タイ人にスースー!と言ってはいけない!?

THAIBIZ No.167 2025年11月発行

THAIBIZ No.167 2025年11月発行TPA29から始まる日タイ共創の新章

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タイ人にスースー!と言ってはいけない!?

公開日 2025.11.10

Question:タイ人のモチベーションの上げ方がわからず困っています。どういう声掛けをしたら良いでしょうか。

Answer:多くのタイ人社員が求めているのは、声掛けよりもまずは「共感」のようです。

「タイ人部下のモチベーションをどうやって高めるべきか」。多くの日本人上司が直面する悩みです。声掛けひとつで気持ちが大きく変わることもありますが、実はタイ人社員が本当に求めているのは「共感」かもしれません。本稿では、よく使われる励ましの言葉が、時に逆効果になる背景を紐解きながら、より効果的な関わり方を探ります。

「スースー」は「頑張れ」よりも少し強いニュアンス

タイに来た日本人が最初に覚える言葉のひとつに「スースー(สู้ๆ)」があります。社長あいさつでグーを握って高く上げながら「スースー!」と言う姿もよく見られます。しかし、タイ人スタッフによくよく聞いてみると、この言葉に対する受け止め方はさまざま。状況によっては、かえってモチベーションが下がることもあるようです。

「スースー!」は「頑張れ!」「頑張ろう!」という意味で日常的に使われる言葉ですが、元々の「สู้(スー)」という動詞は「戦う、抵抗する」というやや強い意味があります(図表1)。

出所:Asian Identityが作成

故ラーマ9世が作曲した「เราสู้(ラオ・スー)=私たちは戦う」という歌があります。タイが国家を守り抜いてきたことを称えているのですが、「สู้ตรงนี้ สู้ที่นี่ สู้จนตาย(ここで闘い、ここで闘い、死ぬまで闘おう)」という歌詞もあり、なかなか勇ましい歌です。

もちろんそうしたニュアンスで日常的にタイ人が使っているとは思いませんが、日本語の「頑張れ!」よりはやや強いニュアンスを持ちうる言葉だと思います。 

例えば、試合に臨むスポーツ選手や挑戦しようとする友人を「スースー!」と応援するのはまったく問題ありません。利害関係のない者同士がエールを送ることは自然なことだからです。日本語の「頑張れ!」とほぼ同じ使い方ができると言って良いでしょう。

一方で、上司が部下に「スースー!」を用いるのは、場合によっては要注意です。なぜならば、部下が頑張れるようにするのは、上司の役割でもあるからです。

仮に部下が問題を抱えていて上司がそこに気づけていない中で「スースー!」と言ってしまうと、「応援するだけなのか」と思われてしまう可能性もあり、そうしたところにタイ人スタッフはとても敏感です。

スースーと言ってはいけない場面

弊社のタイ人コンサルタントを中心に少しリサーチをしてみました。20代が中心のメンバーですが、「スースー!」への受け取り方は「全体的にネガティブ」でした。タイ人若年層の意見を総括すると、「スースー!」が嬉しく感じられるのは、カジュアルでフレンドリーな関係で用いられる時や、短期的な頑張りどき(締め切り前、発表前など)に限定されるようです。

また、カジュアルな関係でも、相手が「できそう」と思っている時なら「スースー!」を使うが、「できるかどうか不安だ」と思っている場合は、「スースー!」とは言わないようにしているという発言もありました。

一方で、深刻な問題や長期的なストレスの中にいるときに「スースー!」と言われると、「自分のことを分かってもらえていない」と感じる人が多いそうです。

また、自分なりに凄く頑張っているつもりなのに「スースー!」と言われてしまうと、「もうずっと頑張ってきたのに(まだ頑張らなければいけないのか)」という感情になってしまい、逆にモチベーションが低下してしまうとのことでした(これは私の部下の発言だったので、ドキリとしたのは言うまでもありません)(図表2)。

出所:Asian Identityが作成

つまり、「スースー!」はシチュエーションを間違えると、「すでに戦っている」本人にとって、「さらに戦え」という響きになってしまうのです。日本語の「頑張って」も、相手が苦しんでいる時に用いるとプレッシャーを与えてしまうこともありますが、タイ語でも同様の現象が起きてしまうことがあるのです。他にも、以下のような場面では「スースー!」は避けたほうが良いだろうということでした。

①部下が失敗や悪い結果の直後に落ち込んでいるとき

②うつ傾向や強いストレスを抱えているとき

③会社の危機・人員削減など重い場面

④フォーマルなシーン(会議・面談・報告の場など)

タイ保健省のメンタルヘルス局でも、「スースー!」などの言葉はうつ病患者に対して使うのは避けるべきとされています。理由は「頑張れ」と言われると、できない自分への罪悪感を感じやすいからです。昨今、タイでも若年世代で抑うつ症状が増加しているという話をよく聞きますが、そうした文脈からも上司が部下に使う「スースー!」は少し気を付けたほうが良いかもしれません。

おすすめのタイ語表現

では、代わりにどんな言葉が良いのでしょうか?「上司から言われたら嬉しいフレーズを教えてほしい」と依頼してみると、さまざまなフレーズが挙がりました(図表3)。

出所:Asian Identityが作成

多くのタイ人が共通して言っていたのは、「言葉自体よりも気持ちのこもった一言が大事」ということ。形式的な「スースー!」よりも、相手の努力を見ている・寄り添っているというメッセージが伝わる言葉のほうが、はるかに彼らの心に響くのです。

タイ人スタッフには応援より、共感を

「スースー!」は一般的な言葉ですし、その言葉自体が悪いわけではありません。しかし、悪気なく使われるだけに、場面を間違えると誤解を生みやすい表現です。

本質的な違いは、「スースー!」が相手の行動を促す言葉(Fight!)であるのに対し、タイ人が求めているのは、相手に寄り添い、相手の気持ちを支える言葉(I’m with you.)であるという点です。これはタイ人が求める理想のリーダー像とも関係しますので、その点については次回以降のコラムで、より深く掘り下げてみたいと思います。

言葉一つで、相手の心は動きもすれば閉じもします。「スースー!」の代わりに「ペン・ガムランジャイ・ハイユーナ!(応援してるよ)」と言うだけで、タイ人スタッフはよりやる気を出して働いてくれるかもしれません。もちろん、言葉そのものではなくわれわれ自身の言い方や態度、そして日頃の行いが重要であることは言うまでもないことは、最後に付け加えておきます。

株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役

中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)

愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。

人事に関するお悩み・ご質問をお寄せください。
「タイ人事お悩み相談室」コラムで取り上げます!→ info@a-identity.asia

Asian Identity Co., Ltd.

2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。

◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com

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