ArayZ No.117 2021年9月発行中国企業のASEAN進出動向
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カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド, 特集
公開日 2021.09.09
目次
近年、米国と欧州連合(EU)からの度重なる反ダンピング関税措置により、中国のタイヤメーカーは中国国内での生産を減らし、注力市場をASEANへとシフトしている。これらの中国企業の参入は同地域、特にタイにおけるタイヤ生産能力の成長に貢献した。
国内市場の供給過剰と衰退に加えて、中国からの輸入関税の上昇をもたらした米中貿易戦争のエスカレートによって、中国のタイヤ生産量は2014年に約11億2000万本を記録して以降減り続けており、19年には約8億4000万本にまで減少した(図表1)。
一方で輸出量は16年から19年の間で年平均成長率1.9%と拡大し、19年には5億本に達した。
それにもかかわらず、この輸出本数では生産量の減少を補うには十分ではなかった。
その結果、中国の多くのタイヤメーカーは、新たな顧客獲得のために新規市場に進出することで、ASEAN市場に見過ごせないインパクトをもたらしている。
タイ貿易センターの報告によると、中国産タイヤに対する米国の輸入関税の引き上げを回避するため、多くのタイヤメーカーが生産施設を東南アジアに移している。
図表2に示す中国メーカーは業界をリードする企業であり、東南アジア市場での存在感を高めている。これらの中国企業はASEANに移転した後、生産量を急速に拡大し、既進出企業を凌ぐまでに至っている。
一見すると、ASEAN市場で重要な位置を占めつつあるように見えるが、実際に彼らが焦点を当てているのは輸出市場である。
ここ数年、中国企業の新工場がタイのタイヤ輸出の伸びを後押しする中で、中国企業がタイの主要タイヤ輸出者となった。そしてタイの主要輸出先である米国を中心に、タイのタイヤ生産と輸出の拡大に影響を与えている。 タイのASEAN域内輸出は中国本土からの輸出と比較して大きな伸びは示していないが、図表3を見るとここ数年、米国への輸出が急増している。
タイは21年に世界から輸入される米国の自動車タイヤの22%以上のシェアを占め、再び米国のタイヤ貿易相手国のトップとなり、近年では中国のLinglong International Tire (Thailand)が最大の輸出企業となっている。
その一方で、米国商務省は韓国、台湾、タイ、ベトナムからの乗用車及び小型トラック用タイヤに対する反ダンピング関税命令を21年7月12日に発表した。米国国際貿易委員会によると最終的なダンピングマージンは、Linglong International Tire (Thailand) が21.09%、Sumitomo Rubber (Thailand)が14.59%、その他が17.06%となる。
この発表を受け、中国企業だけでなく、ASEANに拠点を移した他のタイヤメーカーも近い将来、米国市場での競争力が脅かされるリスクが高まっている。
反ダンピング関税措置の貿易障壁から逃れるため、中国のタイヤメーカーはASEANでも特にタイに工場を設立してきた。
彼らの存在はタイのタイヤ輸出能力を高めたが、最近の米国からの反ダンピング関税により、これらの中国企業は国内の補修タイヤ市場に焦点を当てたり、サプライチェーン管理を強化するなど、他の対策を模索する必要性に迫られている。
Momentum Worksは2016年創業のシンガポールのスタートアップ支援会社。ASEANのスタートアップ企業と投資家を結び付けるサポートのほか、ウェブ上で様々な分野の業界分析リポートを精力的に公開している。創業者兼CEOのJianggan Liは欧州経営大学院(INSEAD)でMBAを取得。英語と母国語であるマンダリン、広東語のほか、フランス語、スペイン語にも精通。過去にはEasy Taxyのアジアでの立ち上げにも携わる。
2016年にアリババが東南アジアのECプラットフォームLazada(ラザダ)を10億米ドルで買収して以来、中国からの投資は東南アジアのデジタル分野において焦点となっている。 個々の投資に関するニュースやプレスリリースが多い中、これらの背後にあるマクロ的な傾向は何なのか探ってみたい。
