タイ人知識層が示す、中国資本への拒否反応と今後の戦い方

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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タイ人知識層が示す、中国資本への拒否反応と今後の戦い方

公開日 2024.08.09

タイ国内に流入する中国資本の存在

実は多くが中国産だったと判明した象パンツ、Eコマースで安価に出回る中国製品、EVメーカーであるBYDのタイ工場新設—タイでは2024年上期も、中国に関する話題が尽きなかった。家計債務超過が新記録を出し続け、国内消費も歴史的な低水準となった今、知識層による「中国資本がタイ経済にとって本格的な脅威になり始めている」との発信が目立つようになった。

タイの不景気には地政学的な情勢の変動や、国としての国際競争力と生産性の低下、政策金利など様々な理由が考えられるが、明らかな要因として彼らは「中国資本の存在」を指摘する。

タイ工業省工業経済事務局(OIE)とKKP Researchの調査結果によれば、製造業景況感指数は、2022年末から1年3ヶ月以上にわたり縮小傾向が続いている。廃業に追い込まれる工場も2023年後半から著しく増加しており、直近2年間に1,700以上の工場が廃業した。

タイ中央銀行(BOT)の試算では、中国国内の「在庫指数」の品目が明らかにタイへ輸出されていることが分かり、「過剰供給の問題を抱える中国と、在庫処分場としてのASEAN」という構図が見えてきた。

タイ小売業協会のヨン・ポーカサプ会長は「タイ小売業の成長率が下降傾向にある一因として、中国の低価格製品の売上規模が1,000億バーツ以上となっており、この金額の3分の2がタイ国外に流出している事実が挙げられる」とコメント。現代の自由競争の世界において中国資本を否定する訳ではないが、この構図について「そろそろ本格的な対策が必要なのではないか」と有識者たちは危惧する。

川上から川下まで抑える中国の戦略

中国資本は点ではなく面で迫ってきている。日本企業の進出先が、タイ企業が不得意とする製造業に留まっていたことに対し、中国企業は観光、建設、不動産、Eコマースなど、川上から川下まで抑える戦略であらゆる産業に進出している。

例えば、Eコマースでは販売、配送、決済といった一連の流れから、売り手と買い手のデータを取得し、それを元に融資や保険の事業にもつなげる手法が見られる。人材の川上である教育産業においても、タイ資本の大学を買収し、大学周辺を「プチ中華街」へと変身させている。学生が集う中華料理店の仕入れ元は、タイではなく中国だ。

もう一つ、生産の川上から抑えようとする代表的な事例がEVの現地生産である。タイのサプライヤーは中国に価格競争力では勝てないため、BYDの新工場では、重要な部品は中国から輸入するだろうとの見方が強い。中国の進出戦略について、タイEコマース業界の先駆者であるパーウット・ポンウィタヤパーヌ氏は、「一部の産業の進出から徐々に大きなパズルを組み立てるかように、彼らはASEANで中国資本の新たなサプライチェーンを構築しようとしている」と警戒感を示した。

また、タイ国内での事業展開にあたっては違法行為も目立つ中国資本だが、有識者たちは「中国資本も環境に適応し始めており、これから合法化が始まる」と推測する。違法を理由に訴えることができなくなった時、この圧倒的不利な状況から、タイが脱却する術はあるのだろうか

「日本らしい強み」再評価につながるか

各中国メーカーによる価格ダンピング合戦がタイの消費者の反感を買う中、今年3〜4月に開催されたバンコク国際モーターショーで「日本製のハイブリッド車(HEV)が再評価され始めた」と各メディアが報じた。その流れはトヨタ社の小型HEVが牽引しており、比較的低価格帯の利用者にHEVの良さを体感してもらうことで、新規顧客層の獲得が期待できるという。

短期的な戦略で攻める中国資本への拒否反応は、「長期的かつ良好な関係性の構築」を特徴とする日本企業にとって、真摯なマインドセットをアピールする絶好のタイミングでもあるのではないか。「日本らしい強み」が、タイをはじめとするASEAN各国で再評価されることを期待したい。

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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。

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