THAIBIZ No.166 2025年10月発行廃タイヤが未来を動かす ー 阪和タイランド×パイロエナジーの資源循環戦略
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カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, ビジネス・経済, 特集
公開日 2025.10.10 Sponsored
目次
タイでは年間60万トンを超える廃タイヤが発生しているが、その処理は民間主導にとどまり、体系的なリサイクル制度は未整備のままである。
一方で、世界的なサステナビリティの潮流で今後リサイクル原料の需要はますます高まることが予想される。タイ工業連盟(FTI)ゴム産業グループ副会長ブンハーン・ウーウドムイン氏にタイの廃タイヤリサイクルの現状と課題、今後の発展の見通しなどについて話を聞いた。
タイは、年間500万トンを超える天然ゴムを生産する世界最大の天然ゴム生産国である。自動車産業が盛んなタイでは、世界的なタイヤメーカーが製造拠点を構え、天然ゴムの国内消費の大半はタイヤの原料として利用されている。その豊富なゴム資源は、タイのタイヤ産業の競争力を支える一方で、天然ゴム全体の約85%は未加工や半加工品のまま輸出されており、国内消費はわずか15%程度にとどまる。
こうした状況に対し、ブンハーン氏は「タイのゴム産業全体の付加価値を高めるためには、原料輸出中心の構造から脱却し、世界的なサステナビリティの潮流に即した、廃タイヤリサイクルや資源循環の仕組みを確立することが不可欠だ」と指摘する。
タイと先進国の廃タイヤリサイクルには制度的に大きな違いがある。「欧米や日本などの先進国では、政府が廃タイヤの回収・リサイクルを義務化しており、タイヤメーカーに生産者責任を法的義務として課している。そのため、タイヤメーカーは高度なリサイクル技術や設備への投資を進めている」とブンハーン氏は説明する。
例えばドイツでは、廃タイヤを粉砕してゴム粉に加工し、新たなタイヤ製造の原料として再利用する技術が確立されている。一方、タイでは強制的な回収制度は存在しておらず、廃タイヤリサイクルは民間レベルでの取り組みにとどまっている。
乗用車用の廃タイヤは、セメント工場で燃料として焼却されるか熱分解処理に回され、トラック・バス用の廃タイヤは2〜3回のリトレッド(摩耗したタイヤのトレッドを新しいトレッドに張り替えて再生利用すること)の後、粉砕されアスファルト舗装材や建材などの原料、もしくは代替エネルギー源として利用されている。
このように、タイでは廃タイヤの部分的なリサイクルは行われているものの、新たなタイヤ製造の原料として資源循環させる段階には至っていない。「国の規制枠組みは、各国のリサイクル技術の発展方向を左右する重要な要素だ」とし、同氏は法整備の早期な対応の必要性を強調する。
「タイでは廃タイヤリサイクル事業への関心が高まりつつあり、熱分解油やカーボンブラックといったリサイクル原料への需要拡大や、大手タイヤメーカー各社の環境目標(図表4)などを背景に廃タイヤのリサイクル市場は成長している」と同氏は語る。
特に熱分解技術は廃タイヤリサイクルにおける将来有望なイノベーションとして注目されている。熱分解処理により生成される熱分解油やカーボンブラック、ガス、鉄などの物質は、産業界で需要のある付加価値の高い資源へと再生できるためだ。
一方で、「熱分解技術は経済面と環境面の両側面で大きな可能性を秘めているものの、現時点では設備投資コストが高い点が普及の壁となっている」と同氏は指摘する。その上で「法制度や政府の支援策によるコスト削減が進めば、タイはASEANでの『タイヤリサイクルハブ』としての地位を確立できるだろう」と展望を示した。
米国の追加関税(いわゆるトランプ関税)は、タイのタイヤ輸出に大きな影響を与えている。乗用車用タイヤは25%、トラック用タイヤは19%の関税が課され、米国の輸入業者はタイヤメーカーに価格の引き下げを求めるようになっている。
こうした外部要因に対して、同氏は「技術革新や効率化による構造的なコスト改善が不可欠だ。対応を誤れば、タイが持つ生産拠点としての優位性を失うリスクもある」と警鐘を鳴らす。
さらに同氏は、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済やカーボンニュートラル、電気自動車(EV)普及の潮流にも言及し、「EV用タイヤは高トルク対応などの高性能化が求められている。同時にタイヤ業界ではリサイクル原料を活用した製品の需要も拡大している。こうした市場変化は、廃タイヤリサイクルの推進にとって追い風となる」と語った。
これらの課題と機会を踏まえ、タイの廃タイヤリサイクルを推進するために、ブンハーン氏は次の3つのポイントを提言する(図表5)。
第一に、政府は廃タイヤの収集から品質管理、再利用までを包括的に管理する法律や制度を整備する必要がある。第二に、リサイクル原料の品質向上や技術開発を国際基準に沿って進めることが求められる。第三に、サプライチェーン全体で自動化や先端製造技術を導入し、競争力を高めていく必要がある。
今後の焦点は、熱分解で得られる生成物の品質向上と付加価値の最大化である。同氏は「大学や研究機関と連携し、実用化を加速させることが重要である。さらに大手タイヤメーカーやグローバル企業がリサイクル原料の使用比率を引き上げれば、タイ国内でのリサイクル投資は拡大する」と述べ、「リサイクル技術を効率的に発展させることができれば、タイのタイヤ産業は単なる生産拠点にとどまらず、持続可能な循環型経済を後押しする存在になれるだろう」と締め括った。
ブンハーン・ウーウドムイン氏
(Mr. Boonharn Ou-Udomying)
タイ工業連盟(FTI)ゴム産業グループ副会長
THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック
THAIBIZ編集部
岡部真由美
THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート
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