ArayZ No.117 2021年9月発行中国企業のASEAN進出動向
この記事の掲載号をPDFでダウンロード
掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。
カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド, 特集
公開日 2021.09.09
中国系自動車メーカーがASEANへの進出を本格化させている。タイをはじめ各地で着実にシェアを広げつつ、将来の電気自動車(EV)市場への取り組みも抜かりない。日系の牙城に風穴を開ける存在となるのか、彼らの戦略を追った。
中国の三大自動車メーカーの一つ、上海汽車傘下のMGブランドが地元財閥CPグループとの合弁で14年にタイに投入されてから、MGは着実にシェアを伸ばし続け、20年にはシェア4%、8位まで順位を上げている。
マレーシアでは吉利汽車が17年に国民車プロトンに49.9%出資し、事実上の傘下に置いた後、プロトンの国内シェアを倍増させた。
日系メーカーが95%以上と圧倒的なシェアを持つインドネシアでも、上海GM五菱汽車が低価格のMPVを投入し、非日系メーカーでは首位に立っている。
20年2月には、長城汽車(Great Wall Motor)が770億円とも言われる投資額でタイから撤退したGMの工場を買収し生産に乗り出すなど、中国企業の進出の勢いは止まっていない。
そして、このような中国自動車メーカーのASEANへの進出は、中国国内の自動車産業の急成長および競争の激化と軌を一にしている。
リーマンショック後の10年代以降、中国自動車市場は米国を超えて世界最大の2000万台市場となった。
滑沢な資金で海外からの技術やブランドを買収し、競争力が大幅に向上。その一方で、国内での競争も激化しており、生き残りにはグローバル企業としての発展が欠かせない。
そのために、まず親和性の高い近隣諸国への進出を先行させた。アジアであれば、中国で培った製品やマーケティングなどのノウハウをそのまま転用でき、労賃も安く、投資コストも抑えられる。
もちろん、13年に習近平政権が打ち出した「一帯一路」及び「中国製造2025」などの国策及び外交関係も後押ししていると筆者は見る。
前者は、中国から欧州までの陸路及び海路の沿線52ヵ国への投資と貿易促進策であり、ASEAN10ヵ国が加盟している。
後者は、中国建国100周年である49年までに製造強国のトップとしての地位を確立するという目標を掲げ、ハイテク分野で競争力の強化を図る政策である。
上海汽車のMGは11年~13年のインラック政権時に進出を決めたが、同時期に中国は高速鉄道のタイへの売り込みを始めており、国策的な意図が感じられる。また、一帯一路の重点協力地域として、「EEC=東部経済回廊」が指定されており、MGはEEC対象3県の1つのラヨン県に新工場を設立した。
中国が中国製造2025で重視するEVやコネクテッドなどのE&E技術を、早い段階からアジアに展開することで、地域でリーダー的な地位の確立に繋がる。特に、EVなどの新規技術は標準化が重要であり、早い展開は中国の技術標準の普及に有利となることを見越した戦略であると言える。
今回は、具体的な中国自動車メーカーの進出事例を「上海汽車(SAIC)- MG」「プロトン・吉利汽車」「長城汽車(GWM)」から見てみよう。
2019年6月に発売したBセグメントのSUV「MG ZS EV」は価格が120万バーツを切り、累積販売は2,000台に達し、 EVセグメントで首位に立つ。新車の積極投入でラインナップを増やし、数年内にシェア5位内を目指す。
◆ 2013年に設立(上海汽車が70%、CPグループが30%出資)
◆ 2017年7月に新工場(WHAイースタン・シーボード工業団地2)稼働
◆ 年産能力:現在3万6,000台(1シフト)、生産モデル:MG(ZS、GS、MG3、MG5)
◆ 拠点の位置付け:右ハンドル車の域内輸出拠点
・ 四半期ごとに1車種、年に最低3車種の新車を投入し、シェア拡大の方針。
・ 収益性の低いEVを積極投入するなど、短期の収益性よりも長期のシェア拡大を目指す「投資先行型」 。
・ コネクテッド機能やデザインを重視し、若者・女性をターゲット。
・ 2021年までに充電ステーションを500カ所まで整備する計画、EVインフラ投資に積極的に関与。
上海汽車(SAIC)は、乗用車から小型商用車まで販売する中国最大の自動車メーカーである。
2015年から本格生産をタイで始め、シェアを順調に拡大させる一方で、20年からはインドネシアやベトナムなどの近隣諸国への輸出も開始した。タイでのシェア拡大の要因は主に3つ考えられる。
まず、果敢な新規モデル攻勢である。四半期に1車種、1年に最低3車種の投入を計画しており、小型乗用車、SUV、バン、ピックアップなどを相次ぎ投入、短期間でフルモデルラインナップを揃えた。
また、コネクテッド機能や運転支援システム(ADAS)などのオプションを比較的安いグレードから標準搭載することで、デジタル・ニューライフスタイル志向の若者の関心をつかんだ。新しいデザインや可愛らしさなどを好む若年女性層を狙って小型SUVや小型ハッチバックを集中投入し、大都市・地方都市の若者・女性層の間で人気を高めた。
価格は競合と比べて1~2割安く手頃であり、価格志向が高くブランドロイヤルティの低い顧客層の買い替えを狙い、下位メーカーからシェアを一定程度取ることに成功した。
