
カテゴリー: 会計・法務
公開日 2021.11.09
日本国内での取引と同様、タイ企業との取引時に考えておくべきことの一つとして、相手企業が任意に債務を履行しない場合、どのようにして債権を回収するか、ということがある。
そして、債権の保全や回収に関して、日本とタイでは事前に取得できる取引相手の情報、選択できる手段、注意点等、異なる点も多い。
そこで、今回はタイにおける債権の保全・回収(前編)として、日本企業が商品をタイ企業に売るという場面を念頭に置き、少なくとも取引開始前(契約締結前)に意識しておくべき事項について整理する。
まず、取引開始前に意識しておくべき事項の一つ目は、取引相手であるタイ企業がどの程度信用できるかをしっかりと見極めることである。
その最も簡便な方法としては、タイ商務省(DBD)から、取引相手たるタイ企業の登記事項証明書(Affidavit)や財務報告書(Financial Statement)を取得することが挙げられる。
登記事項証明書には会社の住所地、取締役、署名権者、資本金額等が記載されている。そのため、登記事項証明書を見れば、取引相手の概要を知ることができる。 なお、中には「契約締結時には署名権者全員の署名が必要である」等として、署名権に制限や条件を設けている企業もある。
したがって、契約の無効を後々主張されるリスクを回避するため、署名権に制限や条件がないかという点も確認しておくべきであろう。
また、財務報告書には貸借対照表、損益計算書等が含まれているため、取引相手の財務状況を知ることができる。タイ企業は、これらの書類を毎年DBDに提出することが義務付けられており、その内容を確認できるのである。
登記事項証明書も財務報告書も、誰もが閲覧・取得できる書類であり、その発行手数料も、登記事項証明書は1社あたり200バーツ、財務報告書は1ページあたり3バーツにコピー代50バーツを加えた額(真正にコピーされていることの証明を付す場合は1ページあたり50バーツが加算される)と安価である。
また、概要をウェブ上で確認することも可能である。もちろん、取引相手にこれらの提供を求めてもよいが、加工の恐れがないという意味では、自ら取得する方がより確実であろう。
取引開始前に意識しておくべき事項の二つ目は、信用性の見極めを踏まえて、取引額の上限をいくらとするか、支払方法や支払時期をどうするか、担保の提供を求めるかどうかを慎重に検討することである。
タイにも抵当権や保証人といった担保制度があるため、取引額等によっては、積極的に担保の提供を求めていくべきであろう。
ただし、担保はあくまでも不払いが生じた場合に機能するものである。そのため、担保にばかり頼るのではなく、できる限り不払いとなるリスクそれ自体を回避または軽減する方策をとっておく方が、より望ましい。
そこで、例えば、信用状取引とすること、代金の全部または一部の先払い等を求めていくべきであろう。
これら二つに加えて、取引開始時(契約締結時)には、紛争解決手段や管轄について、契約上どのように合意するかという点を吟味することも忘れてはならない。
なぜならば、たとえ日本国内の裁判所で勝訴判決を得たとしても、その判決では、タイ国内で強制執行に及ぶことができないからである。
つまり、取引相手がタイ国内に有する財産を対象とした強制執行を行うためには、タイの裁判所の判決に基づき、タイの裁判所に強制執行を申し立てることが必要とされているのであって、日本の裁判所で勝訴判決を得ても、まさに絵に描いた餅となってしまうおそれがある。
したがって、タイ国内の財産を対象とした強制執行を視野に入れる場合には、契約上、管轄をタイ国内の裁判所とすることや、紛争解決手段を訴訟ではなく仲裁とすること(紙面の都合上、仲裁に関する説明は省略する)を検討すべきであろう。

GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
日本国弁護士
靍拓 剛
2006年京都大学法学部卒業。2008年京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、弁護士として福岡県福岡市内の法律事務所で勤務し、主として企業法務や紛争対応に従事する。20年よりGVA Law Office (Thailand)に加入し、国際紛争解決を中心に企業を支援する。
Email : info@gvathai.com
URL : https://gvalaw.jp/global/3361

THAIBIZ編集部


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