ArayZ No.81 2018年9月発行変化を遂げるASEAN~優位性と課題を探る
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2018.09.24
目次
1967年8月、米国によるベトナム戦争への軍事介入が本格化するなか、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5ヵ国が「バンコク宣言」を採択し、設立されたASEAN。1984年のブルネイに続いて、ベトナム(95年)、ラオス、ミャンマー(97年)、カンボジア(99年)が加盟し、現在は10ヵ国で構成されている。
ただ、統合への道のりは平坦ではなかった。1970年代にはインドシナ半島の3ヵ国(ベトナム、ラオス、カンボジア)が共産化され、米中を巻き込んだ紛争が繰り広げられた。東西冷戦が終結した80年代後半からは外国企業による投資が増加し、成長軌道に乗ったかにみえたが、落とし穴が待っていた。1997~98年のアジア通貨危機では、タイやインドネシアなどの政治・市場経済の機能が停止寸前まで追い込まれた。
数々の難局を乗り越えて、結束をさらに強めたASEANは、その後20年に渡り、高い成長を続けている。2015年末には、ASEAN経済共同体(AEC)が発足され、欧州連合(EU)や北米自由貿易協定(NAFTA)に対抗する経済圏として成長。保護主義に傾斜する米国や、英国の離脱に揺れるEU、成長の鈍化がみられる中国をしり目に、アセアンは新たに外国企業などから熱い視線を浴びている。
出所:国連(UN Data)、 海外在留邦人数調査統計
平成30年要約版(外務省領事局政策課)
※1 2017年 ※2 2017年10月1日現在
ASEANのGDP(国内総生産)は、2兆7671億米ドルで日本(4兆8721億ドル)の6割強(世界銀行)だが、2025年前後に逆転するとの見方がある。07~08年にかけて起きたサブプライムローン問題とリーマンショックの余波で、一時成長率が全体的に落ち込んだが、10年以降は緩やかに回復し、安定的な成長を維持している。
ただ、ASEAN加盟国間の経済格差は解消されていない。世界4位の人口2・6億人を誇るインドネシア(35年に3億人を突破する見通し)が、GDPで他国を大きく引き離しているが、1人当たりではシンガポールの約15分の1だ。シンガポールと最貧国のミャンマーでは50倍近く開いている。シンガポールは、金融・サービスなどで域内のハブとなっているが、国土が狭く、これ以上に発展する余地はあまり残っていない。
2番手に位置する中所得国のタイとマレーシアは、工業化に成功し、消費市場としての魅力も増している。前者は同地域の中心にあるという地理的な優位性を活かす一方、後者は天然ガスなど資源が豊富だ。両国を追うインドネシア、フィリピン、ベトナムは伸びしろがあり、安価な労働力で海外投資が順調に伸びている。インフラが依然、貧弱なミャンマーだが、それを補う優秀な国民が育ちつつある。
2015年末にASEAN経済共同体(AEC)が発足されたが、域内貿易(約2兆2000億ドル)の比率は2割程度と、EUの47%の半分以下。国別に域内貿易(モノ)をみると、経済規模の大きいシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムの輸出・輸入が約9割を占めている。域外では輸出・輸入とも中国との取引が大きく伸びており、16年は800億ドルの輸入超過となった。
FDA(外国直接投資)も域内で20%弱と低水準だが、ASEAN地域の統括拠点を置く企業が多いシンガポールへの投資が約6割を占めている。外資参入が容易な都市国家は立地的にも優位性を保っている。
高い成長を維持するASEANでは、日系などの製造業が生産拠点の再配置を進めている。特に、一般工職の賃金は進出の判断材料となっている。過去10年間の変化をみると、ハノイとホーチミンはほぼ倍増、バンコクは約5割増となった。
最低賃金は今年に入って改定する国が相次いでいる。月額(米ドル換算)でラオスが5月から11%の132米ドルに、タイが4月から288~308ドルに、カンボジアは153〜170ドル(繊維・衣料業界)に、インドネシア(ジャカルタなど)は8・7%増の270ドルに、ベトナム(ハノイ、ホーチーミン)は6・5%増の189ドルに引き上げられたが、来年は8%増を予定している(参考:ハノイ・タイムスなど)。
マニラは個人所得税・法人所得税とも高い税率を設定。一方、シンガポールは両税率とも低水準で、ビジネス環境に優れている。世界的に法人税を引き下げる動きが加速しており、各国間の投資誘致競争が激化すれば、ASEANにも同様の波が押し寄せる可能性がある。
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THAIBIZ編集部
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