アジアのバイオエネルギーの可能性を討議 ~タイはキャッサバ利用をアピール~

アジアのバイオエネルギーの可能性を討議 ~タイはキャッサバ利用をアピール~

公開日 2024.02.27

国連食糧農業機関(FAO)のプログラムの1つであるGLOBAL BIOENERGY PARTNERSHIP(GBEP)は昨年10月24~27日に、世界各国のバイオエネルギーの政策担当者や専門家が持続可能なバイオマスやバイオエネルギーの開発促進、投資環境の整備などを話し合うGBEP Bioenergy Weekをタイ・バンコクで開催した。この国際会議は今回で10回目となり、タイ・エネルギー省の協力も得てアジア太平洋地域にフォーカスし、フィールドトリップを含めると4日間、バイオエネルギーに関する濃密な討議を行った。開催からすでに4カ月近くが過ぎてしまったが、電気自動車(EV)など自動車の動力源に関する議論、脱炭素で果たせる役割などに関する示唆も多いと思われるため、タイに関するパートなどその一部を紹介する。

アジア太平洋でバイオエネルギーの需要が大幅増加

GBEPは2005年に英スコットランドンで開催された主要8カ国(G8)サミットでのグレニーグルス行動計画を受けて2006年5月にニューヨークでの第14回持続可能な開発委員会(CSD)の会合で発足が決まった。現在は、米国、英国、ドイツ、フランス、ロシア、日本など23カ国と欧州委員会、FAO、国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国連工業開発機関(UNIDO)など14の国際機関が参加。その目的は持続可能なバイオマスやバイオエネルギーの開発を促進するルールや手段を提案することなどで、バイオエネルギーを巡るハイレベル政策対話を行い、国際協力の枠組みを整備するなどの機能を果たすとしている。

そして毎年開催されているGBEPバイオエネルギー・ウィークでは、バイオエネルギー分野のトレンド、将来のチャンスや課題などを討議する。GBEPは今回の会議の開催趣旨について「アジアはインド、インドネシア、マレーシアなどの主要国での促進政策の実行にけん引されて、バイオエネルギーの供給、需要はともに大幅に増加している」と指摘。木炭などを含む木質(Wood)エネルギーの重要性が急速に高まっており、不可欠のエネルギーになると予想されており、特にベトナムは2020年に、木質ペレット輸出では世界のトップ5にランクインしたと強調。また、アジア太平洋地域では。バイオガスとバイオメタンの生産で大きな可能性があるとしたほか、液体バイオ燃料では、IEAが2026年までにアジア太平洋地域が欧州を上回るとの予測をしたと報告した。

ASEAN各国の動向、バイオ燃料の見通し

GBEPバイオエネルギー・ウィークの初日ではFAOやGBEPなど主催者側の開会挨拶の後、世界およびアジア太平洋地域、そして各国の政策に関するセッションが行われ、まずIRENAのリカルド・ゴリニ氏が「ネットゼロに対するバイオエネルギーの貢献」をテーマに世界のバイオエネルギーの現状と、輸送、工業、建築など各分野別の二酸化炭素(CO2)削減見通しなどを概観した。

続いて登壇したASEAN Center for Energy(ACE)の調査アナリスト、モニカ・マーデカワティ氏はまずACEと東南アジア諸国連合(ASEAN)のエネルギー協力行動計画(APAEC)について紹介。ASEAN各国のバイオエネルギーのポテンシャルについて、例えば「タイはバイオエタノール生産では世界の先進国の1つとして有名だ」「インドネシアとマレーシアの両国は世界のパーム油産業を独占し、重要なバイオ燃料資源としている」「ベトナムは林業残渣、農業残渣、畜産糞尿など広範囲のバイオエネルギー資源を持っている」などと説明し、「ASEAN各国はさまざまな未利用バイオエネルギー資源を豊富に持っている」と強調した。

ASEAN諸国におけるバイオエネルギーの可能性
「ASEAN各国のバイオエネルギーのポテンシャル」出所:ASEAN

同氏はさらに、発電や工業、そして輸送の各部門におけるバイオエネルギーのシェアの推移と見通しを明らかにした。特にバイオ燃料については、「輸送部門のバイオ燃料シェアは増加し続けており、2020年には7.19%に達した。化石エネルギー資源の少なさとエネルギー安全保障の強化、輸送部門のCO2排出削減からASEAN地域でのバイオ燃料利用は増加し続けるだろう」と予想した。

交通におけるバイオエネルギーの可能性
「輸送部門のバイオ燃料のポテンシャル」出所:ASEAN

タイの政策とキャッサバ・バリューチェーン

この政策セッションでは、タイからはエネルギー省代替エネルギー開発・エネルギー保全局(DEDE)のスパチャリー氏が登壇。タイの温室効果ガス(GHG)排出量の推移とネットゼロに向けた目標値、そしてタイのバイオ・循環型・グリーン(BCG)戦略や、現在策定中の「代替エネルギー開発計画(AEDP)」の最新版などについて説明した。その上で、タイの輸送、発電、工業、建物などの分野でのエネルギー転換プロジェクトの具体例を挙げたほか、バイオエタノールとバイオディーゼルの生産量の推移も報告。最後に「食品と燃料のバランスをとる必要がある」「BCG経済モデルとマーケットはバイオエネルギー、バイオ燃料、そしてそれらの派生商品の開発につなげるべきだ」などと結論付けた。

