タイ側のニーズに対応し「未来を共に創る」 ~JBICバンコク、宮口首席駐在員インタビュー

タイ側のニーズに対応し「未来を共に創る」 ~JBICバンコク、宮口首席駐在員インタビュー

公開日 2024.08.07

日本の政策金融機関として、日本と国際経済社会の発展に貢献する株式会社国際協力銀行(JBIC)。日本輸出入銀行からスタートしたその歴史は70年以上にわたり、2012年に日本政府が全株式を保有する「株式会社」として新発足したことは記憶に新しいでしょう。JBICは2024年6月に第5期中期経営計画を発表し、「『先導』と『共創』:世界の課題解決を『先導』する。未来を『共に創る』。」をスローガンに掲げました。日タイ関係が徐々に変化しつつある今、JBICが担う役割と目指す未来とは。JBICバンコク駐在員事務所の宮口知之首席駐在員に話を伺いました。

<聞き手=mediator ガンタトーンCEO、THAIBIZ編集部>

JBICバンコク、宮口首席駐在員インタビュー01
JBICバンコクの宮口首席駐在員(左)、mediatorのガンタトーンCEO(右)

資源の安定確保や日本の産業の国際競争力の維持・向上を通じて国際経済社会の発展に貢献

Q. ここ数十年で3回の組織編成を経験したJBICだが、現在の役割と機能について

1950年に設立された日本輸出入銀行(輸銀)が、1999年に海外経済協力基金(OECF)と組織統合し「国際協力銀行(JBIC)」となりました。その後、さらなる組織再編を経て2012年、株式会社日本政策金融公庫(JFC)から独立して「株式会社国際協力銀行」として発足し、今に至ります。

繰り返しの組織編成により分かりにくい部分もあると思いますが、シンプルに表現すれば、現在のJBICは主に輸銀の事業を継承しつつ、発展させてきた組織です。「日本にとって重要な資源の開発および取得の促進」「日本の産業の国際競争力の維持・向上」「地球環境保全を目的とする事業の促進」などの分野において業務を行い、日本および国際経済社会の健全な発展に貢献することをミッションとしています。具体的には、日本企業や日系現地法人の機械・設備や技術等の輸出・販売を対象とした輸出金融、資源等の重要物資の輸入のための輸入金融、日本企業の海外投資事業に対する投資金融など、さまざまな金融スキームを用いて日本企業を総合的に支援しています。

バンコク駐在員事務所は、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマーを管轄していますが、現在は、人口が多く経済規模が大きいタイでの活動が中心です。現地の日本企業の方々や国際機関、タイ政府機関と協力しながら案件形成を行っています。なお、JBICの国・地域別出融資承諾件数の推移を見ると、2015年以降は継続的にタイが首位を維持しています。

Q. 融資先を増やすために、どのような取り組みをしているか

2012年の新JBIC発足後、2015年頃にかけて、中堅・中小企業向け融資承諾件数の急激な増加が見られました。背景にはさまざまな要因があると思いますが、一つには全国の地方銀行等との連携を強化したことがあるでしょう。中堅・中小企業の海外事業展開に伴う融資に関するJBICへの問い合わせは主に地方銀行経由であることから、全国の地方銀行を訪問し、取引先企業が抱える困りごと等についてヒアリングを行う取り組みに注力したことが、融資承諾件数の増加に繋がったのかもしれません。また、この頃から全案件についてプレスリリースを出すようにしたことで、ニュースに掲載されることも増えました。こうした地道な取り組みが、認知度の拡大を加速させ融資承諾件数の増加に至ったのだと思います。

JBICバンコク、宮口首席駐在員インタビュー02

中堅・中小企業に向けた融資で海外事業展開を支援

Q. タイにおける中堅・中小企業の海外事業展開支援について

タイ進出、サプライチェーン多様化への対応、そしてタイでのビジネス拡大を目指す中堅・中小企業に向けて、民間金融機関との協調融資による支援を行っています。M&A向け融資や輸出金融、出資などといった多様な金融メニューがあり、支援先企業のニーズにより使い分けています。

日本の政策金融機関であるという性質上、支援対象は原則として日本企業が関与する事業に限定しています。投資金融であれば、原則として日本企業が3割程度出資している事業が融資対象となります。例えば、タイへの製造業企業の新規進出にあたりタイ企業との合弁の形を取るケースでは、「タイ企業51%、日本企業49%」といった出資比率が多く見受けられますが、この比率でしたら問題なく、融資対象となりえます。

Q. 中堅・中小企業に向けた融資方法の特徴は

「民業補完」が原則であり、地方銀行など、支援先企業のメインバンク等と分担して融資を行うことが特徴の一つです。例えば、支援先企業が海外で事業を拡大したい場合、現地通貨での対応が難しい地方銀行に代わって、JBICがクロスボーダーで現地通貨での融資を行います。JBICの融資割合(中堅・中小企業向け)は所要資金の7割が上限ですので、残りの3割は民間金融機関から調達していただくことになります。また、個別融資のみならず、支援先企業とJBICとの間に民間金融機関やファイナンスリース企業を挟む「ツー・ステップ・ローン」の支援スキームを活用することもあります。

