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連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2023.09.12
過去数年、タイの経済ニュースのトップを飾り続けたのは紛れもなく電気自動車(EV)ブームであり、中国企業の相次ぐ参入、販売攻勢に日系自動車メーカーも脅威を感じながら、内燃機関(ICE)車などでの自らの強みを再確認することを迫られている。在タイ日系企業が現在、タイ、そして東南アジア戦略をどう考えているかを探るトップインタビューシリーズの第8回では、三菱自動車タイランドの小糸栄偉知社長兼CEOにご登場いただいた。
(インタビューは7月27日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
小糸社長:三菱自動車にとって、ピックアップモデルはグローバルの中でも最重要商品だ。世界中で使われる車であり、タイはその生産・輸出ハブだ。エンジンから、フレーム、ボディなどすべて新しくしたフルモデルチェンジであり、競争力のある商品になっていると自負している。
小糸社長:日本が中心だが、タイにも開発部門があり、さまざまなテストをして三菱自動車本社にフィードバックしている。タイのお客様が車を使っている実際の現場を調査し、前のモデルでこうして欲しかったなどの声もヒアリングしてきた。例えばタイの市場で使われる「籠」がピックアップの荷箱に縦に何個入ってほしいなどの具体的なニーズを確認し、商用ユーズのお客様の収入に直結するような要望も織り込んだ。「沢山積めて、エンジンのパワーがあって燃費が良いから、経済性も良い。これを使うと儲かります」という「コト売り」だ。
小糸社長:自動車需要の4割以上がピックアップという国はタイ以外にないのではないか。歴史的に「荷物も運べて商用も乗用もこれ1つでこなせる車」として根付いている。タイではボンネットがついている車が格好いいという評価もあり、ピックアップ市場は非常に大きい。こうした傾向は当面大きくは変わらないだろう。
小糸社長:タイ国内だけでなく世界中への輸出でもディーゼルエンジンなどICEのニーズはまだまだある。こうした中で今回は環境性能が高くパワフルな新型ディーゼルエンジンに投資した。
当社はタイで長く事業を行っており製造ラインにも歴史がある。歴史があるということは、どこかで最新化していく必要がある。最新化するとなるとモデルチェンジのタイミングが効率的だ。今回の新型化では、将来の労働力の問題や、品質・生産性向上を見据えて、約250機ものロボットを導入した。
小糸社長:軽自動車ミニキャブ・ミーブは、三菱自動車が日本で売っている商用電気自動車(EV)だ。ミニキャブ・ミーブは22年度時点で日本郵便に3000台以上使っていただいている。EVは「充電インフラ」「EV走行可能距離」が問題になるが、例えばバスや配送車なら、走行ルートを充電場所やタイミング含め管理できる。都市内のデリバリーの場合、1日に走る距離はそこまで長くはない。この走行ルートを1日に2周する場合、途中で1回充電してまた出ていく。タイでも「タイランドポスト」と一緒に実証実験を行っている。ミニキャブ・ミーブはもともと配送用にできているため、床が深く、横がスライドドアとなっており、オペレーターの身体負担なども考えられている。またタイの狭い「ソイ」でも小さい車体が好評をいただいている。タイでもミニキャブ・ミーブの生産を検討している。
小型SUVは三菱自動車が東南アジア諸国連合(ASEAN)に特化して生産・販売していく商品の1つであり、もうすぐ発表される予定だ(※8月10日にインドネシアで発表された)。まずはインドネシアに投入され、順次ASEAN各国でも販売予定となっている。
小糸社長:三菱自動車は、2009年に初めてEVの量産車をつくった最初のメーカーだ。志は高かったが、正直、タイミングが早過ぎた。EVのコンポーネンツを使い次に開発したのがプラグインハイブリッド車(PHEV)だ。EVのモーターやバッテリーを使いながら、エンジンと三菱独自の4輪駆動(4WD)技術をSUVに搭載したのが「アウトランダーPHEV」だ。街中だけの運転であれば、1日の走行距離は数十キロ程度なのでバッテリーEV(BEV)として使える。家族で遠出するときにはエンジンで発電でき、ハイブリッド(HV)として使える。非常に現実的な電動車だと考えており、お客様の自由度も高い。
一方でPHEVから充電機能を取り除いて、バッテリーをもう少し小さくするとHVになる。HVを作ってからEVに向かうのではなく、EVを作ってPHEV、PHEVからHVと逆の流れだ。新しいHVというのは東南アジア諸国連合(ASEAN)に、特にタイ市場に向いていると考えている。
小糸社長:なぜお客様が電動車に興味を持つのか、今まで買っていたガソリン車と同じ値段で買えるからだ。EVには補助金が出ているが、それがなければ事業としてなかなか成り立つのは難しい。補助金が将来も同様に出るとは限らず、マーケットを作るには技術のブレイクスルーが必要になる。今、タイでEVを購入しているお客様は基本的には裕福な方が多いのではないか。街中で乗るのにはEVのほうがスタイリッシュでトレンドなので、今は1つのライフスタイルとしてEV車を買う。ただ家族で遠出する際には他に所有しているICEかHVに乗る。
