
カテゴリー: 対談・インタビュー
連載: 在タイ日本人駐在員の挑戦
公開日 2026.10.09
産業現場でのガス漏れによる爆発や中毒事故を防ぐガス検知器・警報器メーカー、新コスモス電機。単に製品を販売するのではなく、日本と同等の「安心」を定着させるため、タイ事務所所長の今野泰一氏は100社を超える現場に足を運んできた。タイ人スタッフとの信頼関係を軸に、現地法人化と東南アジアのメンテナンス拠点づくりに挑む同氏に、タイでの事業展開と駐在員としての役割を聞いた。

NEW COSMOS ELECTRIC CO., LTD.
General Manager, Thailand Office, Overseas Division
今野 泰一 氏
2007年に新コスモス電機へ入社。東日本支社で8年間国内営業を担当した後、海外営業へ異動し、東南アジア各国とメキシコを担当。2023年4月から日本を拠点にタイ事務所を管轄し、2024年8月にタイ赴任。現在は現地法人設立に向けた準備や市場開拓、事務所運営を行う。
新コスモス電機は、ガス検知器・警報器のメーカーとして、日本で60年以上にわたり社会の安全を支えてきた企業です。タイでは2019年に駐在員事務所を開設し、市場動向や代理店候補に関する情報収集から活動を開始しました。現在はタイ企業3社、日系企業5社と代理店契約を結び、各種製造業や化学プラント、建設現場などにガス検知警報システムを提案しています。
私たちが目指しているのは、ガス漏れによる爆発や中毒事故を未然に防ぐことです。そのため、製品の適切な選定・設置・メンテナンスを重視しています。代理店に対しては、本社技術担当者と連携し、製品やメンテナンスに関する技術情報を提供しています。ガス検知器は、正しく使い続けてもらうことで初めて安全を守ることができます。製品というハードと、安全教育やメンテナンスというソフトの両面から、日本と同等の安心をタイでも提供したいと考えています。
当社の強みは、単に高性能な製品を提案することではなく、お客様の現場に合わせた提案ができることです。ガスの種類や濃度、使用環境によって必要な機器や設置方法は異なります。そのため、まず現場を理解し、必要な設備や設置方法といった現場のニーズを本社に適切に伝えることを大切にしています。
日系企業には細かな要望に応えるための専門知識と日本と同等のサポート体制を、タイ企業にはデモ機を使い、まず実感してもらうことを優先しています。製品の性能を体感してもらい、導入後も継続的にサポートすることで、性能だけでは得られない安心も提供しています。
入社後、最初の約8年間は日本国内の営業を担当しました。その後、希望していた海外営業部へ異動し、東南アジア各国やメキシコを担当しました。タイの事業を任されたのは2023年4月からです。最初の1年余りは日本を拠点にタイ事務所を管轄し、2024年8月に赴任しました。現在は所長として、市場調査やマーケティング、代理店候補の選定、事務所運営から、現地法人化に向けた準備まで幅広く担っています。
タイでは、人とのつながりや信頼関係が非常に重視されます。「良い製品をつくれば売れる」という考え方だけでは通用せず、信頼関係がなければ、お客様の本当の課題を聞き出すことも難しいと感じています。また、安全への意識や優先順位の違いに戸惑うこともありました。そうした違いを埋めるため、私は現場主義を徹底しています。
代理店の先にいる販売店も含め、これまで100社を超える現場を訪問しました。タイの各現場ではどのような課題を抱えており、どのような製品ニーズがあるのか、何度も会話を重ねる。その地道な積み重ねが、信頼を築く一番の近道だと考えています。
近年は中国や韓国メーカーの存在感も高まり、競争は厳しくなっています。以前のように「メイド・イン・ジャパン」だけで選ばれる時代ではありません。だからこそ、製品品質だけではなく、どのような価値を提供できるかが重要です。当社の場合、それは現場に合わせた提案、導入後のサービス、代理店への継続的な支援です。製品を届けるだけではなく、安全に使い続けてもらう仕組みまで提供すること。それが日本企業として提供できる価値だと考えています。
当社には「世界中のガス事故をなくす」というグループの大目標があります。その実現に向けて、まず目指しているのがタイで現地法人を設立し、東南アジアのメンテナンス拠点として整備することです。これまで各国の代理店との関係づくりを進め、国によってばらつきがあったメンテナンス水準をある程度そろえてきました。今後はタイを起点に、各国の技術やサービスをさらに向上させ、東南アジア全体の産業現場を支える安全インフラを構築したいと考えています。
タイでは、正規代理店ではない第三者がメンテナンスを行うケースもあります。そのため、製品を安全に使い続けてもらうためのサポート体制づくりが欠かせません。展示会などを通じて、メーカーや正規代理店による点検の重要性、日本式のサービスの考え方を伝えています。昨年12月にバンコクで開催された「第1回タイ日系企業安全大会」では、「タイに事務所があり、日本の技術者からサポートが受けられるのは心強い」という声もいただきました。現地で安全への意識を高めていく必要性を改めて実感しました。
また、デジタルトランスフォーメーション(DX)やIoTを活用したリアルタイムの安全モニタリングや予防保全にも取り組んでいます。産業用途で培った技術を生かしながら、安全を届ける領域をさらに広げていきたいと考えています。
赴任前は、「日本の優れた製品を現地に広めるプレイヤー」という意識が強くありました。しかし、タイで事業をつくる中で、その考えは大きく変わりました。現在は、日本と現地の架け橋となり、未来の事業基盤をつくるプロデューサー、コーディネーターであるべきだと考えています。現在のタイ事務所は、私を含めて4人のチームです。タイ人スタッフには、「ひとつの扉が閉じても、別の扉は開く」とよく伝えています。失敗しても、それを経験に変え、同じ失敗を繰り返さなければいい。安心して挑戦できる環境づくりを大切にしています。

私一人でできることには限りがあります。お客様との関係づくりも、人材育成も、現地スタッフの力なしには進みません。彼らが中心となって課題を解決し、誇りを持って働ける組織を築くこと。そして、自分がいなくなった後も同じ価値を提供し続けられる仕組みを残すこと。それが駐在員として最も重要な役割だと思っています。

THAIBIZ編集部
杉浦亜希子
