ArayZ No.119 2021年11月発行コロナと観光業 in タイランド
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カテゴリー: 特集
公開日 2021.11.09
目次
私が観光庁で働いている2005年からは言うまでもなく、30年以上観光庁で働いているようなベテランの方々も、タイの観光業はかつてないほどの大きな打撃を受けていると言います。
これまでもプーケット島の津波やSARS、中部地方の洪水、スワンナプーム空港閉鎖やバンコク封鎖など様々な危機を乗り越えてきましたが、コロナ禍の比ではありません。
例えば失業率はコロナ禍に入った2020年の第2四半期以降、それまでの倍にあたる1.9%、2%で推移しています。これだけ見るとまだ諸外国と比べて低く見えますが、観光業にいる私たちからすると、この数字は肌感覚とかなり離れています。
航空会社のキャビンアテンダントやパイロット、ホテルや旅行会社、土産物屋のスタッフの中には解雇されたり、自宅待機で給与が出なくなった人もおり、数字だけでは見えない深刻な状況にあると思います。
まず、新型コロナウイルスの低リスク国として、日本を含む63ヵ国・地域が対象となり、ワクチン接種完了者には検疫隔離が免除されます。入国時に受けるPCR検査の結果待ちのために指定ホテルで一泊(要事前予約)後は自由に旅行できます。旅行保険の補償額下限も10万米ドル以上から5万米ドル以上へと引き下げられました。
一方で、7月から始まったサンドボックス・プログラムは指定地域を17都県、地域に拡大され、世界の全ての国・地域からの渡航が可能となりました。こちらは、今まで通り指定地域内での7泊後、再度の検査で陰性であれば自由に国内旅行が継続できるというものです。
こちらのブルーゾーンでは、優先的に夜間外出禁止令など様々な規制が緩和されますので、旅行者にとってもより自由に行動しやすいエリアとなります。
今後の回復を何で測るかという意味で、タイの観光行政では大きな転換がありました。もうタイは旅行者の人数を基準とするのを止め、一人当たりの観光消費額に焦点を当てる方向に変わりました。
コロナ前からすでにオーバーツーリズムが社会問題化していました。どうすれば解消できるか考えていた中で、コロナ禍によって強制的に観光業がシャットダウンされてしまいました。
逆にこの機会を活かそうということで方針転換を図りました。オーバーツーリズムはいわゆる3密そのもので、避けられる傾向になるでしょう。これからは観光客の人数は減っても構わない、その代わり観光収入は減らさず、成長させていくという考えです。
具体的にはまず、レスポンシブルツーリズム(責任ある観光)やサステナブルツーリズム(持続可能な観光)がキーワードになります。環境問題や地域社会の生活文化などにも細やかな配慮をしていただける、またはそういった施策に協力いただけるクオリティの高いお客様に対してタイをプロモーションしていきます。
また、観光地においても地元の人を雇用し、地元の食材を使って付加価値を生み出そうとする業者を表彰し、視察旅行などでも優先的に紹介したりすることで、次の世代にも責任を持って持続可能な成長を目指します。
ハイバリューツーリズムはただ単に贅沢をしていただくというのではなく、様々なニッチマーケットとリンクしていく必要があります。
例えばダイビングやゴルフがお好きな方には年間何十万円、何百万円と惜しみなく費やす方々がいます。そういった富裕層でタイに直接興味がなくても、自分の趣味やアクティビティのためにタイに来ていただくようにするにはどうしたらいいのか。そういった研究を続けています。
世界的な傾向として、コロナ禍を経て健康、安全志向はますます強まっています。そして高齢化も進んで健康寿命に対する関心が高まっている中で、スポーツを趣味として楽しまれる方が増えています。例えば全体の人口は減ったとしても、マラソン人口は増えていくような状況はこれからも続くであろうと考えています。
アメージングタイランド健康安全基準(SHA)は新型コロナウイルスの感染防止策などにおいて、高い安全衛生基準を満たした業者に与えている認証です。
SHAは昨年6月からスタートし、ホテルやゴルフ場、レストラン、交通機関などタイ全土で既に1万7000件以上が認証されています。ウェブサイトでも確認することができ、この認証を受けている施設なら、安心してご利用いただくことができます。全従業員の70%以上がワクチン接種を完了した業者に与えられるSHA+も今年6月から始まっています。