全ての車がEVになってしまうのではという話は若干違うと考えている。もともと三菱自動車は電動化に積極的であり、そういった世界を作りたいと考えてきたので、電動車セグメントができることは不思議ではなく、そうであるべきだと考える。ただ全部が全部EVになるのではない。他方、タイではPHEVやHVにも税制優遇が設定されており、ICEに近い価格で購入することができ来るので、ICEも含めてお客様の用途やニーズに合わせていろいろな選択肢が提供されている。
またタイで生産する場合、台数規模を考えると輸出が必要だ。周辺国でEVマーケットがどれだけあるかというと、タイが一番進んでおり、まだ他の国では小さい。タイほど政府のサポートがなく、ICEに近い値段で販売できていないからだ。
小糸社長:そういった報道もあるので将来、大丈夫かと感じている方はいるだろう。通常、新型モデルを1回発売すると9年から10年は継続する。今回、年間20万台のディーゼル車を生産するために、サプライヤーに新たに発注している。とはいえ、エンジン部品を生産するメーカーは、「近い将来ではなく、遠い将来はどうなるのだろう」と考えて、水素や電気自動車にも使える自社の技術を使った部品を開発されるところもあるだろう。ただ、今すぐに現在の仕事がなくなってしまい、全てがEVに変わるという事ではないと考える。
当社はタイ国内だけではなく、輸出も多い。特にピックアップはディーゼルエンジンが必要であり、HVやPHEVも高効率なエンジンが必要だ。エンジンも環境性能や動力性能を向上させていく必要があり、まだまだ需要はある。
小糸社長:もともと当社の場合は三菱自動車だけを取り扱っているディーラーばかりではなく、さまざまなブランドの車を販売しているところもあり、そういったディーラーが新たに中国ブランドを取り扱い始めるケースもあるようだ。
小糸社長:ピックアップの電動化は考えないといけないが、まだ具体的にどうやるかは決まっていない。中期経営計画の中で、今後5年以内にはソリューションを見つけないといけないと説明している。タイでピックアップは、重い荷物を積んで長距離を高速で走る、といった使われ方をする。バッテリーをピックアップに搭載するとなると、非常に容量があり重いので、荷物を積めなくなってしまう。設計や採算といった観点からも、そういったスパンの中でソリューションを考えていく必要がある。
小糸社長:ピックアップの生産輸出拠点は間違いなくタイであり、今回タイで新型車に投資した。インドネシアは小型MPV市場が非常に大きいので、エクスパンダーを生産、輸出している。このように、基本的には内需の大きいところの地産地消をベースに拠点化している。
小糸社長:経済合理性がある形になればEV化を進めていきたいが、まだなかなかそうはいきにくい。また政府のサポートも減っていくだろう。一方、2~3年以内に電池のコストが下がるかというと、むしろ今は上がっている状況。まずは特定の用途にフィットする商用Vanのようなものが、足元での三菱自動車のソリューションだと考えている。
小糸社長:一般のお客様がカーボンニュートラルだからEVを選ぶということはまだ無く、「経済的な理由」×「ファッション」という意味合いが強い。他方、将来のカーボンニュートラルを考えた時に、何が最適解なのかはまだ決まっていない。またバッテリーへの投資は巨額なので、将来が決まっていないものに巨額投資はしにくい。
EVはアクセルを踏んだ瞬間にレスポンス良く走るので、運転もしやすい。今後の新しい1つのセグメントだと考えている。技術的な改良が進み、補助金なしでも安くなり、充電時間も短縮されれば、さらに広まっていくだろう。
小糸社長:ASEAN、その中でも特にタイではPHEVの技術をベースにしたHVが良いと考えている。PHEVよりもバッテリーサイズが小さくなりコストが下がる。しかも走りは電動車で、お求めいただきやすい価格設定になれば、人気は出るだろう。
タイでは乗用車での電動化の選択肢を増やす必要があり、当社は2024年以降の新規のタイ国内生産乗用車は「xEV」化する考えだ。現在エコカーを生産している工場で「xEVモデル」を生産していく予定であり、「エコカー生産工場からxEV生産工場へ」と進化していく事になる。
PHEVのメリットは、街中ではEVとして乗れることだ。EVは欲しいが遠出が心配という方にはPHEVが良いのではないか。今後さらに燃料の改良により、HVやPHEVでも二酸化炭素(CO2)が減っていくかもしれない。
小糸社長:タイの三菱自動車事業の歴史は、人を雇用して、人を育てて、投資をして新しい技術を入れて技術移転を行い、完成したものを輸出することで事業を通じた貢献を行ってきた。これを続けていくために大きな投資をしているので、引き続きサポートしていただきたいと考えている。
また賃金が上がるのは良いことだが、急激に上がり続けると他国とのコスト競争力という点でリスクとなる。その分、付加価値のある製品や、新しい技術やロボットの導入等で解決していく必要がある。また当社は輸出も多いので、為替も懸念材料だ。
小糸社長:今回、タイ国内で放映している新型ピップアップ「トライトン」のテレビ広告メッセージが「The Disruptor」だ。最初は暗く、道も険しい、今の世の中を表している。そこでトライトンに乗ることによって、世界、生活、ビジネスが良くなっていく。各方面で満足いただける商品になって欲しいという想いで企画して作った。まだ新型コロナウイルスの影響が経済的にも残る中で、我々の新商品がこれらをDisruptして、良くなるようにというのが願いだ。
TJRI編集部
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