新任駐在員に捧ぐ!「タイ人と働く」基本理解

THAIBIZ No.172 2026年4月発行

THAIBIZ No.172 2026年4月発行その人事で会社は変われるか

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新任駐在員に捧ぐ!「タイ人と働く」基本理解

公開日 2026.04.10

年度初めの4月は、タイに新たに赴任する駐在員が増える時期だ。初めての海外赴任という人もいれば、海外経験は豊富でもタイ赴任は初めてという人もいるだろう。タイで仕事を円滑に進めるには、タイ人との協力が不可欠だ。

だからこそ駐在員にとって最大の関心事は、「いかにタイ人と関係を構築し、成果につなげるか」である。本稿では、タイ人の意識を形作ってきた歴史的背景を紐解きながら、タイ人の人生観・仕事観、そして実践的なコミュニケーションのポイントを解説する。

タイ人が計画を立てて考えることをしない理由

新任駐在員が抱くタイ人の印象はさまざまだが、日本人の中には、タイ人を「計画性がない」「自ら考えて行動しない」と捉える人も少なくない。

しかし、こうした特徴については、歴史的・環境的な背景が影響していることを理解すると、見方が少し変わってくる。春夏秋冬のある日本では、冬を迎える前にいかに米を収穫し、備蓄できるかが人命に関わる重要な課題だった。念入りに計画を立てて備えなければ、冬に食料不足となり、飢餓の危機に直面する恐れがあったからだ。

一方、タイは1年を通して温暖な気候で、四季による厳しい環境変化がない。日本のように「食料自給率」という概念が強く意識されることもなく、日常生活の中で飢えを恐れる必要はなかった。

こうした「蓄える必要性が低く、将来を厳密に予測しなくても生きていける環境」が、現在のタイ人の思考や行動様式を形作ってきたと考えられる。そう理解すれば、「なぜ計画を立てないのか」と不満を募らせるのではなく、「計画が必要な理由」を丁寧に伝えることの重要性に気付くことができるだろう。

さらに、PDCA(Plan・Do・Check・Act)を回しながら成果を生み出す日本企業の強みを生かし、「目標に向かって計画を立て、実行する」という仕事の進め方をタイ人社員にも実践してもらい、成功体験を積み重ねてもらうことが大切だ。

タイ社会に根強く残る「階級社会」

一般的に、日本人駐在員はタイ人よりも上位の役職に就くことが多い。そのため、タイ社会に根強く残る「階級社会」の考え方についても、あらかじめ理解しておく必要がある。その原点は、アユタヤ時代(1351〜1767年)に形成された、日本の封建制度に似た階級制度「サクディナー」にある。

同制度では、「王族・貴族」、および「官僚・役人・領主・家臣」が支配する側に位置づけられ、「農民(プライ)」や「奴隷(タート)」が支配される側とされていた。1905年、ラーマ5世は人道的観点からタートを解放して平民に編入し、地方においてもプライと呼ばれる人民を解放した。

これにより制度上は、努力次第で階級を選べる「無階級社会」となったが、実態は必ずしもそう単純ではない。現代のタイ社会では、経済力を基準に、富裕層・上流層・中上流層・中流層・低所得層といった形で階層が分かれているのが実情だ。生まれ育った環境(階層)を所与のものとして受け入れ、そこから大きく抜け出そうとする意識は、日本と比べると強くないように感じられる。

こうした背景から、タイ人にとっての脅威は「厳しい自然環境」ではなく、「上の階級に属する人間」であった。その結果、「上司の指示に従うことは絶対」という意識が根付き、たとえ違和感を覚えても、指示に対して率直に反論しない傾向がある。上司の立場に立つ日本人駐在員は、この点を念頭に置いたうえで、タイ人社員が安心して意見を述べられる環境づくりに注力することが求められる。

例えば、プロジェクトの大枠を決めた上で、具体的な進め方や詳細については、「正解を求めているわけではないので、あなたの意見を聞かせてほしい」「私にもアイデアがないので、一緒に考えてほしい」といった形で問いかける。こうした働きかけにより、タイ人社員が主体的に提案できる機会を意識的に生み出すことが重要だと考える。

