タイにおける個人不動産市況と日系企業への示唆について

THAIBIZ No.161 2025年5月発行

THAIBIZ No.161 2025年5月発行タイ農業の「稼ぐ力」を向上! サイアムクボタの挑戦

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    タイにおける個人不動産市況と日系企業への示唆について

    公開日 2025.05.09

    デロイトタイでは、「Thai Housing Market Faces Challenges, Future Trends to Monitor」と題して、タイの個人不動産市況について昨年暮れに取り上げた記事を発表している。コンドミニアムに代表されるタイの個人不動産業界についてはTHAIBIZにおいても多く取り上げられているので、昨年の記事からのアップデートも交えつつ本稿では取り上げていきたい。また、先日発生したミャンマーを震源とする地震も個人不動産市場に影響を与えるものと想定されるが、直近の状況についてもなるべく触れていきたい。

    低迷するタイの不動産市場

    2024年のタイ住宅市場の動きは鈍かった。バンコク首都圏の住宅引渡件数は2024年に8万1,580件と前年から7.5%減少し、コロナ前の2019年と比べても約35%低水準である​。特に戸建てやタウンハウスなどの低層住宅は前年から20%以上の大幅減となった一方、コンドミニアムは海外需要に支えられわずかに増加した※1。 
    *1:  より詳細な記事やデータはDeloitte “Thai Housing Market Faces Challenges, Future Trends to Monitor”を参照ください

    ただし、このコンドミニアムの引渡増も過去に販売済みだった物件の完成引渡しが中心で、実需は引き続き弱い。

    特に、昨年は300万バーツ以下の住宅ローン申請の70%は銀行から承認が下りなかったと言われている。そういった背景もあり、タイ中央銀行(BOT)は住宅ローンの規制緩和を発表した。従来、LTV規制(資産価値に対する借入額の比率)というものがあり、1,000万バーツ以下の一軒目の住宅購入に対しては100%まで、1,000万バーツ超の一軒目の住宅購入では90%までに住宅ローンの金額が制限されていた。

    二軒目、三軒目の住宅購入はさらに低い比率となっている。今後はすべての住宅ローンの規制を緩和し、住宅価値の100%までの融資を銀行に認めるとしている※2。 
    *2:  Bangkok Post “Developers request property measures”

    こういった背景もあり、2025年は個人住宅市場の拡大が見込まれていたが、ミャンマーを震源とする地震が起きて状況が変わってしまった。特に高層コンドミニアムは販売が苦戦することが見込まれる。

    一方で、財務省は所有権移転登録料と抵当権設定登録料を引き下げることを検討しており、今後さらに冷え込む可能性がある不動産市場取引を促進させようとしている。低層コンドミニアムやタウンハウスへ消費者の興味が移り、それらの販売にポジティブな影響を与える可能性もある※3。 
    *3:  時事速報「住宅銀、今年の新規融資2400億バーツ超へ=ローン規制緩和が寄与—タイ 25/3/28」

    苦悩するタイのデベロッパー

    政府による支援策も検討されてきてはいるが、まだ十分な効果はなく足元で不動産開発各社の業績は軒並み圧迫されている。2024年においてタイ証券取引所上場の主要デベロッパー38社合計の売上高は3,136億バーツと前年比4%減少し、純利益は274億バーツと前年比27.16%もの大幅減益となった※4。​ 
    *4:  時事速報「財務省、地震後の経済刺激策を検討=高層マンションに焦点—タイ 25/4/2」

    平均の利益率は8.74%まで低下し(前年は11.52%)、利益率低下が深刻である​。購買力低下に直面した各社が値下げやプロモーションで販売確保に走った結果、売上はある程度維持できても利幅が大きく削られたためだ​。また金利上昇などの要因で費用負担も増えており、デベロッパー各社は「収益の低迷とコスト高」という二重の逆風に晒されている※5。​ 
    *5:  Nation Thailand “Unsold units rise as Thailand’s property market faces profit squeeze”

    そんな中で、タイのデベロッパーは高価格帯へシフトしようとしている。2024年半期までの実績ではあるが、バンコク都周辺のコンドミニアムの部屋数の供給は1万6,442ユニットと前年同期比27.3%減に留まったものの、金額ベースだと1,847億バーツと前年同期比43.8%の増加であった。地震で不透明感はあるものの、大手デベロッパーに有利な状況であると言える。

    日系企業への示唆

    こうした背景もあり、特にタイにおける中小のデベロッパーは苦しい状況が続いている。一方で、タイは日本にとっても馴染み深い国であり、また他東南アジア諸国と比較すると投資しやすい環境にあるため、タイにおける住宅プロジェクトへの投資について相談を受けるケースがある。その場合に気を付けていきたい点について触れたい。

    外資規制の関係で、日本のデベロッパーがタイで開発を行いたい場合は、タイのパートナーが必要であるため、特に今のような環境下ではパートナーの見極めが大事である。実際に、住宅関連のプロジェクトを進めていたものの、合弁(JV)パートナー側で問題が発生する、また建築許可でトラブルが見つかるなどでプロジェクトが立ち行かなくなってしまったケースも見られる。

    プロジェクトを進めていく際はどうしてもプロジェクト自体の収支に目が行きがちであるが、JVパートナーの見極めを投資前に行うことも重要であると考えられる。弊社でもJV設立の支援を行っており、その際にJVパートナーの信用力調査をお手伝いさせていただくケースもある。住宅関連のプロジェクトを進めていくことに際してはあまり一般的ではないかもしれないが、例えば電力等のインフラ投資を共同で実施する際にそのような支援の機会がある。

    JVパートナーとの交渉もあるため、未公開情報の要求が難しいケースもあると思われるが、アドバイザーを雇って調査を実施するのも一案である。他にも、稀ではあるが経営者に問題があるケース(例えば過去にスキャンダルを起こしているなど)もあり、JV先は複合的な観点で見極める必要がある。また、M&Aを通じて既存持分の買い取りを行う場合も同様であり、買い取り後にパートナーになる会社がいる場合は、その会社についてよく理解しておくことは大切である。

    (※注)本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをご了承ください。
    その他参考資料: UN, World Bank, Thailand Department of Older Persons, Thailand NSO, World Inequality Database (2021), Mahidol University Research (2021), Bangkok Bank, PIER

    Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory Manager

    柴 洋平 氏

    大手電機メーカー等を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2022年8月からDeloitteバンコク事務所に出向し、M&A関連業務や市場調査業務などに従事している。

    Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

    デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

    Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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