アリババのラザダ買収後、中国の多くのデジタル分野に注目する投資家にとって、東南アジアが本格的な存在になった。ラザダ買収発表の1ヵ月前、私は中国の北京にいたが、有名な投資家たちから1998年に起きた華人標的の暴動を引き合いに出して、「インドネシアはまだ反中国なのか」と聞かれたことを今でも覚えている。
2017年になって、ジャカルタの高級ホテルのロビーやモールは、ファクトファインディングやDD(デューデリジェンス)のために訪れた、中国語を話す投資家で既に一杯になっていた。
中国におけるデジタル経済の発展は、過去20年間で驚異的なものとなった。これは目覚ましい経済成長、インターネットアクセスの民主化(特にスマートフォン経由)、インフラの整備(決済や物流網など)など、さまざまな要因が重なって実現したが、特に豊かな資本と人材がこの発展を加速させた。
その結果、中国での競争はますます激しくなっている。初期のクーポン共同購入サービスから配車や食品デリバリー、そして今日のコミュニティグループバイ(地域的な集団購入)に至るまで、各分野ではベンチャー資金を提供する技術系スタートアップと上場している大手企業の両方が競争を繰り広げている。
このような熾烈な競争により、勝者も敗者も、資本も人材も、中国以外の場所に目を向けるようになってきた。国境を越えたデジタル投資はすべての地域で行われているが、中国と地理的、歴史的、文化的に近い東南アジアが特に注目された。
実は、中国の東南アジアにおけるデジタル分野への投資は、アリババのラザダ買収よりもずっと以前から始まっていた。
例えば10年、テンセントは当時ゲーム開発企業であったGarenaに投資し、Garenaは後にShopeeらを傘下に抱えるSea Groupへと姿を変えた。さらに、テンセントは音楽ストリーミングサービス「Joox」などを東南アジアに展開してきた。また、中国のいくつかのゲーム会社も東南アジアに進出している。
14年には、中国の大手ベンチャーキャピタル(VC)のGGVと最大級のオンライン旅行プラットフォームQunarが、当時東南アジアで新興配車サービスの雄であったGrabに投資した。その一年後には、中国の政府系ファンドであるCICが5億米ドルの資金調達を行い、Grabに出資している。
しかし、これらの動きは散発的であると同時に、非常に予定調和的なものだった。特定の分野に精通または関連する投資家が、東南アジアの同じ業種の既成企業に賭けるものだったからだ。
これらの投資の詳細な規模を把握することは困難だ。例えば、アリババは公表された40億米ドル以外にラザダにいくら投資したのか。インドネシアで創業した中国系EC物流企業のJ&Tは、新たに調達した18億米ドルを東南アジア事業にどれだけ振り向けているのか。
しかし、私たちは東南アジアに特化したVCであるCento Venturesとともに、ここ数年の追跡可能な投資を全力で追ってきた。
それによると、この3年間で東南アジアにおけるデジタル投資のうち、約10%に中国の投資家が参加していることが分かった。中国の投資家や企業は、東南アジアのデジタル企業の最大の買収者でもある。20年には、中国の投資家は52件の案件に資金を投入している(図表1)。
13年から20年までの中国企業によるASEANのデジタル企業の買収総額39億米ドルを追跡すると、投資国についても興味深い変化が見られる。ちなみに同期間、日本企業は同分野の買収に8億2200万米ドルを費やしている(図表2)。
13年の時点では、中国のデジタル投資はシンガポール、タイ、インドネシアの3カ国にほぼ均等に分散していた(図表3)。それが15年と16年には、マレーシアと地方の企業が注目され始めた。
20年になると、インドネシアとシンガポールがそれぞれ総投資額の約3分の1を占めるようになり、他の主要国の投資額は小さくなっている。これは中国の東南アジアへの投資が、さまざまな機会を求めて多様化していることを反映しているが、同時にシンガポールとインドネシアが依然としてほとんどの注目(と資金)を集めている事実でもある。
注目すべき成長セクターはフィリピンだろう。18年以前は中国の投資家からのデジタル投資はほとんどゼロだった。しかし、その割合は18年以降、着実に増加しており、20年には中国の投資家による東南アジアへの投資案件の12%を占めている。
分野としては、小売(ECやその他のデジタル対応の小売を含む)とデジタル金融サービスが活発的となっている(図表4)。
特にインドネシアでは、4大ECプラットフォームのすべてが、アリババまたはテンセントを最大または第2の株主としている(図表5)。