タイ人はキャリアパスを描ける環境で成長したい

タイで働き始めると、「納期が迫っているのに休暇を取得するタイ人」や、「どれだけ忙しくても定時で退社するタイ人」の姿に、違和感を覚える駐在員もいるかもしれない。多くの日本人にとって、人生における仕事の優先度は非常に高く、多少プライベートを犠牲にしてでも、成果を出すことに集中すべきだという考え方が一般的だからだ。

しかし、タイ人にとって仕事の優先順位は、実はそこまで高くないと言える。仕事はプライベートを充実させるためのものであり、生活を豊かにするための「手段」と捉えられることが多い。だからといって、決して仕事に真摯に向き合っていないわけではない。

多くのタイ人は、尊敬できるリーダーのもとで働き、自身の成長を実感したいと考えている。タイの求人プラットフォーム「Jobsdb by SEEK」の調査によると、タイ人が職場で不幸せを感じる場面として、「経営陣や直属の上司に能力がないと感じる時」「キャリアパスが不明確で、将来の成長が見込めない時」「研修など、自己成長の機会が得られない時」などが挙げられている。

こうした点を踏まえると、日本人駐在員に求められるのは、「長時間働くこと」や「仕事への献身」を強いることではない。明確なキャリアパスを描ける安定した職場、成長を実感できる心地よい職場環境をいかにしてつくるか。その視点に意識を向けることが、タイ人社員が前向きに仕事に取り組む動機付けにつながるだろう。個人として着手できることは、自身の経歴やタイでの目標をタイ人社員に伝えることだ。

まずは自己開示をすることで、彼らのキャリア観や業務に対する要望、意見も自然と引き出せるはずである。結果として、タイ人社員の能力を最大限に発揮できる環境づくりにもつながる。

有効なコミュニケーション方法とポイント

タイ人とのコミュニケーションにおける留意点は、日本人とタイ人はいずれも、背景や文脈、暗黙の了解に大きく依存する「ハイコンテクスト文化」に属すると言われていることである。そのため、互いに遠慮して本音を伝えないまま、すれ違ってしまうケースが少なくない。

では、どのようなコミュニケーションを心がければよいのか。ここでは「今日から使える」実践的な方法をいくつか紹介したい。まず重要なのは、駐在期間中のゴールを明確に設定し、個別面談などを通じてタイ人社員と共有することである。共有して終わりではなく、四半期ごとに進捗を確認することが欠かせない。

こうしたプロセスを踏むことで、タイ人との間に生じがちな「認識のずれ」を防ぐことができる。次に、仕事は一方的に命令するものではなく、指示内容を「教える」ことから始める姿勢が求められる。「指示した内容の完了報告を受けて初めて、意図が全く伝わっていなかったことに気づいた」という話は、現場でもよく耳にする。

日本人にとっての「当たり前」は、タイ人には当てはまらない場合があることを覚えておく必要がある。こうした認識の相違を防ぐためには、内容を文章や写真、図解などを使って見える化することも有効である。会議や打ち合わせで決定した事項については、誰でも確認できる場所に記録・保管しておくことを勧めたい。

最後に、仕事時間内にあえて仕事以外の話をすることである。一見すると非効率に思われるかもしれないが、日本のような飲み会文化が根付いていないタイでは、仕事中の雑談が重要な関係構築の手段となる。家族の話や最近の流行など、身近な話題について積極的に声をかけてみてほしい。

ランチやディナーといった食事会を定期的に開催することも、タイ人との心理的な垣根を下げるうえで有効だ(図表1)。限られた駐在期間では、早期の段階でタイ人と良好な関係を築くことが、その後の仕事の成果に直結すると言っても過言ではない。本稿が、実りあるタイ駐在を実現する一助となれば幸いである。

出所:THAIBIZ編集部が作成

より詳しく知りたい方に向けて、THAIBIZでは以下日程にて「タイ人を知る」をテーマにセミナーを開催します。

開催日:2026年6月11日(木)13:00~17:00(タイ時間)

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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。

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