アジアのデトロイトを支えるタイ・サミット・グループ

THAIBIZ No.169 2026年1月発行

THAIBIZ No.169 2026年1月発行米中対立の今、タイが選ばれる理由 〜WHAの新・共創戦略〜

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アジアのデトロイトを支えるタイ・サミット・グループ

公開日 2026.01.09

タイの経済発展、とりわけアジアのデトロイトと称される自動車産業の隆盛を語る上で、避けて通れないのが「サミット(Summit)」の名を冠する二つの巨大財閥の存在である。一つは、ソムポーン・ジュンルンルアンキット氏が率いるタイ・サミット・グループ(以下、TSG)。

もう一つは、その義兄にあたるサンサーン・ジュランクール氏が創設したサミット・グループ(以下、Summit)である。本稿ではとりわけ「オレンジのサミット」と呼ばれタイ国内最大手の自動車部品メーカーであるTSGに特化して解説する。

2つのサミットのなりたち

両グループは、元来一つのファミリーによる零細なクッション修理工場から端を発している。タイが輸入代替工業化から輸出志向型工業化へと舵を切る激動の1970年代から1980年代にかけて、両社は兄弟で袂を分かち、現在では全く異なる経営哲学、事業ポートフォリオ、そして成長戦略を持つ独立したコングロマリットになるまでに至っている。

この「決別」は感情的な対立による分裂というよりは、事業拡大に伴う戦略的な機能分散および一族のさらなる繁栄のための暖簾分けという側面が強いと考えられる。

兄のサンサーン氏が率いるSummitは、祖業である「シート・内装部品」を基盤としつつ、日系メーカーとの合弁を通じて着実に技術を蓄積する道を選んだ。一方、弟のパタナ氏は、「金属プレス・車体構造部品」や「機械加工」分野への展開を志向した。

攻めの垂直統合を進めたTSG

両社の事業構造は対照的である。Summitは「異業種への水平多角化」を推し進めてきたのに対して、TSGが「製造業分野に特化した垂直統合」を進めた。Summitを率いる兄のサンサーン氏は一言でいうと「堅実と多角化」。 製造業で得た利益を不動産やゴルフ場といった資産形成に回す多角化を好んだ。

TSG創業者の弟のパタナ氏は資本家としての野心が強く、自動車部品製造の川上(素材・金型)から川下(組立)までを垂直統合し、規模の経済を追求する攻めの経営を好んだ。

TSGは非上場の同族経営企業でありながら、その規模とグローバル展開の速度は多国籍企業に匹敵し、東南アジア屈指の製造業コングロマリットでありタイの自動車サプライチェーンの中枢を担っている(図表1)。

出所: 同社ホームページなどを基にMURC作成

同社の最大の特徴は、創業以来一貫してジュンルンルアンキット家による排他的な同族経営を維持している点にある。株式市場への上場を行わず、外部資本を入れないことで、迅速な意思決定と長期的な視点に基づいた投資を可能にしている。

事業領域:自動車部品のデパートメント

TSGは「自動車部品のデパートメント」とも称されるほど、車両生産の主要コンポーネントの大部分を網羅する製造能力を持つ。グループ傘下には40社以上の子会社が存在し、主要5部門で構成されている。

創業時からの強みであるシャシーフレーム、ボディパネル、アクスルハウジング、燃料タンクなどを製造する金属成形事業、内外装事業ではドアトリム、コンソール、インストルメントパネル、バンパーなどを製造。また二輪構造部品ではタイ国内の主要2社であるホンダとヤマハをはじめ様々なOEMへ供給している。

モノづくりの実力を図るうえで重要なのが金型自体を設計・製造する能力であるが、これを有する同社は新型車の開発段階からOEMと協業できるため、競争優位性の源泉となっている。2009年の日系金型大手のオギハラ買収に始まり、知見を蓄えてきたTSGの設計能力は業界随一であるといえる。

成長戦略:EVシフトの賭けと技術パートナーへの進化

TSGの戦略は、自動車部品製造への徹底的な集中と、技術革新によるサバイバルに集約される。彼らは、内燃機関車から電気自動車(EV)への転換を脅威ではなく、業界の序列を覆す最大の好機と捉えており、時流に乗り、自動車の電動化が進めばTSGもまた同事業を拡大させてきた。

特徴的な点としてタイで現在台頭している比亜迪(BYD)、長城汽車(GWM)、長安汽車(Changan)、MGといった中国系EVメーカーへのアプローチも積極的に取り組んでいる(図表2)。

出所:各種公開情報よりMURC作成

また、同社はタイ国内依存からの脱却も進めている。米国市場への投資も進めており、 ケンタッキー州およびミシガン州の工場は、グループのグローバル戦略の要である。

特にケンタッキー工場(Thai Summit Kentucky Corporation)では、EV生産ハブ化を見据え、約1億3,100万ドル(約45億バーツ)を投じて工場を拡張(20万平方フィートから52万平方フィートへ倍増)し、新規雇用を創出している 。ここでは、テスラやフォード向けの軽量アルミボディ部品やシャシー部品が製造されており、北米のEVサプライチェーンに深く組み込まれている。

>>本連載「アジアのコングロマリット」の記事一覧はこちら

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

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