THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略
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カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, ビジネス・経済, 特集
公開日 2025.10.10 Sponsored
目次
バンコクから北に約140km、サラブリー県の緑豊かな森林の中に突如現れる廃タイヤの山と整然と並ぶタンク群。ここは、熱分解リサイクルを手がけるパイロエナジーのサラブリー工場だ。
廃タイヤは適切に熱分解処理することで、産業界が求める再生資源へ生まれ変わる。ここでは、タイにおける熱分解リサイクルの最前線と、同社のQC/QA/R&Dマネージャーのワチラウィット・チャイランカー氏のインタビューを通じて、タイヤのサーキュラーエコノミーの道筋を探る。
熱分解リサイクルとは、廃タイヤを無酸素状態で加熱し、ゴム成分を分解することで分解油やCharなどの再生資源を生成するリサイクル方法だ。
無酸素状態での加熱により有害ガスの発生を大幅に抑制し、環境負荷も低減できる。タイヤに限らず、プラスチックやバイオマスなど炭化水素系の物質であれば熱分解が可能で、カーボンニュートラルや資源循環の観点から、近年注目を集めているリサイクル技術の一つである。
ワチラウィット氏によると、自転車や自動車からトラック、航空機、スカイトレイン、地下鉄まで、ほぼ全てのタイヤが熱分解可能だという。実際に今回訪問したサラブリー工場の廃タイヤ置き場には、熱分解処理を待つ大小さまざまなタイヤが山積みされていた。
パイロエナジーでは現在、熱分解工場3ヵ所、倉庫2ヵ所を有し、従業員はグループ全体で約260名。その中でもサラブリー工場が最も設備が充実した先端工場だ。
「タイでは年間70〜80万トンの廃タイヤが発生している。われわれは、タイ全土に廃タイヤの回収網を持っており、サラブリー工場とナコーンラーチャシーマー工場の2工場合わせて処理能力は年間約10万トン。カンチャナブリー工場の処理能力は年間3〜4万トンだが、現在増設中の工場が完成すれば、年間15万トンまで拡大する予定だ」とワチラウィット氏は説明する。
廃タイヤの熱分解リサイクルでは、まず集荷した廃タイヤのサイドウォールを切断し、熱分解炉で380〜650度で約8時間加熱する。同社の熱分解炉では1基あたり10トンのタイヤを処理可能だ。
熱分解処理で生成される主な製品は、①タイヤ熱分解油(TPO)、②Char、③スチールワイヤーの3つである。TPOは安価な代替燃料として需要があり、同社では主に鉄鋼やガラス、製紙メーカーの産業用燃料として供給している。
また石油と比較して硫黄含有量はおよそ半分で、温室効果ガス(GHG)排出量も化石燃料と比べ35%少なく、環境への負荷を抑えたクリーン燃料でもある。Charは石炭の代替燃料として主にセメント産業に供給し、スチールワイヤーは再生鉄の原料として鉄鋼メーカーに供給している。
さらに副産物として生成される合成ガスは工場内のエネルギー源として再利用されており、同工場ではほぼ廃棄物ゼロのサーキュラー運営を実現している(図表2)。
TPOは代替燃料としてすでに広く流通しているが、さらに蒸留・精製工程を経ることで、軽留分(LTPO)、中留分(MTPO)、重留分(HTPO)に分けられる(図表3)。
軽留分はナフサに相当し、石油化学の原料としての使用を検証中。ナフサの誘導品であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)や溶剤などの用途への利用が可能となり、プラスチックやタイヤ産業などへの販路が見込まれる。
中留分はディーゼルや船舶燃料、持続可能な航空燃料(SAF)としての利用が期待される。そして重留分は、カーボンブラック原料(サステナブルカーボンブラック:sCB)およびボイラー用燃料などの代替燃料として利用が可能だ。同社では、これらの付加価値の高い製品の生産計画を進めており、サラブリー工場内に新たに精製所を建設中で、来年の稼働を目指している。
一方、Charを精製して不純物を取り除いた再生カーボンブラック(rCB)は、タイヤ原料としての利用が見込まれる。「タイヤは天然ゴムと合成ゴム、カーボンブラック、その他原料で構成されているが、その中でカーボンブラックと合成ゴムが全体の約60%を占め、タイヤ製造において不可欠な補強材である。
現在われわれが製造しているrCBは不純物が多いため改良中だが、将来的にはサステナブル原料の切り替えを進めるタイヤメーカーへ供給していきたい」とワチラウィット氏は展望を語る。
このような付加価値の高い製品開発が進めば、阪和タイランドとパイロエナジーが目指す「タイヤtoタイヤ」のみならず、さまざまな化学製品の原料として資源循環されていく可能性が広がる。
ケミカルリサイクルで資源循環を加速させるには課題も残る。ワチラウィット氏は「課題はたくさんあるが、生産効率化と競争力の向上、そして市場の変化への対応こそが最大のチャレンジだ」と語る。
まず課題となるのは生産コストの削減である。人員や工程を最適化し、ムダを省くことが、競争力を高める前提条件となる。加えて、付加価値の高い製品を開発するには、さらなるノウハウや技術力が問われるため、外部パートナーとの協業も模索中だ。
一方で、原料(廃タイヤ)の安定調達は事業運営の要である。同氏は「原料を十分に確保できれば、新しい市場や用途への展開など挑戦の幅も広がる」と説明する。実際、同工場では約2ヵ月分の廃タイヤをストックし、供給リスクに備えている。
さらに、国際市場の動向も見逃せない。環境規制やリサイクル基準は日々変化している。「タイヤメーカーが直面する課題を理解し、市場のニーズに沿った製品を提供することが鍵になる。阪和タイランドとの協業により、日本や欧州の先進市場のトレンドを積極的に取り込みながら、さらなる成長を目指している」と同氏は意気込みを見せる。
廃タイヤを価値ある資源へと変える挑戦は、まだ進化の途上にある。しかし、その挑戦こそが、サーキュラーエコノミー実現への道筋となるだろう。
ワチラウィット・チャイランカー氏
(Mr. Wachirawit Chailangka)
Pyro Energie Co., Ltd.
QC/QA/R&D Manager
THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック
THAIBIZ編集部
岡部真由美
THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート
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