観光立国を掲げている他国を見ても、タイのような認証の事例はあまりないのではないでしょうか。当初は海外から疑問の目も向けられていたのですが、今では日本などからもヒアリングを受けたりしています。
2019年にタイを訪れた外国人旅行者はASEAN、中国、その他アジア、欧米でそれぞれ約4分の1ずつと、均等に分配されています。一方、日本の外国人旅行者は東アジアだけで7割以上を占めています。そうなるとリスクマネジメントが難しくなります。
タイのバランスの良さは偶然ではありません。
マーケティングの専門家が集まる観光庁を中心にデザインをしたものです。国や気候の違いによって、オフシーズン・オンシーズンは全く異なります。国によって大きな偏りがあったり、時期によって観光客の人数にあまりに上下があると雇用の安定にもつながりません。
つまりバランスということを常に私たちは頭に入れて、観光庁が司令塔となって全世界にプロモーションを行っています。
その中でも、欧米市場のお客様が他国と比べて非常に多いのもタイの特徴です。
タイも日本も欧米の方々から見ればロングホール(長距離市場)で、地球の裏側から来ることになります。せっかく遠くに行くからには長期の休みを取り家族でリゾート地を訪れるなど、同じ人数でも消費する金額は他国の何十倍にもなります。
なぜ観光収入において物価の高い日本(19年世界7位)よりタイ(同世界4位)の方が多いかというと、欧米のお客様の多さがタイの強みの一つだからです。
これらが観光業の持続的な成長の上でも非常に大きなポテンシャルとなっています。
タイの観光商品の多様性は、私たちが迎え入れられるセグメント、つまりお客様の多様性にも繋がります。一つの例ではLGBTQ(性的少数者)の方々です。
LGBTQの方々は人口比で8~10%と言われています。共働きの状況にあるカップルも多く、彼らの消費力は無視できないものがあります。
タイの周辺国にも美しいビーチなどタイと似た観光資源を持っている国はあります。ただそれらの国では社会体制や宗教上の理由で受け入れられづらい中で、タイではLGBTQの方々を歓迎できるのは非常に大きな強みだと考えています。
LGBTQの方が情報収集するチャンネルでプロモーションをしたり、専用のウェブサイト(https://www.gothaibefree.com/)を立ち上げて情報発信をしています。その他にも、あらゆるチャンネルでハイバリューな方々に向けたプロモーションを仕掛けています。
私が入庁した当時、日本人観光客はすでに100万人を超えていましたが、中国人観光客は100万人に達していませんでした。それが今では中国人観光客は年間1,000万人以上(19年)になりました。
確かにマーケットシェアで見れば、かつて日本人が10%近く占めていた時と比べて、今では4%ほどに落ち込んだと言わざるを得ません。
ただ、日本人のボリュームが縮小しているわけではありません。観光収入、人数ともに成長を続けていて、19年には180万人の史上最高値を記録し、収入ベースでも欧米諸国など様々な国が競合する中で日本は4位です。観光庁が海外事務所を一国に3ヵ所(東京・大阪・福岡)も置いているのは、中国の他にありません。
これからタイがクオリティの高い観光客を得ていくためにも、タイにとって日本は引き続き重要な国として考えられています。
観光素材としては言い尽くせないほどの魅力があるので、あえてここでは語りませんが、一つ挙げるとすればやはり人の素晴らしさではないでしょうか。
どんなに綺麗な景色の国を訪れたとしても、そこで暮らす人々が魅力的でなければ、また行きたいとは思わないでしょう。嫌な目で見られたり、嫌な思いをしたりすると、なかなかその国を好きになることはできません。
タイにお越しいただく世界中の方々、特に日本の75%がリピーターです。これは1回では味わい尽くせない観光素材があるだけでなく、タイ人の人柄に魅了されているからではないでしょうか。タイの方は親切です。本当に困った時は自分の身を顧みず助けてくれます。
最終的にそこが一番の魅力だと思います。
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THAIBIZ編集部
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