東南アジア各国の建設市場の動向

ArayZ No.142 2023年10月発行

ArayZ No.142 2023年10月発行なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?

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東南アジア各国の建設市場の動向

公開日 2023.10.09

今月は、COVID-19の緩和と共に急速に東南アジア各国で市場が回復している建設市場の動向を追いながら、日系企業にとっての事業拡大の可能性を考えていきたい。

 タイにおける建設市場の動向

タイ建設市場規模*1 /成長予測

COVID-19の影響で2022年に大きく落ち込んだタイの建設市場だが、今後は政府による大型インフラや住宅・商業施設の開発及び海外資本によるデータセンター等への投資をキードライバーとして年率(CAGR)6.3%と堅調に推移していくことが見込まれている。

政府によるインフラ開発

23年度の政府インフラ投資予算総額は国家予算の2割にあたる6,640億TBH(約2.5兆円)とインフラ投資が加速している。また、23年度は高速鉄道、北部鉄道の新線、メーモ石炭火力発電所など10件の大型インフラ開発案件を推進していることからも、建設市場は拡大すると予測される。

住宅・商業施設開発

バンコク一極集中を緩和させる「東部経済回廊(EEC)」プロジェクトやチェンマイ、プーケットといった地方都市でも交通インフラの整備に伴い、駅至近での不動産・商業施設開発も活性化され、新たな事業機会が生まれる土壌ができつつある。

データセンターへの外国投資

政府によるタイランド4.0やデジタル経済に向けた政策及び施策が追い風となり、タイ市場は近年、米国、シンガポール、日本、韓国、中国などのデータセンター事業を手掛ける大手グローバル企業の投資を惹きつけている。

東南アジア主要国における建設市場の動向

シンガポール🇸🇬

シンガポールでは、需要の約60%を占める公共事業が建設市場を引き続き牽引している。地下鉄(MRT)の開発が今後も続くことや、住宅開発局 (HDB) による注文住宅の供給拡大、浄水場、教育用建物、コミュニティ・クラブの建設プロジェクトも増加しており、これら公共事業が同国の建設・インフラ市場を下支えしている。

なお、シンガポールではいち早く環境の持続可能性にも焦点を当てていることから、インフラの維持やサポートには多額の投資を従前より続けている。中でも、二酸化炭素削減と持続可能な開発目標(SDGs)を達成するため、地下鉄路線の開発や電気自動車の充電インフラの拡充をはじめとした長期プロジェクトを意欲的に進めているのが特徴的である。

マレーシア🇲🇾

マレーシアでもインフラ整備が建設市場の重要なキードライバーとなっている。21年から25年の5ヵ年計画となる集中経済開発計画「第12次マレーシア・プラン」において、公共インフラ整備に多くの資金が注入されることが発表されており、メガインフラプロジェクトとしてマレーシア半島の東~西海岸を橋渡しする全長665kmの鉄道、East Coast Rail Link (ECRL)を26年末完成目標に建設中。またLight Rail Transit (LRT) 3、Mass Rail Transit (MRT) 2、サラワクCoastal Highway等多くのプロジェクトが進行中である。

また住宅関連需要としては、政府が手頃な価格の住宅を提供するべく、いくつかの新しい住宅プロジェクトを承認済み。これを受けて、第12次マレーシア・プランの下、マレーシア国内に手頃な価格の住宅を50万戸提供することを目指しており、住宅建設市場の成長を牽引する見込みである。

インドネシア🇮🇩

インドネシアでは、ジャワ島以外の島々にもインフラ開発を積極的に進めており、公道、有料道路、空港、海港、鉄道、発電所、エネルギー複合施設、産業複合施設、ダム、水・衛生、農業インフラ、通信インフラ、公共交通モードの建設を進めるほか、東西の島々を結ぶ「海上有料道路」構想を導入、国を挙げて建設・インフラの分散化を図っている。

またインドネシアで特筆すべきは首都移転計画の存在である。45年までに現在のジャカルタから東カリマンタン州のヌサンタラへ首都を移転する計画に伴う産業振興の加速化が建設需要を後押しすることが見込まれている。総工費約486兆IDR(約340億ドル)と見積もられる計画のうち、推定費用5.3兆IDRの第1段階の開発プロジェクトが開始している。

なお、政府は海外直接投資を促進するために政策の緩和を進めるほか、プロジェクトのさらなる遅延を防ぐために、建設部門ではロックダウンに伴う規制を免除。約480もの建設プロジェクトが現在進行中であり、総投資額は2,870億米ドルを超えている。

日系企業にとっての事業成長の可能性

東南アジア各国の旺盛な需要を受けて、弊社でも建設コンサル(建築設計や土木設計、プロマネなどを担う)や土木及び建設企業等に対するM&A関連の問い合わせが増えてきており、特にCOVID-19からの回復を受けて現地での事業成長を本格化させる企業が多いと感じている。

他方、一言で建設といっても上述の通り設計から土木、建築、後続のファシリティマネジメントと幅広いバリューチェンの中で異なるプレイヤーが様々なエンドユーザーに対して事業を行っており、会社規模・業務のクオリティも実に様々である。

自社のケイパビリティ及び各国市場の詳細動向を踏まえてどの分野に参入するのが良いか踏み込んだ検討が求められる。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

寄稿者プロフィール
  • 谷口 純平 Jumpei Taniguchi プロフィール写真
  • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory Services / Manager谷口 純平 Jumpei Taniguchi

    Deloitte入社以来、一貫してM&A・事業戦略をテーマに活動。特に各関係者の調整やスピード感を持ったプロジェクト推進で高い評価を得ている。主な実績は、大手ファンド向けBDDと事業戦略検討。総合商社のクロスボーダーM&AのPMIリードなど。2020〜22年8月タイ駐在。同年9月〜シンガポールに赴任。

    TEL:+65 (0) 8-763-6373
    E-mail: jumtaniguchi@deloitte.com


  • 柴 洋平 Yohei Shiba プロフィール写真
  • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory / Manager
    柴 洋平 Yohei Shiba

    大手生命保険会社、大手電機メーカーを経てDeloitte入社。M&A関連や事業戦略策定、マーケティング支援などのプロジェクトに従事。入社以来、金融・テクノロジー・ライフサイエンス・消費財・電力など幅広い業種における支援をリード。22年8月からバンコクに赴任、特にPre M&AやPMIに力を入れて活動中。

    TEL:+66 (0) 6-3079-4893
    E-mail: yohshiba@deloitte.com


Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.<Financial Advisory>

Deloitteは会計・財務・税務・M&A等のサービスを世界各国で行うプロフェッショナルグループの一つであり、 主にタイの日系企業様向けにM&Aやリストラクチャリング/再編に関わるサービス提供を行っております。

AIA Sathorn Tower, 23rd – 27th, Floor11/1 South Sathorn Rd. Yannawa, Sathron, Bangkok 10120

https://www2.deloitte.com/jp/ja.html?icid=site_selector_jp

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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director

谷口 純平 氏

商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
jumtaniguchi@deloitte.com

Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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