
カテゴリー: 会計・法務
連載: 知らなきゃ損する!タイビジネス法務 - GVA / TNY法律事務所
公開日 2026.02.10
昨今の性犯罪の多様化や増加を受け、2025年12月30日施行の刑法改正により、セクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラ)が性犯罪の一種として位置づけられ、厳罰化された。そこで、タイにおけるセクハラについて、あらためて概観する。

まず改正前の刑法でも、セクハラは「性的嫌がらせ」の一部として処罰対象となりうる行為ではあった。しかし、この性的嫌がらせは軽犯罪であり、上位者による場合の加重はあったものの法定刑は軽い部類だった。これに対し、改正刑法では、セクハラは独立した性犯罪の一つとして位置づけられて軽犯罪ではなくなり、その定義規定も置かれた。
改正刑法は、セクハラを「身体的接触、発言、音声、身振り、意思疎通、注視、つきまとい、嫌がらせその他一切の手段(コンピュータ・システム、通信機器、電子機器によるものを含む)により、性的意味合いを有する行為を他人に向けて行い、その結果、相手に苦痛、不快感、恥辱、屈辱、恐怖または不安感を生じさせるおそれのある行為」と定義している。
具体例として、体を触る行為、容姿に関する発言、性的な意味合いを含む口笛、ストーカー行為、ウェブへの性的内容の投稿などが挙げられる。
また、たとえ被害者が実際には苦痛や不快感等を覚えずとも、客観的に苦痛や不快感等を生じさせる可能性があればセクハラとなることが明確化された。行為者や被害者の性別や性自認等も問わない。
法定刑も重くなっており、原則として1年以下の禁錮または2万バーツ以下の罰金(または併科)であるが、上位者である場合には、3年以下の禁錮または6万バーツ以下の罰金(または併科)となる。
労務管理の観点から、セクハラが発生した場合の社内的な対応についても触れておく。まず、労働者保護法(LPA)は、明文で「上位者によるセクハラ」を禁止する(LPA16条)。ただし、これは立場が同等な者同士の間のセクハラを許容する趣旨ではないことに留意してもらいたい。
具体的にセクハラが発生した疑いがある場合、会社はプライバシーや心情への十分な配慮をしつつ、迅速に被害者の意向の確認や事実関係の調査を進めることが望ましい。加えて、二次被害防止の観点から、当事者の分離(配転、在宅勤務等)を検討する余地もある。
調査の結果としてセクハラの事実が確認できた場合には、その具体的な事実に応じて、行為者の懲戒処分を検討することになる。会社としては、警告書を交付すべきか、出勤停止などとすべきか、または普通解雇や懲戒解雇とすべきかについて判断しなければならない場面である。
セクハラといっても態様は様々なので、一義的に結論が出るわけではないが、実務上は、①行為の内容・態様(身体接触の有無、性的露骨性)、②回数・継続性、③被害者の受けた精神的影響の程度、④行為者の地位(上位者か否か)、⑤過去に注意・指導を受けた経緯の有無などを総合的に考慮して判断することになるだろう。身体接触を伴う行為が繰り返された場合や、上位者による悪質な事案については、就業規則等への重大な違反(LPA119条1項4号)として懲戒解雇が相当と判断されることも十分ありうる。
今回の刑法改正を契機に、企業におけるセクハラ対応の重要性は一層高まったと考えられる。発生後の対応だけでなく、研修や社内アナウンス、就業規則等の点検・整備を通じ、セクハラを未然に防止する体制づくりも、一層求められよう。

GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
弁護士
靏 拓剛 氏
2009年に福岡市内の法律事務所に入所し、様々な業種の企業に対し、企業間取引への指導助言、法務監査、紛争処理等の法務サービスを提供。2020年より自身の活動をアジアへ拡大すべく、GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.に移籍(日本国内ではGVA国際法律事務所に弁護士として所属)。現在は、GVAグループの一員として、タイにおける紛争対応を中心に、事業展開を法務面から支える。
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