さらに3日目の「バイオ経済」に関するセッションでは、1983年設立で、現在タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)傘下のNational Center for Genetic Engineering and Biotechnology(BIOTEC)のワリントーン氏が「タイのバイオ経済の発展を通じた持続可能な開発の促進」をテーマに講演した。同氏はまず、「タイのバイオ経済の促進はタイが中所得国の罠、社会の不均衡、環境への悪影響を克服するのが狙いだ」とした上で、「タイではサトウキビとキャッサバが豊富にあるため、バイオ経済の対象となってきた」と説明。そのバイオ経済政策では、1983年のBIOTECHの設立が最も重要なマイルストーンであり、これ以来、多くの政策、取り組みが実行されてきたと強調した。

タイのキャッサバ生産量と輸出状況
「タイのキャッサバ生産量と輸出状況」出所:BIOTEC

その上で、ワリントーン氏は具体的な事例研究として、「キャッサバの価値創造」を取り上げ、キャッサバの生産量ではタイは世界第3位であり、キャッサバ製品の輸出額では世界トップだと紹介。産地や関連企業・工場数では、ナコンラチャシマ、カンペンペットなどが中心になっているなどと説明した。さらにキャッサバのバリューチェーンでは、タイだけでなくラオス、カンボジア、ミャンマー、ベトナム、中国・広西チワン族自治区などと連携していることも明らかにした。このほか、キャッサバ残渣の利用プロジェクトや、キャッサバでんぷん生産工程のネットゼロ化などの取り組み、NSTDAと国立キングモンクット工科大学トンブリ校(KMUTT)が開発したキャッサバを原料とするバイオエタノール生産技術のラオスやベトナムなどへの技術移転についても報告した。このGEEPのイベントの4日目に行われたフィールドトリップではKMUTTのバンクンティアンキャンパスを訪問し、現場を視察することができた。

KMUTTのバイオエタノールプラント
KMUTTのバイオエタノールプラント

米穀物協会のグローバルな視点

今回のGBEPバイオエネルギー・ウィークで興味深かったのはアメリカ穀物協会(USGC)も参加していたことだ。米国産トウモロコシの輸出団体であるUSGC、そのロビー活動の強みとグローバル展開は世界の穀物業界で知られており、主にトウモロコシを原料とするバイオエタノールを世界に売り込んでいる。USGCの東南アジア・オセアニア地域担当アシスタント・ディレクターのクリス・マーキー氏は2日目の液体バイオ燃料のセッションに登壇し、アジア太平洋地域でバイオ燃料が果たせる役割について明快にレクチャーした。

まず、バイオエタノールの用途について、ガソリン混合用が中心だが、アルコール飲料、食品・ノンアルコール飲料、化学品、化粧品、薬品などもあると説明。バイオ燃料利用の主なけん引役として、①飼料を生産する農業生産者へのメリット②輸送燃料の脱炭素化という環境メリット③有毒ガス削減による人間の健康メリット④地域コミュニティーへの経済メリットとエネルギー安全保障-の4つを挙げた。

そして、同氏はアジア各国における農業の現状を、全人口における農業人口の比率と国内総生産(GDP)に占める農業生産高の比率を比較して概観。アジアのバイオ燃料市場の最新動向では、「廃食油とパーム油工場残渣での副産物は増加する」「農業残渣はセルロース系エタノールになる可能性がある」「エタノール生産ではCO2の利用が増える」などの新たなトレンドを指摘。アジアでは、全ディーゼルにおけるバイオディーゼルの比率、全ガソリンにおけるエタノールの比率ともに増え続けるとの見通しを示している。

2030年までのアジアにおけるバイオ燃料の需要
「2030年までのアジアにおけるバイオ燃料の需要」出所:USGC

マーキー氏はさらに東南アジアでのバイオエタノール政策の動向を国別に解説。タイについては、①E20の標準化:政府はE10とE85を終了し、E20を標準グレードにすることを計画②付加価値向上・新たな用途:2030年までに持続可能な航空燃料(SAF)にエタノールを1%混合、バイオプラスチックの生産ハブ化③貿易政策の再調整の可能性-を挙げている。

そして同氏はSAF市場の動向のプレゼンテーションに移る前のバイオ燃料に関する中間取りまとめで、「各国政府の政策が引き続きバイオ燃料生産拡大を加速する」「バイオ燃料はアジアのエネルギー転換における重要なパートになりつつある」「カーボンニュートラル目標がバイオ燃料のさらなる拡大のチャンスになる」などと結論付けている。米国産トウモロコシ原料のバイオエタノールを各国に輸出したいUSGCのポジショントークもあるだろうが、世界各国のバイオ燃料市場を注意深く見渡した上での報告だった。

(増田篤)

TJRI編集部

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