ArayZ No.140 2023年8月発行2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来
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カテゴリー: 特集, 食品・小売・サービス
公開日 2023.08.09
新型コロナウイルスは世界中の消費者の価値観・行動様式に大きな影響を及ぼした。その影響は東南アジアのタイにおいても同様である。ロックダウンに伴う外出規制はEC利用を促し、社会全体としてデジタル化が加速し、不可逆なものとして定着した(図表1)。
また、タイの消費市場においても、Z世代という異質な価値観を持つ新たな世代の割合は年々増加しており、その影響は無視できなくなってきている。こうした世代構成の移り変わりも不可逆なものとして、大きな変化をもたらすのは間違いない。
こうした消費市場や業界構造の変化をどう先読みするか、これはどこの企業においても共通の経営課題だろう。本稿では、ASEAN諸国の中でも独特の変化が起きると見ているタイを対象として、2030年に向けて起こり得る変化を予測し、考察を進める。
詳細は後述するが、「分断」と「三極化」という大きな構造変化が起きるタイにおいては、日系企業であっても、これまでの延長線上でのビジネス展開では生き残りが困難になる可能性が高い。本稿が、この「変化」を「機会」と捉え、さらなる飛躍を目指す日系企業の一助となれば本望である。
目次
まずは、2030年の消費社会がどのようになっているのか、「世代」の観点から論じていきたい。本稿では、特に影響が大きいZ世代に焦点を当てて考察していく。
Z世代のタイ消費市場における影響力を量的観点から見てみる。一定の購買力を持つ18歳以上に占めるZ世代割合は2022年時点で14%、800万人程度(Z世代は18~26歳)。それが2030年時点では25%に拡大し、Z世代は約2倍の1,500万人規模となる。この時のZ世代の年齢は18~34歳であり、一人一人の購買力もさらに高まっており、無視できないセグメントとなってくる(図表2)。
では、Z世代とはどのようなセグメントなのか、消費者の価値観を世代間で比較することで、質的観点からZ世代の特徴を明らかにしていきたい。我々、ローランド・ベルガーは東南アジア各国を対象に定期的に消費者調査を行い、消費者の実態・トレンドを継続的に分析している。RBプロファイラーという独自ツールを活用し、抽象的な概念で取り扱いが難しい「価値観」を定量的データに基づき可視化することで、ブランドマネジメントに関するアドバイスもこれまで数多く実施してきている。
今回はこのツールを用いてタイにおける消費者の世代ごとの価値観の違いを可視化した。もちろん、各世代の中にも価値観が異なる多様な消費者セグメントが存在するが、本稿においては概観として世代ごとの違いを捉えてみたい。消費者が持つ普遍的な19の価値観に基づき、消費性向の高/低、情緒的/合理的の度合、をスコアリングし、2軸でプロットした結果が次の図表3である。
「Z世代」は、消費性向がやや高く、情緒的な価値観を特に重視する点が特徴である。友人・仲間を大事にし、SNSを通じて常に流行りのモノ・コトを追いかけ、自ら好んで発信・表現もする、いわゆるソーシャルアクティブと言われる層が中心だ。流行っているから、周りが使っているから、といった理由でつい購入してしまうことも多い。
また、「本物かどうか(Authenticity/真正性)」も重視する傾向があるため、フェイク品もまだ一定量存在するタイにおいては、信頼できるインフルエンサーや友人の評価・コメントを通じて、真贋を見極めている。
加えて、地球環境や倫理観への問題意識が強い層が多く存在する点も特徴的だ。彼・彼女らは、サステナビリティや多様性に配慮したブランドを選び、オーガニック製品を好む。社会的なあるべき基準を押し付けられることを嫌い、等身大の自分で生きることについての意識が高い。このように、多様かつ情緒的な価値観を持っている点がZ世代の特徴である。
一方で、「ミレニアル世代」は対称的に非常に合理的な価値観を持っている。モノ・サービスの品質は良いか、コスパは良いか、というわかりやすい価値観である。タイの消費者はコスパを重視し、良品廉価を求める、と従前言われており、まさにタイの消費者像を代表する世代と言える。
消費性向は「ミレニアル世代」から「X世代」や「シニア世代」と年齢を重ねるにあたり、徐々に低くなっていくが、品質や価格という合理的な価値観を重視する点が共通しているのが「これまでのタイ消費市場」であった。合理性と対極に位置する情緒性を重視するZ世代をいかに理解し、価値観に合わせていけるかが「今後のタイ消費市場」で非常に重要になってくる。
例えば、タイの国民的コスメブランドのMISTINEは、高品質な製品を手頃な価格で提供することで、タイの幅広い世代から人気を博していたが、Z世代からの支持は低かった。MISTINEは、Z世代の価値観に合わせ、これまでの「Beauty standards」を崩し、「Natural(ありのままの美)」や「Real」といった価値訴求にシフトさせた。実際に広告には、一般の女性、さまざまなな体形・容姿の人を起用し、商品ではユニセックスなデザインを拡充させ、Z世代からも支持を獲得することに成功している。
続いて、これまでのタイ消費者とは異質な価値観を持つZ世代、その行動様式が他の世代とどのように異なるのか、ソーシャルメディアの利用実態の観点から見ていく(図表4)。
Facebook、YouTube、LINEの利用率はどの世代でも90%以上と共通して高い一方で、InstagramとTikTokについてはZ世代の利用率はそれぞれ87%・76%を誇り、他の世代と比べても突出して高い。参考までに総務省のレポートによると、日本の10代・20代のInstagram利用率はそれぞれ72%・79%、TikTok利用率は62%・47%であることからも、タイZ世代の利用率の高さがうかがえる。
アプリの利用率だけでなく、利用時間も長い。Instagramを1日に2時間以上利用するユーザーの割合は、ミレニアル世代の25%に対し、Z世代は38%。同TikTokにおいては、ミレニアル世代の41%に対し、Z世代は53%。Z世代はヘビーユーザーの割合も高く、可処分時間のうち多くをInstagramやTikTokに費やしていることになる。
タイZ世代のInstagram利用目的の1位は、「写真・動画の投稿(58%)」であり、過半数のユーザーが自分自身に関する情報(体験・意見)を能動的に発信している。
タイ大手通信キャリアのAISでは、こうしたZ世代の行動特性を踏まえた動きを見せている。マス広告に不向きなZ世代を取り込むべく、同世代のInstagramインフルエンサーを組織化しブランドアンバサダーに任命することで、Z世代とつながるための顧客接点として活用している。さらに、タイで初めてメタバース・ヒューマン(バーチャルインフルエンサー)をブランドアンバサダーに任命し、彼女のInstagramアカウントを通じてブランドの先進性を訴求しながら、顧客との新たなつながりも構築している。
こうしたインタラクティブな顧客接点は、「ブランドへのエンゲージメント向上」だけでなく、「Z世代の趣味嗜好・ライフスタイルの深い理解」にも活用可能だ。吸い上げた顧客の課題・ニーズを踏まえ、2022年にはZ世代向けにテーラーメイドした通信プランを新たに提供開始している。
通信キャリア業界において、価格・つながりやすさといった基本的な提供価値での差別化が難しくなってきている中、Z世代の価値観・行動様式を理解した上で、「ブランドの先進性」や「ライフスタイルに合ったテーラーメイド」といった価値訴求で、Z世代のさらなる獲得に取り組んでいる。
ArayZ No.140 2023年8月発行2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来
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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート
17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand
Website : https://www.rolandberger.com/
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