

カテゴリー: ビジネス・経済
連載: THAIBIZ NOW
公開日 2025.05.09
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2025年3月28日、ミャンマー中部で発生したマグニチュード8.2の地震は、震源から1,100km以上離れたタイ・バンコクにも影響を及ぼした。建設中だった会計検査院(SAO)の新庁舎ビルが「パンケーキ崩壊」と呼ばれる形で一瞬にして倒壊。30階建ての高層ビルは瓦礫の山となり、少なくとも44名が死亡、50名以上が行方不明となる大惨事となった。


倒壊したのは、バンコクにある高層ビルの中ではこの1棟のみ。工事の進捗率は86.77%とされていたが、実際は33%にとどまっていた。専門家らは、建物の構造的な非対称性や建物の中核となるエレベーターシャフトの設計に問題があったと指摘しており、耐震基準を満たしていなかった可能性がある。政府は現在、原因究明を進めている。
施工は、タイのイタリアンタイ(ITD)と中国の国営企業「中鉄十局」の共同企業体によって行われていたが、登録されていたタイ人株主3名はいずれも建設業の経歴がなく、名義貸し(ノミニー)である疑いが浮上している。また、建設現場では下請業者への1,000万バーツ以上の賃金未払いが発覚。在タイ中国大使館は「不適切な行為があれば処罰を支持する」としつつも、「中国企業への根拠なき中傷には反対する」との声明を発表している。
さらに、タイ工業省による調査では、崩壊現場から採取された鉄筋の一部は、タイ工業規格(TIS)を満たしていない中国の「Xin Ke Yuan Steel」社製で、重量や引張強度が基準値を下回っていた。同社は納品を否定したものの、詳細な説明はなく、現在は製造・販売ライセンスの停止処分を受けている。
構造だけではない。SAOは当初、「設計変更はない」と説明していたが、後にエレベーターシャフトの位置が変更されていたことが判明。設計書には建築士の署名が無断で使用されており、偽造の疑いも出ている。現在、タイ特別捜査局(DSI)が関係者約50名への事情聴取を進めており、公共建築物の設計・監理体制そのものに対する信頼が揺らいでいる。
市民団体やメディアは、ビル内部に設置予定だった金箔付きソファ(1脚15万バーツ)や高額な絨毯(1枚11万バーツ)、映画館機能を備えた多目的ホール(3,000㎡、約1億バーツ)などの豪華すぎる内装に注目。国民の税金が私物化されているとの批判が高まっている。SAO側は「国際来賓の受け入れに必要」と説明しているが、説得力に欠けている。
今回の事件は単なる事故ではなく、タイの公共事業を取り巻く構造的な汚職を象徴している。入札前から落札企業が内定している談合、監理者と発注者の癒着、形骸化した建築確認など、制度全体が形だけのチェックに終始しており、今回の崩壊はその帰結とも言える。そして皮肉にも、その公共支出を監査するはずのSAO自身が問題の中心にいたという事実が、国民の信頼を大きく損ねている。


一方、今回の地震を機に、タイ国内では日本の建設会社の品質と安全性が再び注目されている。特に大林組の現地法人「タイ大林」が手掛けた「O-NES TOWER」は、バンコクの中心部に位置しながら大きな被害を受けることなく耐え抜いた。SNSなどでも「地震でもびくともしなかった」「管理が行き届いている」と高い評価が集まっている。
O-NES TOWERはRCコア壁と鉄骨フレームを組み合わせたハイブリッド構造を採用し、現場では人材育成と作業員への安全対策を徹底してきた。設計・施工・管理のすべての工程で「品質」を妥協しない日本企業ならではの姿勢が、危機の中で評価を集めた形だ。スペックだけでなく、プロセスの管理まで含めた“総合的な品質”こそ、今後の建設に求められる視点だろう。


Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。





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