JBICを活用いただく際のメリットとしては、貸付利率の優遇制度を利用いただけること、政府系機関を含むタイでのネットワークを活用した問題発生時の支援を活用いただけること、バーツ建ての融資が可能なため為替リスクの回避に繋がること、などが挙げられます。また、タイと日本の二国間租税条約に基づき、JBIC融資の利払いにかかる源泉税が免除される点も広義では利点と言えます。

Q. タイにおける融資件数の多い業種は

明確な数字は出していませんが、現状では最終的に自動車生産につながる事業への融資が多い印象です。例えば、樹脂の成型、金属加工、シートベルト部品やバックミラーなどの製造です。加えて最近では、タイの市場を狙ったペット用品や衛生用品の製造・販売事業への融資も増えています。件数としては少ないのですが、飲食店への融資実績もあります。業種の制限は特に設けていないため、幅広い領域で融資させていただいています。

2023年のタイ向けの中堅・中小企業支援件数は24件で、融資承諾額の合計は18.6億円です。平均すると1件あたり1億円以下と、決して大規模融資ばかりではないことが分かります。

「有望事業展開先国・地域ランキング」でタイは6位

Q. 2023年末にJBICより発表された「中期的な有望事業展開先国・地域ランキング」におけるタイの順位について

JBICは1989年より毎年、日本企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望について日本の製造業企業にアンケート調査を行っています。その結果に基づいて作成した「中期的な有望事業展開先国・地域ランキング(2023年)」では、タイは、2017年以降継続して上回っていたインドネシアに抜かれ、前年度の5位から6位に転落しました。総論としては、タイを含む上位6ヵ国と下位国との差は大きく開いており、この二極化は例年通りの構造です。また、首位インドと2位ベトナム以下の差は大きく拡大し、この点が2023年の特徴と言えます。

Q. 調査結果から分かるタイ近隣国の現状について

同ランキングで首位となったインドは、有計画率が昨年度調査と比べて8ポイントアップしました。「期待値が高い国」といったイメージ先行型の評価から脱し、具体的な事業展開が見られる段階に来たとJBICでは考えています。有望理由では「現地マーケットの今後の成長性」の割合が最も大きく、幅広い業種からバランスよく支持されていることが特徴です。

初の2位となったベトナムは、有望理由では「安価な労働力」の割合が最も多く、「優秀な人材」の割合が上がっています。ベトナムを中国に代わる生産拠点として捉える企業も増えているようです。5位のインドネシアは、有望理由として「現地マーケットの今後の成長性」の割合が最も多く、「組み立てメーカーへの供給拠点」の割合も増えました。同国は資源輸出国として古くから多くの投資を受け入れてきましたが、2.7億人という人口規模と経済成長に伴う国内市場の拡大により製造業企業からの注目も高まっていると思います。

JBICバンコク、宮口首席駐在員インタビュー03

一歩先の未来を、日タイで創っていく

Q. 日タイ共創の未来に向けて、JBICとして貢献したいこと

タイ政府・企業の日本に対する期待は変わってきていると肌で感じています。タイではこれまで日本の技術と公的なファイナンス支援に期待が寄せられていましたが、現在は資金力や技術力がある程度備わったタイ企業が増え、共に新しい価値を生み出す協業パートナーが求められていると思います。日本企業としては「選ばれる努力」が必要な段階に来ている、と言えるでしょう。

一方で、ヘルスケアや脱炭素の分野では日本の経験値や技術力に優位性があり、協力を期待される場面もまだ多いと思います。また、農業残渣を活用したバイオ燃料やバイオマス発電、廃棄物処理といった領域では日本企業とタイ企業との連携可能性も非常に高いと考えています。大切なことは、タイ側のニーズを確実に把握し、それに応じた協業を継続していくことではないでしょうか。

JBICは2024年6月、第5期中期経営計画を策定しました。「『先導』と『共創』:世界の課題解決を『先導』する。未来を『共に創る』。」をスローガンに掲げ、「持続可能な未来の実現」など4つのテーマで具体的取組目標を設定しました。例えば、最近では再生可能エネルギーの利用拡大が目指されている発電分野においても、今後は水素や蓄電池といった新たな領域に取り組みが移り変わっていく可能性があるでしょう。そこにはまた、きっと日本の技術が求められる場面も多くあるはずですが、「そうなってから」ではなく、今からその未来を見据えて日タイが協業し、準備していくことが大切、という考え方です。それを「先導」する取り組みにJBICは政策金融機関として関与し、協業を加速させる役割を担いたいと考えています。一歩先の未来を、日タイで協力しながら創っていくことが、私たちの目指すゴールです。

THAIBIZ編集部

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