総選挙で「グレーマネー撲滅」の機運高まる – 政党公約に「賄賂・横領の一掃」が並んだ異例の選挙戦

THAIBIZ No.170 2026年2月発行

THAIBIZ No.170 2026年2月発行どうなる?変わるタイ経済2026

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総選挙で「グレーマネー撲滅」の機運高まる – 政党公約に「賄賂・横領の一掃」が並んだ異例の選挙戦

公開日 2026.02.10

2月8日、タイ総選挙が実施された。今回の選挙では、経済成長や社会保障よりも「国家の浄化」「透明性の回復」といったメッセージが前面に押し出され、主要政党のほぼすべてが「グレーマネー」の撲滅を最重要公約に掲げたことが注目すべき点である。

現野党である国民党に加え、アヌティン首相率いるタイ誇り党、タクシン派のタイ貢献党、そして元首相アピシット氏が復帰した民主党はいずれも「腐敗の根絶」を訴えており、国家の信頼回復が選挙の最大のテーマとなった。

グレーマネー問題が国家アジェンダに

「グレーマネー」とは、違法性や不透明性を孕んだ資金源を持つ経済活動を総称する。具体的には、オンライン賭博、国際詐欺ネットワーク、仮想通貨を通じたマネーロンダリング、名義貸し(ノミニー)などで、背景には国際犯罪組織との繋がりや越境による資金洗浄構造が存在する。これまで社会の影に隠れていた問題が、ついに国家の根幹に関わる脅威として顕在化した。

国民の怒りを買った昨年の腐敗スキャンダル

こうした政治的機運の背景には、昨年連発した国家的不祥事がある。中国人俳優のミャンマー国境地帯での失踪事件、地震によって倒壊した国家会計検査院(SAO)の新庁舎、年金を巡る社会保障事務所(SSO)の投資不正疑惑、タクシン元首相の仮病帰国とVVIP刑務所問題、さらにはサイバー詐欺拠点をめぐるタイ・カンボジア国境紛争など、枚挙に暇がない。

最近でも、鉄道クレーン事故や高速道路工事の重大事故が発生し、その背後には「行政監督の不在」や「賄賂による工事入札の不正」があると報じられている。

タイ経済の48%を占めるシャドウ・エコノミー

タイ反汚職機構(ACT)のマナ・ニミットモンクン会長によれば、タイにおける非公式経済(シャドウ・エコノミー)の規模はGDPの約48%、金額にして8〜9兆バーツにも上るという。とりわけ注目されているのが、カンボジアへの不自然な金輸出、仮想通貨を使った洗浄スキーム、詐欺グループによる資金供給ルート、さらには国家官僚や警察幹部の関与も疑われている。腐敗が経済の構造に深く組み込まれているという認識が、もはやタイ社会全体の共通認識となっている。

不正が止まらない構造、国際的信頼への懸念

タイがここまで「マネーロンダリングの温床」として脆弱になっている理由は、単なる法整備の不備にとどまらない。社会が長らく「脱税や資金洗浄はお金持ちや政治家の常套手段」として黙認してきたこと、関係省庁間の情報連携不足、責任逃れが常態化した官僚の組織体質、さらには国家レベルの有力者が関与しているという疑念。

こうした複合的な要因が重なり、国際的な信頼性が大きく損なわれつつある。このままでは、金融ハブを目指すどころか、「マネーロンダリング・ハブ」へと転落する危険すらある。

日タイ共創による構造改革への期待

一方で、希望の兆しもある。「汚職は当たり前」という感覚に対する市民の反発やSNSの圧力が、政治家を動かすようになってきた。「グレーマネー撲滅」が政党公約にまで格上げされたことは、象徴的な変化である。

持続的な経済成長と国家の信頼回復のためには、タイ単独での取り組みに限界がある。ここで、日本の果たせる役割は決して小さくない。法の遵守が社会に根付いている日本は、制度整備や透明性ある行政運営の面でモデルとなりうる。

さらに、デジタルIDや金融モニタリング技術の高度化といった分野でも、日本のノウハウは大いに役立つだろう。「グレーマネー撲滅」は単なる国内問題ではなく、国際社会との信頼構築に直結する。日本政府や企業が、この構造的問題の解決にどう関与していくかは、今後の日タイ関係における大きな試金石となるだろう。

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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。

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