【バリューチェーン編 第1回】タイにおける拡張バリューチェーン改革の最適解

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

【バリューチェーン編 第1回】タイにおける拡張バリューチェーン改革の最適解

公開日 2026.10.09

これまで本連載では、タイ市場の構造変化を起点に、組織・人事の変革やそれを支える経営基盤のアップデートについて考察してきました。本稿から全三回は製造業のバリューチェーン改革について、激変する外部環境を乗り越えるための全体構想と、経営と現場を融合した改革のあり方を紐解きます。

タイ製造業が直面する市場変化と「拡張バリューチェーン」の必要性

昨今、タイの製造業は大きな転換期を迎えています。経営層からは「市場縮小や中国勢などの猛追により、撤退や縮小を迫られる」「成熟度が高いタイへ他地域からの生産や設計開発機能の移管・集約が必要」といった声をよく聞きます。

ここで重要なのは、タイ拠点の役割の変容です。単なる低コスト製造拠点を脱し、アジア域内の事業運営・意思決定を担う「戦略的拠点」へ進化するには、自拠点を中心としたあるべきバリューチェーンの姿を主体的・戦略的に描かなければなりません。

実現に向けては、市場変動に応じた拠点間の計画最適化や、組織の枠を超えた横断調整、地域全体の収益・品質を一括管理する高度なマネジメント機能が新たに求められます。

このように果たすべき役割が拡がるからこそ、自拠点の枠を超えて、エコシステム全体をシームレスにつなぐ、進化した「拡張バリューチェーン」を導入し、組織と業務を進化させる打ち手が不可欠となっています(図表1)。

図表1 拡張バリューチェーン

特に重要となるのが、エンジニアリングチェーン(ECM)、サプライチェーン(SCM)、デマンドチェーン(DCM)という3つのチェーンを面で捉えた一気通貫での企業全体最適です。タイの現場からは、「アジア域内を統括する戦略的拠点として迅速かつ高度な意思決定を下すには、従来の部門ごとに閉じた部分最適では限界がある」との声もよく耳にします。設計開発・生産・販売の各領域を密に繋ぐ、さらにはエコシステム全体に展開していき、相互にフィードバックし合うことで、はじめてアジア地域全体を牽引する強固な事業基盤を構築できます。

全体構想の描き方と実行へのアプローチ

【目指す姿】現場と経営が融合した自律的改善サイクル

拡張バリューチェーン改革が目指すのは、経営判断と現場改善がリアルタイムに融合し、自律的に最適化する体制・運用の確立です。

経営陣は、収益性や資産効率向上による企業価値向上を目指し、現場課題へ因数分解した重要業績評価指標(KPI)ツリーを策定します(図表2)。現場はそのKPIに基づき改善活動を自律的に推進し、状況を可視化します。経営陣は可視化された状況をもとにリアルタイムな意思決定を行います。これら一連の自律的改善サイクルによる企業全体の最適化こそが、改革のあるべき姿です。

図表2 経営と現場をつなぐKPIツリー

【アプローチ】全体構想策定と改革実行

企業全体の構想では、将来のありたい姿から逆算する「バックキャスト」と足元課題の延長線上で改革ステップを描く「フォアキャスト」、さらには「経営視点」と「現場視点」を踏まえた4象限で改革テーマを策定することが必要です。

Step 1. 土台となる組織・プロセスの整備

部門ごとの責任・権限の明確化や評価制度を整備し、業務プロセスの標準化とルール見直しを徹底します。

Step 2. データの整備と可視化

現場データを整備・蓄積することで現状を可視化し、改善を実施できる基盤を構築します。

Step 3. 分析と改善実行から自律的改善サイクルの確立へ

蓄積データを分析してボトルネック特定やコスト改善を行い、現場データを経営ダッシュボードとKPIツリーに反映させ、自律的改善サイクルを完成させます。

上記の改革ステップを意識する一方、対応リソースや駐在任期の制約下で成果を出すには、構想と施策実行スピードのバランスも重要です。ライトな実行で成果を刈り取れる小さな打ち手は、大きな改革施策と明確に切り分け、クイックに即時実行することが求められます。

第二回・第三回は、ECM・SCM・DCMの各連携と動向に焦点を当て、具体的な改革内容を詳述していきます。

>>本連載「AI時代を生き抜くための変革 – ABeam Consulting」の記事一覧はこちら

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director

田中 俊輔 氏

製造業を中心に、戦略・中計策定から、業務改革、システム構想・導入など、数多くのプロジェクトに従事。23年以上のコンサルティング経験と13年の中国駐在経験を有する。タイ、中国など海外ビジネスにも精通。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Manager

奈良 亮佑 氏

製造業の需給・基幹領域における業務改革・システム導入に強みを持ち、構想策定から導入・定着化まで一貫した支援を行う。東南アジア、北米、欧州、豪州をはじめとするグローバル案件のマネジメント実績あり。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.

日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。

Tel : 02-610-1100
E-mail : [email protected]

Website : https://www.abeam.com/th/

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP