日本食、店舗数が初の減少 ~市場成熟で専門性と体験価値が鍵~

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日本食、店舗数が初の減少 ~市場成熟で専門性と体験価値が鍵~

公開日 2026.02.20

NNA掲載:2026年1月22日

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は20日、タイで営業する日本食レストランについての調査結果を公表した。2025年の店舗数は前年比2.2%減の5,781店で、07年に調査を開始して以来初めて減少に転じた。市場の成熟や消費者ニーズの高度化で日本食市場が転換点を迎える中、今後は明確な客層や専門性、ストーリー性を備えた店が成長の軸となりそうだ。

ジェトロは25年8月15日~10月31日、日本食または日本風にアレンジされた料理を提供し、日本食メニューが半数以上を占め、客席を備える店を対象に調査を実施した。

業種別に店舗数を見ると、「総合和食」が2.8%減の1,398店で最も多かった。2位以下は、「すし」が2.3%減の1,250店、「ラーメン」が2.6%増の823店、「居酒屋」が4.4%減の459店、「すき焼き・しゃぶしゃぶ」が2.5%減の437店と続いた。上位では順位に変動はなかった。

13業種のうち、店舗数が増加したのは「ラーメン」と「喫茶」のみ。「鉄板焼き」は横ばいだったものの、その他は全て減少した。中でも「焼き肉」は、9.0%減の394店と、減少幅が最も大きかった。導入コストが低く参入障壁が低いことから小規模店の参入が相次ぎ、これに加えて韓国系店舗の台頭もあり、競争が激化したとみられる。

ジェトロバンコク事務所の阿部一郎所長は、調査結果を踏まえ、◇市場の成熟と消費者嗜好(しこう)の変化◇訪日機会の増加――が押し下げ要因になっているとの見方を示した。

阿部氏は、タイ経済全体の低迷により外食産業全体が伸び悩む中、タイ人消費者の日本食に対する知識や経験値の向上を背景に、市場全体が成熟段階に入っていると説明した。単純な出店拡大では成長が難しく、特に日本食レストランが集積するバンコクでは、主要顧客であった日本人駐在員や観光客の減少が消費鈍化の一因となっていると指摘した。

円安の進行で訪日機会が増えたことも影響している。おまかせ寿司や和牛、日本酒などの高価格帯の日本食については、タイ国内での消費を控え、本場の日本で味わいたいと考える動きがみられるとした。

一方、ラーメンや喫茶、とんかつ、ハンバーグなどの専門店や、日本産米へのこだわりを持つ店舗への関心は高まっている。日本食の普及で差別化が難しくなる中、消費者の評価軸は高級志向から産地や品質、体験価値に移っているという。また、若年層を中心に、トレンド性や交流サイト(SNS)映えといった話題性を重視する動きもみられたという。

店舗展開は二極化、大規模は底堅く

店舗数を運営形態別に見ると、1店舗経営や2~5店舗展開の小規模ブランドが減少する一方、51店舗以上を展開する大規模ブランドは横ばいで推移した。小規模ブランドの減少が進む中、店舗展開の二極化傾向がうかがえる。

客単価別では、101~500バーツ(約513~2,540円)の中低価格帯に店舗数が集中しており、バンコクでは他地域に比べ客単価が高い傾向がみられる。

阿部氏は、日本の食材を使った高級料理がある一方で、タイの原材料を用い、タイ人の味覚に合う形で提供する動きもみられると説明した。ローカライズの進展により、高価格帯の料理でも価格を抑える工夫が広がっているとした。

こうした中、回転ずし店「スシロー」を展開するフード&ライフカンパニーズ(F&LC)は出店を拡大している。21年3月にタイで1号店を開業して以降、バンコク首都圏にとどまらず、東部や北部、南部など地方にも展開を広げ、25年末には41店舗体制となった。

平日の昼時にもにぎわいを見せる「スシロー・ワンバンコク店」=21日、バンコク(NNA撮影)

同社の広報担当者はNNAの取材に対し、日本で展開するスシローの業態がタイの消費者にも受け入れられているとの見方を示した。タイに限らず、各国・地域で多くの客が利用しやすい価格設定と、価格以上の価値の提供を重視しているという。

原材料コストや人件費の上昇に対しては、グローバルな調達網を活用した食材調達や、調理工程の効率化などで対応している。F&LCは、今後も出店攻勢を続け、商品力の強化や戦略的なマーケティングを通じて競争優位性の確立を目指す。

抹茶ブーム、喫茶は話題性と専門性が鍵

業態別の店舗数の中で、増減率が最も高かったのが喫茶だ。抹茶ブームにけん引され、店舗数は前年比6.4%増の350店舗となった。増加ペースは地方ほど高く、バンコクの4.4%増に対し、近郊5県は8.1%増、その他の地方は9.2%増と、地方での広がりが鮮明だ。

抹茶専門店「KSANA(カサナ)」の共同創設者・加藤海氏はNNAに対し「首都圏では昨年、『抹茶×カフェ』業態の新規出店が特に増えた印象がある。地方でも抹茶カフェが増えており、全国的な広がりを感じている」とコメントした。

加藤氏は、タイ市場ではコーヒーに比べて抹茶は健康的な選択肢として受け止められやすい点に加え、産地や製法といったストーリー性や、鮮やかな色味、たてる所作の「映え」がSNSと相性が良いことが、支持を集める要因になっていると説明した。ラテやデザートなどへの展開もしやすく、同じ原料でも選択肢を広げやすい点が強みだという。

加藤氏は、抹茶専門店では味だけでの差別化が難しく、空間設計や提供所作などを含めた体験設計が重要になる一方、それを高い水準で実装できているプレーヤーはまだ限られていると指摘する。世界的な需要拡大を背景とした抹茶の原価上昇や調達の不確実性といった供給制約が、体験価値への投資を難しくしている。

今後については、「タイ市場に限って言えば、短中期で抹茶を含む喫茶の需要が直ちに崩れるとはみていない」(加藤氏)と話す。一方で、正式な需要の底堅さに比べ、高品質な抹茶の供給制約が成長の上限を左右するとみており、原価上昇への対応や品質維持、体験価値への投資をどう両立できるかが、今後の競争力を分ける局面になりつつあるとの認識を示した。

>>本連載「タイビジネスインサイト」の記事一覧はこちら

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