合っている問題とマッチしており、改革に活かせる」
「タイ人事マネジメント塾」は2026年も引き続きの開催を考えています。2025年に参加できなかった方も、参加くださった方も、ぜひ続報を楽しみにお待ちください。
>>第1回「変革型にシフトする人事戦略」開催レポート
>>第2回「人材採用と育成のポイント」開催レポート
>>第3回「タイ人が辞めない評価制度」開催レポート
Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。
Asian Identity Co., Ltd., Senior Consultant
株式会社アジアン・アイデンティティー シニアコンサルタント
熊本県出身。一橋大学経済学部/経済学研究科修了。信託銀行勤務を経てデロイト・グループ、楽天株式会社にてリーダーシップ開発や企業内研修の企画・実行、また組織風土改革プロジェクトを推進。楽天を退社後、イギリスへ留学しビジネス・スクールにてHRMを専攻。現在はAsian Identityにて人材開発コンサルタントとして従事。
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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