カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.01.10
目次
2017年のタイ経済は緩やかな回復基調が続く見通し
タイ中央銀行が発表した2016年10月の重要な経済指標によると、前月に比べて回復テンポが減速しました。政府支出が引き続き経済の主要なけん引役となっています。しかしながら、経済成長のけん引役となっている観光業の伸びが鈍化したほか、輸出もマイナス成長となりました。
10月の民間消費は前年同月比2.1%上昇したものの、前月と比べ1.5%減となりました。耐久財と非耐久財への支出がそれぞれ前年同月比2.6%、0.6%下落しました。それに加え、タイ人観光客と外国人観光客の双方で伸びが減速したことにより、サービス支出、特にホテル、レストラン、旅客輸送など観光活動に関連したものやエネルギー消費が鈍化しました。
一方で、民間投資は前年同月比1.5%下落しました。全体としてまだ顕著な回復の兆しを見せていません。
10月の輸出は前年同月比4.3%減の176億米ドルとなり、前月のプラス成長からマイナス成長に転じました。需要減退で中東向けの自動車輸出が落ち込んだほか、干ばつによる原料不足で農業製品の輸出も減少しました。その中で主要市場向け輸出と一部の商品群の輸出は上向きました。この動きは輸出向け工業の生産増に一致するもので、特に一般機械・機器の輸出が伸びています。
2016年10月の工業生産に関しては、前年同月比0.1%の上昇で、3ヵ月連続で前年同月からプラスとなりました。石油、家電、IC(集積回路)・半導体が2桁伸びた一方、食品・飲料、自動車などは前年割れとなりました。しかしながら、自動車は中東向け輸出の収縮の影響などから生産が減少しました。
観光業は外国人・タイ人観光客の双方で伸びが減速しました。とりわけ、外国人観光客数は、前年同月比0.5%増の226万人となり、前月の同18.3%増から大幅に減速しました。中国人向け「ゼロドルツアー」の取り締まりと到着ビザ料金の値上げが要因です。
商務省が発表した11月のヘッドライン・インフレ率は、前年同月比0.60%の上昇で、前月の同0.34%増を上回りました。上昇は8ヵ月連続で、2014年12月以来の高水準となりました。冬季で需要が高まる年末に向け原油価格が上昇していることに加え、国内経済の回復で日用品や生鮮食品の物価が上がりました。
品目別にみると、食品・飲料部門では、前年同月比1.49%の上昇で、前月の同0.89%増から伸びが加速しました。米・粉製品以外はプラスで、特に果物・野菜が同6.09%と高騰しました。また、非食品部門は同0.11%の上昇となりました。上昇は2ヵ月連続で、上昇幅は過去2年で最高でした。たばこ・酒が同12.9%上昇したほか、燃料石油が同1.5%上がりました。
一方で、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.72%の上昇で、前月から伸びが横ばいとなりました。
11月の米国大統領選後、トランプ次期大統領が打ち出している規制緩和や大幅減税、大規模なインフラ投資拡大などに注目が集まりました。大規模インフラ投資が行われれば米国の景気が活性化するという期待感が高まっています。そして、これらの政策を行うためには国債の発行が必要であり、長期金利が上昇すると期待され、米国に資金流入が進むと予想されます。これがドル高の要因の1つになっています。
円対ドルの変動は、一時1米ドル118円台まで円安に進みました。バーツ対ドルの変動は、継続的に1米ドル36バーツ台となり、バーツ安傾向を見せました。
一方、バーツ対円の変動について、タイの景気回復がバーツを押し上げました。2016年12月21日には100円=30.6バーツの終値をつけ、2016年11月21日の100円=32.1バーツから円安傾向を継続しました。
世界経済の先行きに脆弱性が残っている中、2017年のタイ経済成長の最も重要な原動力は、依然として政府支出と観光業であると見込まれます。また、2017年の輸出は、原油や天然ゴムなどの商品価格が既に最低点を通過したことにより、過去4年連続でマイナス成長からプラス成長に転じる見込みです。
現在、タイ政府は、様々な大型インフラ整備を推進しており、2017年には、新路線のモーターウェイや、イエローライン・ピンクライン・オレンジラインの新電車路線などの交通インフラ・プロジェクトが着工する予定です。また、スワンナプーム国際空港の第2期拡張事業などの現在進行中のプロジェクトもあります。カシコンリサーチセンターは、これらのプロジェクトにより2017年のタイ経済に流れ込む金額はGDP全体の5~10%に相当すると見込んでいます。カシコンリサーチセンターは、2017年の公共投資が通常ケースで前年比8.5%増になると予測します。
観光業部門に関しては、2017年に引き続き拡大傾向にあると見込まれます。中国人向け「ゼロドルツアー」の取り締まりの影響により、2016年第4四半期の中国人観光客数は減少傾向にあるものの、この影響は2017年第1四半期までに軽減する見込みです。このことにより、2017年の外国人観光客数は3年連続でプラス成長となる見通しですが、過去2年間のような2桁成長は維持できないと予想します。
また、民間投資が経済成長を上積みすることが見込まれます。公共投資の拡大および政府による民間投資の刺激措置により、投資家の信頼感が改善傾向に転じ、全体的な投資環境が改善する見込みです。それに加え、観光業の継続的な拡大傾向により、卸売・小売業、ホテル、レストランなどのサービス業向けの投資が拡大傾向にある見込みです。カシコンリサーチセンターは、2017年の民間投資が通常ケースで前年比2.8%増になると予測します。
一方で、民間消費は、消費者物価の上昇と高水準の家計負債により、緩やかな持ち直しの動きを見せると予想します。2017年のインフレ率は、世界原油価格の上昇とともに、前年比1.8%増となると予測します。それに加え、家計債務の高止まりが依然として消費の下押し圧力になると予想します。しかしながら、タイ政府は、家庭向け消費を増加させるため、低所得者に対する給付金支給、最低賃金の引き上げ、農家向けの支援策など購買意欲の喚起を行う政策を打ち出しています。よって、2017年の家庭向け消費は緩やかに改善すると見込まれます。カシコンリサーチセンターは、2017年の民間消費が通常ケースで前年比2.2%増になると予測します。
タイの輸出に関しては狭い範囲で回復する見通しです。その主な要因として、米国の景気は回復傾向にあるものの、中国や欧州などタイの主要な輸出相手国の経済がゆっくりとした回復基調となっています。また、米国の新政権の対外政策方針と、政策金利の引き上げは、世界貿易の地殻変動を起こす懸念もあります。しかしながら、世界原油価格の上昇傾向が、石油関連製品である天然ゴムや石油化学製品などタイの主要な輸出製品にプラス影響を与えると見込まれます。カシコンリサーチセンターは、2017年のタイ輸出額が通常ケースで前年比0.8%増になると予測します。
従って、カシコンリサーチセンターは、2017年のタイ経済成長率を、前年比3.3%増の見通しで、前年比ほぼ横ばいになると予想しています。
“2017年のタイ経済成長の最も重要な原動力は、依然として政府支出と観光業であると見込まれます。”
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THAIBIZ編集部
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