電子商取引の重要なエコシステムでもある電子決済にも注目が集まっている。
アリババ傘下のアントグループはマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンで電子決済の合弁会社を設立し、シンガポールではデジタルバンキングのライセンスを取得している。
中国の投資家によるデジタル経済の存在は、通常の投資統計には反映されていない部分も多いことに注意が必要だろう。つまり、中国で投資を受け、東南アジアで大きな存在感を示している企業だ。
複数のプレイヤーが敵味方に分かれて対戦するMOBAゲームで高い人気を誇るMobile Legendsなどのオンラインゲーム、TikTokなどのオンラインエンターテインメント、最近タイ、マレーシア、シンガポールで人気を博しているファストファッションブランドSHEINなどの国境を越えたEコマースなどがこのカテゴリーに入る。
新型コロナウイルスのパンデミックは東南アジア、その中でも特に非公式経済の規模が大きく、ワクチン接種の展開が遅れている国を中心に大きな打撃を与えている。
渡航できないことで、中国からのVC投資家は東南アジアのデジタルネイティブ企業への展開を遅らせた。しかし先述したように、全体的には20年も投資の流れは維持された。
具体的には、20年に始まって21年に加速している傾向がいくつか見られた。
1つ目は、中国のオフショアマネーのシンガポールへの流入。確実な規模や金額はおそらくわからないが、中国マネーを持つ家族企業やアセットマネージャーがシンガポールに進出するケースが増えている。また、シンガポールが中国からの訪問者の渡航制限を一方的に撤廃したことで、この傾向は加速している。
2つ目は、東南アジアのECのエコシステムが完全にブームになっている点。中国からの移民の起業家によって設立・運営されているSea Groupの傘下のShopeeは最大の恩恵を受けている。我々の推定では、インドネシアだけで142億ドルのGMV(流通取引総額)を達成し、トッププレイヤーとなった。
ECのブームにより、エコシステム全体への強気の投資が増えた。例えば、タイの中国人とアリババの幹部が設立したタイのEC物流企業Flash Expressは、タイ初のユニコーンとなった。今回のラウンドではタイの大規模な資本が主導したが、当初の投資家はほとんどが中国人だった。
また、国境を越えたEC、倉庫、イネーブラー(インフラなどの後方支援を主とする企業)、マーケティングやライブストリーミングの代理店など、他の部分にもさらなる投資が行われた。
ByteDanceは、今年初めにインドネシアでTikTokを使ったECのテストを開始し、現在は東南アジア各国でTikTokでの販売方法を教える活動を行っている。
3つ目は、B2BやSaaSなどのエンタープライズテック企業の拡大。以前から中国のAIやロボット関連の企業がシンガポールに進出していた。
4つ目は、中国の大手ハイテク企業がシンガポールに地域本部、あるいはグローバル本部を設置していること。
アリババの国際的な法律文書のほとんどは、シンガポール法人との間で締結されている。また、アリババは最近、Lazadaの本社を含む多くの子会社を置いている超高層ビル、AXA Towerの半分を購入した。
また、テンセントはシンガポールに大規模な拠点を開設し、積極的に採用活動を行っている。ByteDanceは20年に受けたトランプ米大統領(当時)が米国内でのTikTokの使用を禁止する大統領令を出すという地政学的な逆風に学び、国際本部もシンガポールに拡大。シンガポール人幹部のShou Zi Chew氏をシンガポールに送り込み、TikTokのグローバルCEOに復帰させた。
また、比較的規模の小さい中国のハイテク企業(評価額や時価総額が数十億ドル規模であるにも関わらず)の多くは海外での存在感を高めており、多くの場合、シンガポールに本社を置き、東南アジアからスタートしている。
今後も、これらの傾向は継続すると思われる。多少の逆風はあるかもしれないが、中国での競争や投資家からの期待により、資本、人材、企業が東南アジアに引き続き流入し続けるだろう。
投資概況・自動車・タイヤ分野取材協力
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THAIBIZ編集部
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