カテゴリー: バイオ・BCG・農業, スタートアップ
連載: 日系スタートアップ
公開日 2023.07.25
農林中央金庫などJAグループとタイのカシコン銀行が5月17日に開催した日本の食農スタートアップ企業によるピッチイベント、「AgriTech Bridge 2023」の参加企業紹介の第5回は「Ac-Planta(アクプランタ)」だ。
遺伝子組み換え(GM)技術を使わない革新的なソリューションで植物の潜在力を解き放ち、さまざまな環境下でも生育できるよう科学の力を活用する農業バイオテクノロジー企業である同社の讃井邦明最高財務責任者(CFO)のプレゼンテーションを報告する。
本日はオンラインでの参加となってしまい残念です。私たちのアクプランタという会社では、植物の可能性を引き出して、気候変動に対応するという事業を行っています。ビジョンは、植物と人間が気候変動を共に生き抜き、今後も平和に生きていけるような世界を創りたいというものです。
現状の課題は「干ばつ」であり、2050年には世界の70%に影響を与えると言われています。下記の絵の赤いところは全て干ばつの影響を受けるだろうと言われている地域です。現在も420億ドルの被害が既に起きており、その課題は将来だけではないというのが現状認識です。「人間は農業をずっとやってきたのに、なぜ今でも干ばつに苦しんでしまうのか」の解決策として、私たちは「植物の力を借りてみよう」と考えました。
私たちの専門技術は「Epigentics(エピジェネティクス)」で、一言で説明すると「DNAの変更を伴わずに植物が本来持っている力を引き出す」という技術です。一般的に遺伝子の議論では、「Gene Modification(遺伝子組み換え)」が対象となりますが、これは実際に違う植物を作り出す技術です。私たちの技術は、同じDNAのまま、その力を最大限に引き出すという方法です。
弊社の金鍾明代表取締役社長・CEOは、エピジェネティクスの研究を、日本最大の研究機関である理化学研究所で長年研究し、そこでの発見を事業化しました。植物が乾燥を感じた時に、自らの体内で何をしているのかということが発見です。一般的な状況だと光が当たって、二酸化炭素(CO2)を吸収し、水があると体内でグルコースを作り、代謝されて栄養になっていく過程が青色で示されたものです。発見したのは、乾燥のタイミングになったら自らの体内で「酢酸」を作り出して、自らの遺伝子ネットワークを刺激、そして遺伝子にまとわりついて、自ら遺伝子の力を引き出しやすくしていることです。
この発見を商品化し、より早く市場に出したい、より早く皆さんに貢献したいということで事業をやってきました。酢を与えると植物は通常、枯れてしまうので、他の人は商品化できなかった。この発見に基づき開発したのが「Skeepon(スキーポン)」という商品で、液体型の農業資材です。スキーポンは、植物が自らの体内で作り出す酢酸を、植物体の外部から与えることで、植物自身が持つ高温・乾燥耐性を引き出す仕組みです。このメカニズムは全ての植物に見られることであり、あらゆる植物に適用できます。また、一度与えることでその効果は最大3か月持続します。
スキーポンは、皆さんが普段から飲んだり食べたりしているお酢の主成分である「酢酸」をベースに作られた製品です。ほかの成分の開示は出来ませんが、酢酸と同様に人体や環境に対して安全なものを使用しています。スキーポンを使用することで、必要な水分量をキープしたりセーブしたりすることができ、植物を世話する時間を増やすことができます。特許は現在、アメリカで取得済みということもあり、アメリカでの事業進出を中心に行っていますが、これに基づく特許を30か国に移行中で、特許を取得次第、世界に展開していきたいと考えています。
苗木を世話するときには水を一定の希釈倍率で与えるだけになっています。このため、皆さんの農業のやり方、オペレーションの何かが変わるものではなく、普段通りのオペレーションでスキーポンを適切な希釈で与えるだけで植物が勝手に強くなります。例えばスキーポンを十分に吸わせたブロッコリーの畑では苗の定植率が約25%も向上しています。干ばつ期ではない一般的な年でも5~10%くらいの植物を生き残らせることができますので、毎年スキーポンによる効果を得ることができます。
その効果は、トマトでも見ることができます。トマトは高温に非常に弱い植物なのですが、下記の写真は、気温50度、湿度10%の異常な環境下にトマトの苗を72時間さらした後の写真です。左側の水だけのものは枯れているのですが、スキーポンを与えたものはまだ生き生きしています。この後、平常の環境になったら、より生育が良くなります。同じような結果はハウスでも見られ、ある一定期間におけるトマトの実の数はおおむね2.2倍になっています。このほか、トウモロコシでも背丈の効果が実証されています。
スキーポンを他の商材と比べたときに何が違うのかというのが下記の図です。植物を高温と乾燥に対し、同時に強くすることができます。酢を中心とした商材なので環境にもやさしいですし、どんな植物にも与えることができます。
一方、遺伝子組み換え(GM)作物では、高温と乾燥に同時に強くすることはできますが、適用できる植物数が限定的になってしまうことや、生態系への影響などの問題が起こってきます。微生物資材や土壌安定剤は一般的には乾燥耐性を強くするものなので、高温時には効果が見られにくいものです。私たちの製品は高温と乾燥、同時に強くするのが特徴です。
現状、日本では4年間で2万4000リットルの販売をしており、3万ヘクタールくらいの農地で利用していただいています。主なユーザーは葉物野菜、トマト農園などで、日本で最も大きな農業地域である北海道でもディストリビューションが始まっていて、日本全国に商材を拡大できる状態になっています。
海外では、アメリカ市場をビジネスのメーンターゲットにしていますが、他のさまざまな国からもお声がけいただいています。まだタイではビジネスがありません。稲作についても強いという結果も出ているので、ご一緒できると嬉しいと思っています。
私たちの技術は、「ヒストンタンパク質のアセチル化」を促進することにより、遺伝子の活性化を促進するというメカニズムをベースとしています。これは、遺伝子の情報を引き出しやすくする技術なので、高温乾燥耐性にだけ対処するものではありません。あらゆる植物の体内の3分の1を強くすることができますので、いろいろな可能性があると考えています。その可能性の例として、減肥料や特定の材料を強くするものなどを考えています。
TJRI編集部
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