その一方で、電動化についてはタイ市場で先行しており、既にEV2車種、PHEV1車種を投入済み。特に18年に発売したZS EVは120万バーツとEVとしては最も安く、21年初めまでに累計2,000台販売してEV販売の首位を維持している。
EVの充電ステーションを21年までに500ヵ所整備し、自宅での充電器の設置代と設備代を無料にするなど、自社が強みを持つEVの普及のためのインフラ整備に先行投資する構えである。
特に最近、目を引くのは現地での様々なパートナーとの提携の速さである。
18年にタイで最大の充電ステーションのオペレーターであるEnergy Absoluteと提携した他、20年にキングモンクット工科大学トンブリ校(KMUTT)、シェアリングサービスHaupcarと連携してEVのシェアリングサービスを開始した。
21年にはタイ科学技術省傘下のタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)と、充電ステーションの規格作りの協力でMOUを締結しており、自社の技術の標準化を狙う。
合弁パートナーのCPグループは30年までにカーボンニュートラルを掲げており、セブンイレブンなどのロジスティクスの電動化を進めるために充電ステーションの設置を計画。MGとしてはEVの拡販や新しいビジネスモデルの構築に繋げる可能性がある。
吉利汽車は2017年に国民車プロトンに出資し、マレーシアを域内向けのハブとして拠点化。 新型SUVの販売が大ヒットし、マレーシアでの市場シェアは、吉利の傘下入りから倍増。
◆ 設立:2017年5月に国民車プロトンに49.9%出資
◆ 2022年に40万台の生産目標(うち輸出20万台)
◆ 販売台数:10万9000台(2020年)
◆ 近況:18年12月から販売のSUV「X70」の好調な販売により、 台数・シェアが伸びて、業界第二位
・ 2017年5月に吉利汽車がプロトンの株49.9%購入し、事実上経営権を持ち、赤字体質の経営を再建。
・ 吉利汽車のE&Eの新規技術と新しいデザインを取り入れることで、プロトンの製品力、ブランドイメージを向上。
・ プロトンの国民車としてのステータスを利用し、競合他社より有利な価格で展開。
・ ASEAN地域(右ハンドル車)の生産拠点として、将来には輸出を拡大。
プロトンは1985年に国民車として当時のマハティール首相の時代に設立され、採算性よりも国民に廉価な車を提供し、部品産業などの育成によって産業発展に寄与するというミッションの下で経営された。
しかし、厚い国民車優遇策の下で守られながらも、2000年代以降ASEAN域内貿易自由化が進展し、国内競争が激化。赤字経営が慢性化し、新規モデルの開発にも十分な資金が回らない中でシェアは大幅に低下し、経営危機に陥った。
マレーシア政府は、提携先としていくつかの海外自動車メーカーと交渉し、中国の民間企業の吉利汽車が17年5月にプロトンに110億米ドルを投資し、49.9%出資することで決まった。当時、買収した吉利汽車はアジアでの拠点がなかったために、アジアの右ハンドル車拠点として位置づけた。
吉利汽車の下で、プロトンは新規SUVモデルを相次いで投入し、シェアは17年の11%から20年には20%に回復させた。特に、19年の新型SUVのX70の投入は、当時マレーシアで始まっていたSUVブームに乗り、販売の急拡大に繋がっている。
吉利汽車の強みは欧州メーカーのボルボを傘下に置いており、欧州のデザイン、安全技術、電動化技術などを吸収しつつ、中国・アジア仕様に合わせながら、中国からの部品を使って低価格で提供できる点にある。
また、プロトンの国民車としての立場を利用した低い税率で、中国で開発された最新のデザインとE&E(電気・電子)を搭載した車を低価格で投入できた点が有利に働いていると推測される。下表で見るように、馬力やトルクなどのスペックは競合他社を上回るにも関わらず、価格は1~2割程度低い。
今後は、吉利汽車は欧州メーカーとの繋がりから、電動化はマイルドハイブリッドを軸に展開し、将来的には中国で展開しているEVの投入を視野に入れているようだ。
プロトンの生産能力を活用して、22年までに40万台の生産、20万台の輸出という意欲的な計画を掲げており、近隣国への輸出に力を入れることが予想される。
ArayZ No.117 2021年9月発行中国企業のASEAN進出動向
掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。
THAIBIZ編集部
タイのオーガニック農業の現場から ~ハーモニーライフ大賀昌社長インタビュー(上)~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
タイ農業はなぜ生産性が低いのか ~「イサーン」がタイ社会の基底を象徴~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
「レッドブル」を製造するタイ飲料大手TCPグループのミュージアムを視察 〜TJRIミッションレポート〜
食品・小売・サービス ー 2024.11.18
第16回FITフェア、アスエネ、ウエスタン・デジタル
ニュース ー 2024.11.18
法制度改正と理系人材の育成で産業構造改革を ~タイ商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)のウィワット氏インタビュー~
対談・インタビュー ー 2024.11.11
海洋プラごみはバンコクの運河から ~ タイはごみの分別回収をできるのか ~
ビジネス・経済 ー 2024.11.11
SHARE